歯痕

「痛くないの?」

苦痛に歪んだ彼の顔を覗きこんだ。

「痛いよ」と顔を引きつりながら笑う。

好きになればなるほど私は、腕を、耳を、脇腹を、噛まずにはいられなくなる。

甘噛みなんて優しいものじゃなくて、歯形が残るほど。

彼の腕に残った歯形を見て安心する。

彼の身体に私が残るのが嬉しい。

「痛いのにどうして離さないの?」

「君の痕が残るのが嬉しくて」

「歯形が?」

「歯形じゃないよ」

「じゃあなに?」

「歯痕」

私はまた嬉しくなって、彼の身体にハートを刻んだ。


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