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「関西女子のよちよち山登り 2.国見山~交野山」(2)

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 津田駅から三十分かけ、ようやく登和子は国見山登山口に到着した。登山口は第二京阪の歩道沿いにあり、『国見山登り口』と書かれた看板が柵にかけられている。

「やっと着いた……ここがまだスタートなんて信じられへん」

 登和子はぽそぽそ独り言をつぶやきながら歩き出した。

 ゆるやかな階段を登っていく。途中、普段着の中年の女性や、柴犬を連れたおばあちゃんとすれ違った。靴は登山靴ではなくぺたんこの婦人靴やスニーカーだ。国見山は、近所の人が散歩などで気楽に立ち寄る場所のようだ。

 ゆっくりゆっくり。心で唱えて意識しながら足を運ぶ。

 今回の国見山・交野山登山は、前回の失敗を踏まえたリベンジ登山でもある。

 前回の金剛山登山を終えたあと、ひどい筋肉痛に苦しみながら、登和子は自分の登り方を猛省した。

 登山時の歩幅はなるべく狭くし、ゆっくり一定のペースで歩かなければすぐに息切れする。ガイドブックの<登山編>にそう書かれており、一定のペースはともかく、登山では普段と歩幅まで違うのだとびっくりした。

 また、ザックへの荷物の詰め方や、飲み物やおやつの量、飲食するタイミングなど、登和子が合格ラインに達しているものはほとんどなかった。

 登りの道が終わり、整えられた平坦な道に出る。

 遊歩道のようにまっすぐなその道の左手に、山に似つかわしくない、白く大きな建物の壁面が現れた。間にフェンスが立てられており、登山道に平行してしばらく白い壁が続いている。

 どこかの企業の研究所?

 登和子が疑問に思っていると、今度はこちら側を向いている、白とグレーの四角い建物が見えた。壁面に『仁丹』と書かれた赤文字の看板が掲げられている。

「仁丹ってあの仁丹?すごい!」

 意外な場所で有名企業の名前を見つけたことに、登和子は小さな宝物を発見したようなうれしい気持ちになった。

 さらに歩いて行くとT字路に突き当たった。左から登山者が下りてきたので、そちらに進む。

 ここから山道らしい道になったが、相変わらず傾斜は緩い。

 途中、等間隔で美しく並ぶヒノキの木立があり、思わずスマホで写真を撮る。

 ヒノキという木は、自然とこのようにきれいな生え方をするものなのだろうか。そうだとすればすごい……とぼんやり考えながら歩いていた登和子だが、すぐ「違うわ」とつぶやいた。

 これは、林業を生業にする人たちがていねいに手入れしているからこその光景だ。

 普段はあまり意識しない職業の人たちの仕事ぶり、職人技に、登和子は素直に感動した。

 しばらくすると道の右手に階段が見えた。手すりに『頂上』と書かれた小さな看板が取り付けられている。
 急ぎたくなる気持ちを抑え、努めてゆっくり階段を登っていった。

サポートいただけたら、もれなく私が(うれしすぎて浮かれて)挙動不審になります!よろしくお願い致します!