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【映画レビュー】9人の翻訳家 囚われたベストセラー


『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(きゅうにんのほんやくか とらわれたベストセラー、Les traducteurs)は、2019年のフランス・ベルギーのスリラー映画である。
ざっくりとしたストーリーは世界的なベストセラー本「デダリュス」(作者は世は明かされていないオスカル・ブラックという人物の設定)の最終章(完結編)の各国語の翻訳を9人の翻訳家たちによって行われることになった。
本の流出を恐れた出版社が翻訳家たちをフランスの洋館にカンヅメにする。SNSの使用は禁止、一切口外できない環境のもとフランスの洋館にて翻訳作業が行われる。
ところが、本の一部がインターネット上に流出してしまう。出版社は混乱し、犯人探しが始まる、というストーリーだ。
多少ネタバレになるが(犯人の名前は明かさない)犯人はいるっちゃいる。
が、この作品は、犯人探しと言うよりも、人間の欲と、資本主義への警鐘という観点で見たほうが面白い。というのが私個人の感想である。
映画「パラサイト」に近いものを感じた。
だからジャンルとしてはスリラー映画なのだろうが、犯人探し、推理感覚で見たい人は少々期待外れかもしれない。
そして、結論から言うと二度見ほうがいい。
話が時系列で展開されていないため、最初はストーリーについていくのに必死で(私の場合)登場人物のセリフなどを細かく見る余裕がない。(正直途中でつまらなくなり見るのをやめようかと思ったが結果的に最後まで見てよかった、そして2度見る羽目になった)
2度目は、登場人物の発言や行動が繋がり、深く入り込んで見れるだろう。

9人の翻訳家をはじめとする登場人物たちの生き方はさまざまだ。
本来は文学を愛していたであろう彼らも、ライスワークとして割り切っているもの、文学に対して真摯に向き合っているもの、折り合いをつけて生きているもの。という観点からみるとそれぞれの文学に対する想いが見えてきて面白い。
翻訳家の1人、アレックスが発する「お前自身が持っているものは何か?」(セリフは完全一致ではない気がするがだいたいあっていると思う)は、印象的だった。
私たちは、お金、ステイタス、持ち物などで自分の価値を決めてしまっていないだろうか。
それらすべてを失ったとき、私たちは何も持っていないという事に気づかされる。
だから「俺はお前から奪うものなど何もなかったのだ」というセリフに込められたメッセージは知性や想像力は金では買えない、奪えないのだというのをことを強烈に訴えかける。
かの有名なウォーレンバフェットの名言で、「自分に投資すれば他のだれからも奪われることはない」と言った発言と近しいものを感じた。
私たちの周りは、物に溢れている。
それら全てを失った時「あなた自身が持っているものは何か?」

見失わずに生きていきたいものである。


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