「関西女子のよちよち山登り 5. どんづる峯」(2)
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人とすれ違えないくらいの細くゆるやかな坂を登っていく。五分も経たないうちに、前を行く次郞の足が止まった。
「あれ、おかしいな」
「どうしたん」
「いや、こっちのはずやねんけど」
次郞は言いよどみ、道の脇にある一本の木を指さす。
細い木の幹にラミネート加工された紙が掛けられている。
「『行き止まり この先 香芝市』?え、この道行き止まりなん?」
「そんなはずないねんけどなあ、香芝市のホームページにも、なんもお知らせなかったし」
次郞はスマホに目を落としつつ首をかしげている。
他の登山者が通りかかれば尋ねることもできるが、あまりメジャーな山ではないのか、まだ誰ともすれ違っていない。
「ちょっとここで待っとってくれへん?ないとは思うけど、もしかしたら分岐を見逃したかもしれんから、見てくる」
登和子の返事を待たず、次郞は「すぐ戻る」と言い置いて、ほとんど走っているような早足で今来た道を戻っていった。
そして数分で登和子の元に帰り着く。
「早っ」
「やっぱりこの道で合ってるはずや」
きっぱりと言い切って、スマホの画面を見せてくれる。
そこには、うねうねとたわんだ何重もの平行線と、その上を縦横無尽に走る赤いラインが映っていた。ライン上には丸が載っている。
よく見ると拡大された地図のようだ。この平行線はおそらく等高線なのだろう。
「これ、YAMAPっていう山岳アプリの地図で、GPSが使えるねんな。この赤い線が登山道。で、おれらがおるんがこの丸のとこ」
次郞が赤いライン上の丸を指さす。
画面の脇にあるマークをタップすると、丸の横に小さな三角が現れた。次郞がスマホを行き止まりの疑いがある道の方に向ける。すると、赤いライン上に三角の先がぴったりと重なった。
「この三角はおれらの向いてる方向。進もうとしてる方向と、画面上の登山道が一致してるから、正解はこの先やと思う」
「でも、行き止まりなんちゃうん?」
「かもしれん。だから一回進んでみて、道がなかったり、危なかったりしたら戻ってこよ」
そういう考え方もあるのか。もし自分一人だったら、迷い抜いたすえにここで引き返していただろう。
登和子は『行き止まり この先 香芝市』と書かれた紙を横目に見ながら先に進んだ。
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