ジョージ・ソロス氏の戦略で学ぶ、為替市場の動き方
インフレでドル高という矛盾
「インフレでドル高」という言葉を聞いて、読者はどう思うだろうか?
どれだけの人がこの言葉に疑問を持つのだろうか?
貨幣価値の下落であるインフレでドル高になるということは、完全に不合理ではあるが、歴史的には何度も観測されてきたトレンドである。
インフレという意味では、ドルの価値は大きく減少した。アメリカでは最大9%のインフレとなった。インフレは善という宗教はいまだに存在するが、インフレとは紙幣の価値が下がることなので、それだけドル紙幣の価値は下がったのである。貨幣価値の下落、或いは物不足がなぜ善になるのか私のような凡庸な頭では理解ができない。誰かご教授を願いたいものである。
だが興味深いことに為替市場ではドルはむしろ上がった。金利が上がり、高い金利に惹かれてドルに資金が集まったからである。特に日本ではドルが人気である。
短中期的には為替相場とは金利で動く。しかし為替相場も、インフレはドル紙幣の価値下落だという事実に永遠に反して動き続けることはできない。
だからドルはいずれ下落することになる。インフレでドル高というのは無理筋であり、その反動がいつか来ることになる。
景気後退とドル相場
それがいつ来るかと言えば、金利が下がる時である。
物価が高騰し、それを抑制するためにFed(連邦準備制度)は利上げを行なった。為替相場は金利に反応してドル高で動いた。金利が上がっている間は、インフレはドル紙幣の減価だという事実を為替相場は無視している。
インフレは実は物価上昇という意味だということに気付かずインフレ政策を支持していた日本人と同じである。だが利上げが実体経済に効き始めれば、アメリカ経済が弱まり、利上げが出来なくなる時が必ず来る。そしてFedは利上げから利下げに転換する。
その時には、利下げによるドル下落と、これまで無視していたインフレによるドル下落の両方が来ることになる。ドルは大幅に下落するだろう。
では利下げ転換はいつ来るのか?
景気後退が来て、Fedがそろそろ利下げが必要だと判断し、金利は下がるのか。私の考えではそうはならない。何故ならば、Fedが景気後退を見極めるより先に株式市場が下がることになるからである。
株式市場と景気後退
Fedのパウエル議長は2021年に既に高騰していたアメリカのインフレ率を無視し続けた。インフレ率の推移を再掲示しよう。
2021年終わり時点でインフレ率は7%近くまで上昇してしまった。世間ではロシアのウクライナ侵攻がインフレの原因だという妄言が流布されている。
当時、西側メディアはプーチン氏の頭を心配していたが、自分たちの頭を心配したほうが良いのではないか。
冗談はさておき、結果として利上げはかなり遅れることになった。
彼は基本的に手遅れになってからでなければ動かない。そのパウエル議長と株式市場と、どちらが景気後退を先に嗅ぎつけるかと言えば、間違いなく株式市場だろう。
だから株式市場が先に下落し、それに反応して債券市場では金利が下がり始め、パウエル氏もそれに従って利下げに向かうことになる。金利が下がり始めれば、ドルも下落することになるだろう。
ここで重要なのは、このシナリオでは株式市場の下落がドルの下落よりも先になるということである。
2018年のドル下落
パウエル議長が利上げをやり過ぎて株式市場が下落し、その後にドルも下落する。その事例は2018年の世界同時株安である。
当時、パウエル氏は利上げと量的引き締めを強行し、しかも株式市場には影響を与えないと無根拠に主張した。2021年にインフレは脅威ではないと無根拠に主張したのと同じである。
そして株式市場は下落し、債券市場では金利も下落し、最終的にはドルも下落した。
米国株と長期金利チャートを掲載しよう。最初に下落したのは株価であり、利上げに耐えられなくなった株式市場は10月に下落を開始している。
一方で、アメリカの長期金利は11月前半まで高止まりしていたことを指摘したい。
そしてドル円は12月に下落した。
何故こうなったか。まず金利上昇が株価下落の原因なのだから、金利は高止まりして株価を下げ続ける時期が一定期間あるということになる。そこですぐ金利は下がらない。
だが、株価があまりに下落すると市場はようやく「実体経済もまずいのではないか」と思い始める。金利がここまで上がっている時点でそれは最初から分かっているのだが、市場はようやくそれに気付き始め、景気後退を予想して金利が下がる。ドルが下がるのはそれからなのである。
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