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平林奈緒美さんに踊らされて

平林奈緒美さんは「YAECA」をはじめ「ARTS&SCIENCE」「beautiful people」のロゴなど、誰もが一度は目にしたことにあるロゴやパッケージを制作されているアートディレクターです。


私が初めて平林さんのデザインされたものに出会ったのは学生時代。資生堂「FSP(フリーソウルピカデリー)」というコスメでした。といっても当時は平林さんの存在、アートディレクターなんていう職種があることすら知りませんでした。

突如コスメコーナーに現れた『FSP』。周りのコスメとは一線を画すパッケージやツールデザイン。当時、心を奪われたひとはかなり多いんじゃないかなと思います。

コスメ自体ももちろんめちゃくちゃに素敵でしたが、当時学生の私にはほいほい買えるものではなくて、空港や飛行機をデザインモチーフにしたパンフレットやカードなんかを、こっそりもらいに行ってました。もちろんTake Freeのものだけど、ろくにコスメも買わないのにパンフだけ頻繁に持ち去るというのは、なかなかハードルが高かったです。万引きでもないのにそんな気持ちになってしまって。。それにいつ次の新商品(パンフレット)がリリースされるかなんて、当時の私には調べる術がなかったので、まめにお店に通うしかなく...

平林さんの繰り出すかっこよすぎるデザインに踊らされ、なけなしのおこずかいでごくごくたまにコスメを買い(マニキュアだったかな)、¥3,000ほどで販売された、大きなポーチに入ったトラベルコスメセット(ジェットセットキット)を、かーなり前倒しの誕生日プレゼントとして買ってもらったりしました。

当時からファッションやアイドル、音楽にも疎く、物欲のない地蔵(自称)の私に物欲が吹き荒れた瞬間でした。

それでもいつの間にか、新商品やパンフレットが入荷しなくなり、通えど通えど変化のないFSPコーナー。やがてFSPのラックは撤去され、私は途方もなく立ち尽くしたのでした。もちろんそのあとも、またリニューアルされて戻ってくるかもしれないと何度も通ったけれど、戻ってくることはありませんでした。


やがて私はデザインに興味を持ち、芸大へ進学しました。たくさんのデザインに触れ、たくさんの素晴らしいアートディレクターを知り、そしてある日、ついに判明したのです。FSPのアートディレクターが平林奈緒美さんだったということを。

家に帰ってすぐに大事にしまっていたFSPのリーフレットのコレクションを広げ、私は泣くほどに、または笑いだしてしまうほどに胸が弾みました。初めてFSPに出会ったときのような感動が蘇りました。ああ、もう最高すぎる! 平林さん、あなたのデザインをずっと追いかけますね!

そうやって平林さんが関わられたプロダクトやロゴを執拗にストーカーし、数十年踊らされ続けている私は、おかげさまで現在もデザイナーとして仕事をしています。平林さんほどの大きな仕事ではないけれど、あの文字の組み方、書体の選び方、最小限の素材で機能的に美しく整えられたデザイン......いつもいつまでも私の目標であり、制作への意欲を忘れずにいさせてくれる存在です。

私はダンスが苦手。自ら踊ることはない。だけど、平林さんのデザインに踊らされるのは大好き。いつまでも踊り続けますね。

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