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深呼吸したくなる場所、愛媛県。喫茶店と一人旅 後編

幼い頃は、大人が話す「自然が豊かな場所は空気が美味しいね」という会話が理解できなかった。空気に味なんてないのに、何でわかるんだろう、と。
愛媛県は、街の中心部であっても緑で溢れている。マスクを外したとき、驚くほど澄んだ空気に思わず「美味しい」と目を見開いた。大人になるにつれて、良くも悪くも都会の空気に慣れてしまったんだろう、あの頃の自分がわからなかったことが、今ならよくわかる。繰り返し息を吸い込み過ぎて友人に笑われてしまうほど、何度も深呼吸をした。
今回訪れた喫茶店で、お店の常連さんにこの出来事を話すと「たしかに、県外から帰ってきたとき、松山の空気吸い込んだら落ち着くわ」と話されていた。目に見えない空気も含めて、愛媛県を形作っているのだと思うと、すべてが愛おしく思える。

3. 自家焙煎 珈治伊

前回の喫茶店探訪に続く3軒目は、クラシックな内装なのに、気取らず、どこか安心する居心地の良さが魅力的な「自家焙煎 珈治伊」さん。今回は、珈治伊ブレンドのみ注文。目の前に座っていた常連さんが頬張っていた、トーストとサラダのモーニングセットが何とも美味しそうで、次に訪れた時は必ず食べたい。

こちらのお店、テーブルに置かれていたお砂糖が、角砂糖や白砂糖ではなく、珍しくざらめ(中双糖)だった。私の祖父もざらめ派で、朝食後の珈琲は、いつもざらめを入れて飲んでいたことを思い出した。初めて訪れる場所で、自分の記憶と結びつく場面があると、距離がぐんと近くなった気がして嬉しい。

ショーケースには、マグカップのミニチュアが。

「どちらからいらしたの?」と声をかけてくださった、チャーミングな店主さん。常連さんも一緒にしばし世間話をして過ごした。
私はこんな瞬間がたまらなく好きで、働く人、訪れる人、すでにある関係性の中に自分も足を踏み入れることで、一見さんとは違う角度から、その場所の良さを知ることができるから。長年、愛され続ける場所は、居場所や拠り所の役割を果たしている。そんなことを、喫茶店から改めて気付かされることが多々ある。

愛媛県に住む友人は、会話の末尾に「〜けん」がつく。それが可愛くて、話すたびにいつも癒されていたのだけど、喫茶店の店主さんも、常連さんも、お寿司屋さんに並んでいる最中に隣に座っていたおばさまも、会話の中で何度も「〜けん」を耳にした。方言だから当たり前なんだけど、聞くたびに終始顔がほころんだ。〜けん、という言葉は、会話を柔らかく、まるく包みこんでくれるような気がしている。

街中を走るオレンジ色の市電、活気ある大きな商店街、広々とした街道。忙しなく生きてしまう日々の中で、空気も、話す言葉もどこかゆるやかに、そしてのんびりとした時間が流れる場所で過ごせたことは、私にとって大切な休息だった。帰る前にもう一度、大きく息を吸い込んで、また来るね、と愛媛県を後にした。

ここからは少しだけ、喫茶店以外の番外編。色んなお店に目移りして、食欲が止まらない愛媛県旅でした。

1.味暦 正生

一歩遅ければ1時間待ちのところ、15分強くらいで入れて、運が良い。同じタイミングで並んでいたおばさまから話を聞いたところ、ちらし寿司も美味しいし、にぎりも人気なのよ、とのことだったので、今回はにぎりを注文。新鮮でぷりっぷりの大きなネタが並び、茶和蒸しとお吸い物もついて1000円ちょっと。美味しすぎてこの値段、申し訳ない。ちなみにちらし寿司は、刺身が盛り沢山の海鮮丼のような豪華さでした。次はちらし寿司も食べたい。

2.豚珍行

老舗の街中華、という字面だけで「間違いなく美味しい」とわかってしまう圧倒的な信頼感。あっさりめの醤油ラーメンと、スパイスがたっぷりトッピングされた餃子を注文。シンプルこそ一番難しい。けど、この潔い味。創業から1974年から愛されてきたことがわかる。

3.鍋焼きうどん まんま

自他共に認める麺類好きなので、これだけは外せなかった、鍋焼きうどん。こちらは愛媛県松山市のソウルフード。鍋焼き、っていうのが一手間かけた特別感があって良いよね。甘めの出汁に柔らかい麺と具材が絡んで、身体に染み渡るやさしい味。卵を割るとまろやかになって二度美味しい。


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