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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(3)

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 展望スポットを後にして階段を下りると、別の登山道と合流した。先ほど見た街の方から伸びてきた道が目の前を横切っている。歩き出し、しかしすぐに立ち止まった。

 音がする。

 がささ、がささと、ゴミ袋に物を押し込んでいるような音が不規則に続く。

 登山道の左手にある斜面から聞こえてくるようだ。

 草が生い茂っているから、ボランティアの人が草刈りをしているのかもしれない。

 何の気なしに斜面を見上げ、登和子は息を呑んだ。

 そこに人影はなく、斜面の高く遠い位置に四つ足のシルエットが距離を置いて二つあった。

 かなり大きい。大型犬と同じかもう一回り大きいくらいの、さつまいものような形をした影は、夢中になって鼻先を草に突っ込んでいる。そのたびにがささ、がささと音がした。

 あ!と出そうになる声を必死でこらえる。


 多分、イノシシだ。


 “イノシシに注意”の看板はこれまでの登山中に何回も見かけたが、まさか本当に出くわすとは思わなかった。

 気づかれないように、そっとその場を離れる。音がしないように細心の注意を払い、大分離れてから走り出した。


――大きかった。しかも二頭いた。


 荒い呼吸をしながら、見つからなくて良かったと安堵した。
 街に近い人気のハイキングコースでも野生動物と遭遇することがあるのだ。まったく油断していた。

 暴れ狂う心臓の音が、体中に反響してなかなかおさまらない。

 摩耶山の頂上は展望広場になっていた。広場の中央あたりに「掬星台」と書かれた看板が立っている。

「……摩耶山山頂、ではないんやな」

 少し疑問を感じたが、そういうこともあるだろうと深く考えず、とりあえず看板を撮影した。

 ぐるりと広場を見渡すと、看板の正面、広場の向こうに人々が集まっている。登和子もそちらに向かった。

「わ!」

 思わず声が漏れる。

 そこは掬星台の南端にあたる場所で、神戸の街と海はもちろん、東側に続く街並みや、さらにその先にある山々も一望できた。

 東側には大阪がある。もしかしたら自分の家のエリアが見えるかもしれないと、じっと目を凝らして見当をつけようとした。

 すごいなあ、すごい。

 ここからはタワーマンションが建つ街も、海も、山も、すべて見える。自然と文明という、正反対の存在が不和を起こさず隣り合っている様は不思議で、ただただ面白い。

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