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アメリカ大統領選を考える

大統領選挙が近づいている。今は6月だからあと半年を切っていることになる。

事前調査ではトランプ氏がリードしており、トランプ氏の勝利を予想する著名投資家も多い。

投資家が考えなければならないのはトランプ氏の経済政策である。トランプ氏が再び大統領になればアメリカ経済はどうなるのか。



トランプ氏のインフレ政策

トランプ氏は、1期目に導入し2025年に失効する所得税減税の恒久化を計画している。この減税は、主に富裕層や中小企業経営者、不動産業界関係者に恩恵がある。また、トランプ氏は減税の延長や強化の財源として、追加関税からの収入を充てる可能性がある。

このトランプ氏の関税政策は供給に非常に大きなショックを与える可能性がある。それは輸入物価を押し上げるだけでなく、輸入品に競合しているすべての商品の価格を押し上げるからである。

トランプ氏は関税をむしろ中国との交渉の材料として使っている節があるのだが、金融市場がそれをどれだけ本気で受け取るかは考えなければならないことである。

少なくともトランプ氏は大幅な減税を選挙公約にしている。それは明らかにインフレ的な政策である。

トランプ氏の選挙公約は2016年の大統領選挙における公約とある程度似ていることから、2016年にトランプ氏が大統領選挙に当選した時の金融市場の動きが参考になるかもしれない。

当時、選挙前にはトランプ氏が大統領になれば市場が暴落するという説がメディアを支配していたが、蓋を開けてみれば真逆の結果となり、市場は大統領選挙のあと急速に経済成長とインフレを織り込んでいった。

政治的理由からトランプ相場を嫌ったジョージ・ソロス氏が当時、米国株を空売りして大損を計上したことがニュースにもなっていた。

同じような相場になるならば、財政出動による実体経済への資金流入を市場は織り込んでゆくことになる。期待インフレ率は上がり、金利は上昇するだろう。

いっぽうエネルギー政策はどうだろうか?

トランプ氏はこのように言っている

私がホワイトハウスに戻ったら、親米的なエネルギー政策をついに復活させる。再選されれば、米国内での石油・天然ガスの掘削を大幅に拡大するためのあらゆる障害を取り除くと約束する

シェールガスの一大産地「マーセラス・シェール」へのパイプラインの認可を早めることも公約している。もうひとつのは米国を電気自動車とクリーンエネルギーの方向へ誘導するための優遇措置を廃止である。

いわゆるグリーンな世界に対抗するようである。ところでこのグリーンな世界に対抗するのろしは2022年のテキサス州から上がっているのをご存じだろうか?

アメリカのテキサス州は、「エネルギー企業を排除している金融機関のリスト」を発表した。このリストにはUBS、クレディスイスなどの銀行やBlackRockなどの資産運用会社が含まれ、これらの金融機関はテキサス州政府との契約締結を制限されることになる。


ESG投資

恐らく多くの人々にはそもそも「エネルギー企業を排除」とは何のことであるかを説明する必要があるだろう。

いわゆるESG投資については聞いたことがあるかもしれないが、これは投資をする際にいわゆる「グリーン」でない、つまり環境に優しくない(と一部の人々が主張する)企業には投資をしないようにしようというリベラル派の人々によるお達しである。

このESG投資は金融機関に対する規制当局によってまず大手金融機関に押し付けられ、また税金を使った広報活動によって一般にも周知されたのでESGという単語を聞いたことのある人も多いだろう。

いわゆる脱炭素政策の一環なのだが、このESG投資によって原油や石炭、天然ガスなどを採掘する企業が融資を受けられなくなる憂き目にあっていることは一般にはあまり知られていない。原油企業などに投資をする投資家は「グリーンでない」とされ、ウクライナ問題でもお馴染みの西洋社会における同調圧力を受けることになる。

脱炭素政策とは単に太陽光発電や風力発電を推進する政策ではなく、ESGなどを通して原油などの採掘を強制的に減らそうとする政策である。

そしてESGが原油などの採掘を減らした結果どうなったかと言えば、原油が足りなくなりエネルギー価格が高騰した。

グリーンな人々の多いヨーロッパでは脱炭素を特に強行したために厳しい状況となっているのは記憶に新しい。アメリカほどお金をバラまいたわけでもないのにアメリカよりひどいインフレ率になったもう一つの要因である。



ESGへの初めての政治的反抗

自分でエネルギー源を減らして自分で苦しんでいるのだから世話のない話である。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏を含め、こういう馬鹿げた状態をまともな金融家は皆憂慮していた。

だがこうした憂慮はあくまで、考える頭のある個人が意見表明するレベルに留まっていた。一方でESGは政治家主導の政治的潮流である。

相場でもそうだが、まともな意見が主流派になることはない。それでグリーンな人々は世界中にエネルギー価格高騰を撒き散らしながら好き放題やってきた。

だがここに来てアメリカのエネルギー産業の牙城であるテキサス州から反撃ののろしが上がった。

この企業はグリーンだから良い、この企業はグリーンでないから悪い、それを誰が決めるのだろうか? 脱炭素政策もまた独裁政治的である。

また、奇しくも反ESGに立ち上がったのはテキサスだけではない。これとは別にフロリダ州が、州の基金を運用するファンドマネージャーに、経済とは無関係のESG的な要素を投資先決定の際に考慮することを禁止した。つまり、これまで推進されていたESG投資を逆に禁止した。


またもや始まる反リベラルのトレンド

この流れを見て何かと似ていると感じた読者は居ないだろうか。筆者が思い出したのはヨーロッパの移民危機である。

これもリベラル派の政策から始まった。欧米自身が引き起こしたシリア難民の窮地を救うという何ともご立派な名目で、シリアとは何の関係もない多くの中東移民がヨーロッパに集まった。彼らには衣食住が保証されていると喧伝され、実際に用意されていたのは言葉も文化も違う異国での孤独な生活だった。

結果としてヨーロッパ市民は移民による性的暴行にさらされたり、テロで殺されたりした一方、移民の側も多くがヨーロッパに向かう間の地中海で溺れ死んだ。彼らもリベラル派の人々がいなければ溺れ死ぬことはなかっただろう。

この政策は一体誰の得になるのか? そう思っていたが、政治的に推進された移民危機は続いた。その後イギリスのEU離脱やトランプ大統領の当選などを受け、移民政策は少なくとも以前のような馬鹿げた状態ではなくなったが、この件に関してリベラル派が謝ったところを見たことがない。彼らは絶対に反省しない。

そしてこの脱炭素の件は完全なデジャヴュである。利権に支えられた政治家と、その政治家やメディアに騙されたリベラルの人々がインフレを引き起こす。それは一定期間続くが、流石に耐えられなくなった非リベラルの人々から反撃ののろしが上がり始める。

テキサスとフロリダの地域ニュースではなく、これからグローバルに始まってゆく反脱炭素の最初のトレンドだろう。そしてトランプ氏が再選すれば一気に加速するだろう。


原油価格への影響


バイデン大統領が脱炭素政策で自国の産油企業の首を絞めたのに対して、テキサスを味方にしているトランプ氏は明らかに産油企業に友好的である。

トランプ氏が優勢になればアメリカの産油企業はより多くの原油を産出できることになる。それは原油価格にとって下方圧力になるだろう。

一方で、OPECプラスは2024年末まで減産延長で合意している。

原油価格はどうなるのだろうか?

そこにトランプ氏の政策が加わる訳なのだから、原油価格は確かにややこしい状況にある。中東情勢(ハマス・イスラエル戦争)が原油価格を上に動かす可能性のある要因となっている一方で、来年に予想されている景気後退は原油価格にとって大きなマイナス要因である。



結論

2016年、まだインフレが問題となっていなかった時代には、経済成長とインフレは好意的に受け入れられた。金利上昇もまだ問題にはならなかった。

だが今回、コロナ後にインフレが問題となり、莫大な政府債務に巨額の利払いが発生しつつある状況で市場がインフレを織り込み金利が上がるとどうなるのか。

投資家はいよいよ大統領選挙に向けてポートフォリオをどうするのかを決めなければならないだろう。


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