「関西女子のよちよち山登り 5. どんづる峯」(3)
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しばらく『行き止まり』の紙が頭の中でチラチラしていたが、結局道に異常はなかった。
「あの紙、なんやったんやろ。とんだ罠やん」
登和子が不満げに呟く。
「罠て!」
次郞が笑いの混じる声で続ける。
「まあ確かになあ。もしかしたらさっきの道やなくて、近くに道っぽいのがあって、そこが行き止まりってことやったんかもしれんけど」
「それでも紛らわしさの極みやわ」
「めっちゃご立腹やん、登和子さん」
怒ってはいない。ただ解せないだけだ。
そんな登和子を見て次郞は声を押し殺して笑っている。
岩の横に設けられた狭い道を歩く。先に道を抜けた次郞が「おおっ」と声を上げた。登和子も後に続く。
視界が一気に広がった。
「えっ、何ここ!」
思わず声が出る。そこからの景色は登和子を圧倒した。
灰白色の岩が作り出した広大なダンジョンが、目の前に広がっている。
ある箇所はぼこぼこと不気味に隆起し、またある箇所はうねる波のようになめらかな曲線を描いて、遙か下まで白い世界が続く。正面の美しく切り立った崖との間には、木々が緑の群れを作っていた。
白い岩陰や木々の下に、勇者の一行やモンスターが潜んでいても、それが自然とすら思えてしまうほどの非日常感だ。
まるで神様の目線でひとつの世界を俯瞰しているような、不思議な気分になった。
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