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ヨーロッパの移民問題の本質

移民問題の裏にあるドイツのヨーロッパ統一願望と、それが欧州経済に及ぼす影響について書いていこうと思う。


国境なき欧州

そもそも移民問題が各国それぞれというよりはEU全体の問題となっているのは、ヨーロッパ内に国境が存在せず、原則として人の行き来が自由となっているからである。EUの内、ほとんどの国はシェンゲン協定に加盟しており(イギリスなどを除く)、それぞれの国境において入国審査を行わない決まりとなっている。したがってヨーロッパの一国にさえ入国してしまえば、あとはヨーロッパ内を自由に移動できるということになる。

難民にとっては、中東からギリシャにまで行ってしまえば、あとは法的にはドイツにでもオーストリアにでも行けるということであり、経済的に豊かなドイツを目指す彼らの通り道となるギリシャ、ハンガリー、スロヴァキアなどの国々は、あまりに多くの移民への対応に苦慮している。

ユーロピアン・プロジェクト

そもそもヨーロッパが国境を取り払い、共通通貨を持つことを決めたのは、「ユーロピアン・プロジェクト」と呼ばれるヨーロッパ統一の理念によるものである。欧州の政治家はこの言葉をよく口にする。ドイツのメルケル首相は移民受け入れ問題を「次の大きなユーロピアン・プロジェクト」だと述べた(Deutsche Welle、原文英語)。

ユーロピアン・プロジェクトとは、第二次大戦後のヨーロッパのあり方を規定する考え方のことであり、有り体に言えばローマ帝国以来戦火のあまりに多過ぎるヨーロッパを統一することで、ヨーロッパ内で戦争が発生しないようにすることを目指す計画のことである。これは戦勝国側から見れば、ナチズムに突っ走ったドイツに、EUやユーロ圏という鎖を付けて、周辺国と一蓮托生にしてしまおうという意図で行われた。

しかし一方で、ヨーロッパ統一という考えは、鎖を付けられた側のドイツ人にとっても喜ばしい内容であった。そもそもドイツがナチズムに走った根底にはドイツのヨーロッパにおける文化的な立ち位置がある。

ヨーロッパにおけるドイツ

ドイツ人は「Wir Europäer(われわれヨーロッパ人は)」という一人称をよく使う。これはとりわけ第二次世界大戦後のドイツ人が、ヨーロッパ人を自称したがるからなのだが、何故そういう傾向が生まれたかという話をするためには、ドイツのヨーロッパにおける立ち位置について話す必要がある。

歴史的に、礼儀を重視し文化的なイギリス人やフランス人に比べ、ドイツ人(プロイセン人)は無骨で無作法という評判を長らく享受してきた。これはドイツの哲学や芸術が花開いたあとも変わらず、ナポレオンがゲーテを愛読する時代になっても、社交界における優雅な振る舞いを重視するイギリスやフランスからは文化的に洗練されていない民族として一段下に見られていた。

しかし近世以降、ドイツには優れた文化がある。カントもゲーテもベートーヴェンもドイツ人である。ドイツ人は自国の文化を誇りに思いながらも、他国からの評判に不満を抱き続けており、これが爆発したのがナチス・ドイツのアーリア人礼賛なのである。ドイツ人がこういう人種差別的な考え方に走ったのは、ドイツの特殊な立ち位置に起因しているのである。

しかし、この偉大なドイツ人が世界を支配するという考え方は第二次世界大戦の敗戦で砕け散り、結局イギリスやフランスに散々に非難されることになる。結果として、ドイツ人の希望も虚しく、ドイツ人はやはりとんでもない民族だという見方がヨーロッパ全体に広がってしまった。今やドイツ人は、ドイツ人であることを誇りに思うことができない。ではどうするか? ヨーロッパ人を名乗るのである。

ヨーロッパの盟主としてのドイツ

ドイツの歴史は酷かったかもしれないが、ヨーロッパの歴史は偉大である。その偉大なヨーロッパを率いているのがドイツであればどうだろうか? その非常に栄誉ある立ち位置はドイツ人の悲願である。かくしてドイツはヨーロッパ統一という考えに取り憑かれた。通貨を統一し、国境を取っ払った。安いユーロで輸出も上手く行き、ギリシャ問題も何とか押さえ込んだ。すべてが上手く行くはずである。そう思っているのは、残念ながらドイツ人だけなのである。

経済大国ドイツによって主導されているこの統一されたヨーロッパは、当然ながら徹頭徹尾ドイツに利益が行くように出来ている。ドイツにとって安く、ギリシャにとって高すぎる共通通貨ユーロは、ギリシャの政府債務の直接の原因である。そしてこの移民問題もまた、他国の犠牲のもとにドイツが利益を得るように出来ているのである。(共通通貨ユーロの問題はこちらの記事で)

移民を歓迎するドイツ経済界

ロイターによれば、ドイツのガブリエル副首相(当時)は次のように語っている。

われわれのところにやって来る人々を早急に訓練し、仕事に就かせることができれば、熟練労働者の不足という、わが国経済の未来にとって最大の課題の1つが解決するだろう

その通りだろう。ドイツの失業率は6.4%(当時)であり、高齢化の問題もある。移民が労働者として働けるならば、供給増で賃金が低下し、企業としてはコスト削減となる。しかしドイツに入国できるということは、ヨーロッパの他の国に入国できるということである。他の国はどうか? ユーロ圏の失業率は11%(当時)であり、そもそも自国民さえ就職できていないのである。

ドイツは人道的な側面を全面に押し出して移民を受け入れている。しかしこれは他のヨーロッパの国にとってはどうか? ドイツは利益を得るかもしれないが、われわれはどうなるのかと思うのが当然だろう。しかしドイツ国内でこういう議論はほとんどされていない。ギリシャの債務を肩代わりするのは嫌だが、共通通貨による他国への不利益に充分に注意を払うこともないというのと構造が同じである。

ハンガリーのオルバン首相(当時)などは移民危機は欧州ではなくドイツの問題だと言い放った。ハンガリーはEU懐疑派であるが、シリアからドイツへの通り道でもあるため、移民問題に関してフラストレーションが溜まっている。

ドイツ国内も混乱

混乱しているのは移民の通り道となる国だけではない。ドイツ南東部、オーストリアとの国境近くに位置するミュンヘンでは、難民受け入れに苦慮した市長が悲鳴を上げた。「もうこれ以上、難民にどう対応していいかわからない」そうである。これを受けてドイツはオーストリアとの国境開放を一時停止、入国審査を行うことを決めた。メルケル首相の寛容な発言が喧伝されてドイツに向かっている移民たちは、オーストリアやハンガリーで立ち往生することになる。

結局のところ、すべての問題の根源はドイツが理想と利己主義を両立しようとしていることにある。労働者が自国に流入するのは歓迎だが、ミュンヘンがパンクをするのは困る。安いユーロは歓迎だが、ギリシャの債務を肩代わりするのは御免である。そして隣国の不利益には充分に注意が払われていないのである。

このような状況が長く続くはずがない。ヨーロッパはとんでもない臨界点に達するのではないかと本当に心配している。ハンガリーは我慢の限界だろう。賢明なイギリス人はシェンゲン協定にも合意せず、とうの昔から既に一歩引いている。

パリ同時多発テロの犠牲者130人

フランスでは、ISIS(イスラム国)と思われる武装グループ計8名が、パリの劇場やサッカースタジアムなどで銃を乱射し、130人以上の住民や観光客が犠牲となった。パリの友人たちともすぐに連絡を取ったが、路上に何人もの犠牲者のご遺体が横たわっている悲惨な状況だったそうだ。

テロは複数の箇所で同時に行われたようである。一番犠牲者の多かったのはロックバンドのコンサート会場となったバタクラン劇場で、80人以上の犠牲者が出ているそうである。

仏独のサッカー親善試合が行われていた競技場、スタッド・ド・フランスの周囲でも自爆テロが複数回行われ、この親善試合にはオランド大統領も同席していたが、一度目の爆発で避難させられたとのことである。

報道によれば、実行犯の一人は「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだとされ、また、ISIS(イスラム国)が犯行を認める声明を発表した。声明によれば、フランスも協力しているシリア空爆への報復だとしている。

原因となったシェンゲン協定

中東と西洋諸国との軋轢については歴史をかなり遡らなければならないが、今回のテロリズムを可能にした直接の原因は、杜撰な難民受け入れ体制と、ヨーロッパ内の入国審査を撤廃したシェンゲン協定である。

同時多発テロ実行犯の傍らからシリアのパスポートが発見されており、このパスポートの所有者はギリシャで難民申請をしてヨーロッパに侵入した人物であるとのことである。

シェンゲン協定により、ヨーロッパでは加盟国間の国境において入国審査をしないことになっている。つまり、シリアにいるテロリストは、難民のふりをしてギリシャまで何とか入国してしまえば、ギリシャからドイツやフランスまでの道のりは入国審査なしで通れてしまうということである。

テロリストが多数おり、パスポートを偽造できる地域からほとんど何の審査もなしに難民を無制限に受け入れることの危険性を、ヨーロッパの政治家は理解しないらしい。あまりに多くの人間が、難民を救うという耳障りのよいイデオロギーに惑わされて、あまりに多くのパリ市民を死に追いやったわけである。

更に、何よりも悪質なことに、移民を受け入れ国境のないヨーロッパ目指してそれを主導しているドイツは善意でそれを行ったわけではない。経済的な利益と、偉大なヨーロッパを主導するという立場を手に入れたいがために、非常に個人的な理由でヨーロッパ諸国に考えを押し付けたのである。

このドイツの利己主義は第二次世界大戦でナチズムを引き起こしたものと全く同じである

大晦日に移民が集団でヨーロッパ人女性に性的暴行

2015年の大晦日の夜、ヨーロッパの各地で移民とみられる集団が、ケルン、チューリッヒ、ヘルシンキなどの都市で多数の女性に強盗や性的暴行を行ったとのニュースがヨーロッパで話題になった。BBCフランス通信社Sputnikなどが伝えている。

一番被害の多かったのはドイツのケルンであり、性的嫌がらせを受けたとされる被害届が150件警察に提出されている。女性を襲った集団は約1000人にも上り、目撃者や警察の証言では彼らの多くがアラブ系か北アフリカ系に見えたとのことである。

ある女性は「彼らはわたしたちを抱きしめてキスしようとした。男のひとりは友達のバッグを盗んだ」と話している。ケルン中央駅のそばで15歳の娘とパートナーを連れて歩いていた男性は、集団に囲まれたものの助けられなかったと話し、「連中は娘やわたしのパートナーの胸をつかみ、足の間をまさぐった」と語った。地獄のような心中だろう。

チューリッヒでは女性6人が浅黒い肌の男性数人に囲まれ、強盗被害や性的暴行などを受けたと訴え出ている。ヨーロッパ内で飛び抜けて治安のよいスイスではあまりに異例の事件である。

また、ヘルシンキでも3件の性的暴行が報告されており、難民申請をした3人の容疑者が現行犯で拘束されている。

ドイツの政治家の罪悪

難民受け入れを先導したメルケル首相(当時)などは、ケルンの事件について「北アフリカ出身に見える集団を難民に関連づけることは全く適切でない」と話しているが、一方でフィンランドで逮捕されたのは正真正銘の難民である。ちなみにケルン警察は約1000人の容疑者のほとんどすべてを取り逃がしているため、身元の特定は進んでいない。ドイツの政治家にとって非常に都合の良いことである。

また、移民賛成派のケルン市長ヘンリエッテ・レーカー氏は、

女性たちが街を歩くときには見知らぬ他人と腕一本分の距離を保つことで、このような事態は避けられる。

などと発言し、世界中の非難を浴びた。馬鹿ではないのだろうか。

何故このような政治家がドイツでは選ばれるのか? ドイツ人にとって、移民を受け入れることはパリのテロ事件の被害者の命や、地元女性たちの身の安全よりも大切なのである。

ドイツ人は善人のふりをして難民に生活費と教育まで提供して手を差し伸べることはあっても、10%の高い失業率にあえぐヨーロッパ内の貧困層には一切手を差し伸べることはない。経済学的に、南欧諸国の窮乏は共通通貨ユーロを通じてドイツから吸い取られたものであるにもかかわらずである。

ドイツ人は何故これほど屈折しているのか? それはドイツの複雑な国民性の問題に依存している。ドイツはドイツ人であることを誇れないから、ドイツ人と他のヨーロッパ人が混ざることを望み、ヨーロッパ人が他の人種と混ざることを望むのである。数世紀前にいくつかの国の寄せ集めとして誕生したドイツ連邦では、国民性の概念は稀薄である。

つまりドイツは個人的なコンプレックスを解消するために移民受け入れを扇動し、パリのテロ事件の被害者を殺して、大晦日にヨーロッパ人女性を強姦したわけである。ちなみにこのドイツの国民性に関する本質は、世界大戦時にナチスを台頭させたドイツの国民性と正真正銘同じである。彼らは何も変わっていない。


結論

ドイツには一貫した行動原理がない。難民を受け入れるのであれば受け入れ体制を計画的に整え、受け入れられる人数だけを受け入れるべきであり、また自国の経済に利益になるほど他の国の経済に利益にならないことを理解しなければならない。

このようなことを続けていれば、経済的にも文化的にもヨーロッパは破綻する。移民については、シリア難民を自称する人々の3割は実はシリア人ですらないという報道や、ISISの戦闘員が難民に紛れ込んでいるという報道もある。こぞってドイツを目指している移民たちは、ドイツの文化が好きだからドイツに住みたいのではなく、単に仕事を求めているのである。

こうした受け入れ国の文化に対する移民の無理解は、後々文化的な問題を引き起こすだろう。ヨーロッパはどうなるだろうか。解決の糸口は見えてこない。リーダーシップを取っているのは、いまだ計画性のないドイツである。

誰も正論などには耳を貸さないのは百も承知だが誰もが正しい意見よりも自分に心地の良い意見を大切にしたがる。しかしそれはしばしば誰かの生命を脅かす結果となる。多くの人間にとって、他人の命より自分の勝手な主義主張のほうが大事なのだ。非常に残念なことである。

そして日本も他人ごとではないのである。経済がある程度、安定している間は問題は噴出しないが、ひとたび景気後退に陥れば、真っ先に切られるのは移民の人々である。外国人技能実習生という名の移民政策は、後々やっかいな問題になるだろうと確信している。





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