見出し画像

夕陽沈む

沈んでいく夕陽が僕たちを赤く染めた。

彼女は今にも立ち上がって、帰ろう、と言い出しそうだった。

海に行こうと連れ出したのは僕なのに、さっきから気の利いた話も碌にできやしない。

何度、彼女を誘い出せば僕はこの気持ちを伝えられるのだろうか。

「ねえ……」

彼女が僕の方を見ようともせず、ただ赤い夕陽に目を見据えたまま何かを切り出した。

ーーもう誘わないで。

そんな想像の中の彼女の声が僕の胸を刺す。

恐る恐る僕は相槌を返す。

「私に言いたいことあるんじゃないの?」

僕は驚いて彼女の顔を覗き見た。

彼女と目が合う。

夕陽が落ちて、電灯の白い灯りが二人を照らす。

彼女は頬は赤らめたまま、重なった視線を恥ずかしそうに海に逸らした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?