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妖精の子供たち[断片]

 ……むかしむかし、おおむかしのお話です。ある街の隣の森の中に、真っ白な塔が1本、立っておりました。白と言っても、それは炎に焼かれた石の色で、塔は、ヒトに打ち棄てられたものでした。といいますと、その塔には、ヒト嫌いの炎の妖精がひとり、棲んでいるので、ヒトはみな怖がって、誰も近寄らないのです。
 ある時、その塔に2人の赤ん坊が棄てられていました。1人は、額から銀の角を生やし、脚は青い鱗に覆われた、異形の子供でしたが、もう1人は、見た目は全く普通でした。魔法の力を沢山持っていましたが、それだけです。片割れの子供の方は、異形の子供と双子だというだけで棄てられたのでした。また、異形の子供にしても、彼はその見た目以外、全く普通の子供でした。片割れと違って、ほんの少しの魔法の力も持っていなかったのです。妖精はヒトの臆病さに呆れ果て、かわいそうな双子を拾って育てることにしました。
 異形の子供がいずれ目を開くと、その目までもが銀でできていることがわかりました。また、彼の鱗は太陽の光に弱く、すぐにヒビ割れて血を流すので、子供は日の殆どを、塔の地下にある泉で過ごすことになりました。そこで妖精は、異形の子供と、片割れの子供とを離して育てることにしました。片割れが、異形の子供を決して憎むことがないように。緑の目をした片割れは森に祝福され、より強い魔法の力を得ましたので、妖精は彼に魔法を教えることにしました。
 妖精は日中、片割れの魔法の子供に付きっきりになるので、冷たい泉でぼうっとしているしかない異形の子供は、自分に兄弟がいることを知っていました。そして、妖精が兄弟から自分を隠す理由も知っていたので、水面に映る姿を見るたびに、何度も彼は自分を呪い、姿も見たことがない兄弟にそっと詫び、兄弟に愛を注いでくれる妖精に感謝しました。いずれ、彼は神さまにむかって、祈りの歌を口ずさむようになりました。妖精は、そんな彼を見つけるたびに、自分を呪う異形の子供をたしなめ、いっしょに泣き、また歌いました。そして、光が彼の体を傷つけない新月の夜だけ、彼を塔の頂上へと運び、共に星を眺めて暮らしました。
 2人ともすくすくと育つと、妖精は彼らに仮面を与えました。異形の子供には、角と瞳を隠せるように、額から鼻を覆う黒の仮面を。魔法の子供には、どうかこれ以上の厄災を退けるように、角の生えた銀の仮面を。そして妖精自身も、もう二度とヒトに大切なものを奪われることがないように、憎悪から鬼となった女の仮面を身につけるようになりました。偽物の角ですが、どうか異形の子供が哀しまないようにしたかったのです。しかし、真っ黒な泉と、夜の星明かりしか知らない異形の子供は、塞ぎ込む一方でした。……

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