他人の怒りに対する、プロの対処法(nickwignall.comのHow to Handle Other People's Anger Like a Pro)の翻訳


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この記事の著者であるNick Wignallは臨床心理士、ライター、講師、ポッドキャスター。ダラスにあるテキサス南西メディカルセンター大学で臨床心理の博士課程、シカゴ大の社会科学で修士号取得、ダラス大の英文学で学士号を取得。American Board of Professional Psychology(ABPP、アメリカ専門心理士認定機関)の認定を受けている。the Academy of Cognitive Therapy(認知療法・行動認知療法家国際認定組織)の認定取得。Association for Behavioral and Cognitive Therapies(アメリカ行動療法認知療法学会)とニューメキシコ心理学会の会員。

北カリフォルニア出身、現在は妻と3人の娘とジャーマンシェパードと一緒にアルバカーキで暮らしている。
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他人の怒りに対する、プロの対処法

他人の怒りに対処することは挑戦的で、難しく、時には恐ろしくさえある(特に、相手がパートナーや両親、同僚のように親しい人たちの場合は)

この記事では、私は、プロの心理士が行う、他人の怒りに対する捉え方と扱い方を、あなたに教える。

怒りの本当の仕組みと、その効果的な対処のコツに関する機密情報で武装することは、他人の怒りの管理の上達に役立つだけでなく、それを行う際により強い自信をあなたに感じさせてくれるだろう。

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メモ:これは怒りに関する三部作の第三部である。第一部(The Secret Life of Anger、怒りの隠された素顔 )と第二部(10 Healthy Ways to Manage Anger Issues、怒りの問題を管理する10の健康的方法)へのリンク
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1.怒り(anger、アンガー)は承認し、攻撃(aggression、アグレッション)には境界線を引く

怒りに関してまず知るべきことは、怒りと攻撃は根本的に異なるということ。

怒りは、我々が自分は不当な扱いを受けていると信じる時に感じる感情である。

一方で、攻撃は、自分の怒りを表現する行為であり、そのほとんどは自分の言動に関わっている。

我々のほとんどは、他人の怒りは恐れない、我々が恐れるのは彼らの攻撃(彼らの怒りが結び付くかもしれないもの)である:

 ・侮辱、皮肉、こき下ろし、怒鳴り、その他の形の攻撃的会話

 ・ドアを激しく締めることから虐待や絶交に至るまでの物理的攻撃行為

 ・大きな喧嘩や対立の後に生じるストレス、孤独、不安、罪悪感、その他のつらい感情

この怒りと攻撃の区別は要である、なぜなら、我々は、それらをそれぞれ全く違う方法で扱う必要がある。だが、不幸なことに、我々が直感的にこれを行う方法は、完全な間違いとなる傾向にある。

怒りに恐れをなし、直感的に、我々は防衛的になり、次のようなことを言う(もしくは考える):

 ・何故あなたは私が両親を連れてくるたびに怒らなくてはいけないの?

 ・あなたは、落ち着いて、私の実際に言っていることに耳を貸す必要がある

 ・あなたがそんなに怒ってなければ、大人の対応ができたのに、こんな子供みたいなやり方じゃなく。

一般に共通するテーマとしては、あなたは彼らの怒り(感情の体験)に対して、批判的である。問題は、怒りは問題ではない、ということ。誰も、自分の気持ちの感じ方について直接のコントロールを持たない。自分が実際にコントロールを持たないものについて批判や判断をされるのは、とても気分が悪い。

これゆえに、怒りが高まった状況というものは、速やかに、非生産的な、怒鳴り合いへと席を譲ることになる。人を、その人の怒りの感情体験を元に批判したり判断すると、我々は火に油を注ぐことになる。

そして、さらに不味いことに、我々は、他人の攻撃に対し、本気で、賢く、一貫性のある対処をしない。つまり、私が言いたいのは、我々は全体的に攻撃的行動に対して境界線を引き遵守することに関してアサーティブ(assertive、率直積極敬意ある姿勢)になること、そして、コンシクエンス(consequence、結果、因果)の有効活用が、下手である、ということ。

例えば、あなたのパートナーが、腹を立てて、最終的にあなたを罵倒したとする、このコンシクエンス(結果)とは何か?ほとんどの人が、攻撃に対しては、標準的な二つの方法で反応する:

 ・攻撃で返す。怒鳴り返す。相手の失敗を指摘する、過去の不当な扱いなどを蒸し返す。不幸なことに、これはただ相手の怒りを、相手の頭の中で、正当化し、それを強化してしまう、そして攻撃も強化してしまい(将来に、起こりやすくしてしまう)。

 ・無視するか、降伏する。我々は、未来の、増大した怒りと攻撃を恐れるがゆえに、攻撃が怒った際の許容範囲の明確な線引きをしない。たとえ、したとしても、我々はそれを遵守しない。その代わりに、我々は降伏し、我慢し、時には相手の攻撃の責任を取ることさえある(全ては平和を維持するための理解できる試みではある)。問題は、これもまた攻撃を、強化することになる、長期的には、それを起こりやすくするということ、なぜなら、相手は、これは大丈夫なんだ、見逃してもらえるんだ、と学習する。

簡潔に言うと、我々のデフォルトの傾向とは、他人の怒りには厳しく、他人の攻撃には、同等に厳しくするか、もしくは、過剰に寛容か、そのどちらか。

解決策は、対応を逆にすること。例えば、腹を立てたパートナー、もしくは同僚に対峙する時、積極的に、相手の怒りは承認し、相手の攻撃には、断固としただが敬意ある境界線を引く(そして*コンシクエンス(結果)に従う!)

*follow with the consequences(行動の結果を覆さずにそれに従う?、責任を取らせる?、子供の教育でよく使われる表現のようだが……)

例えば、あなたがもっと家の掃除を手伝ってほしいとパートナーに求めた時、パートナーが自己防衛を決め込み始めたとする。パートナーはあなたの掃除が足りてないと批判し、いかに自分がハードワークしているか説明し、そんなことを頼むのは自己中心的すぎると言う。

さてあなたはなら、どう反応だろうするか?

まずは、相手の怒りと不満を承認する、あなたは、こんなことを言う、

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「あなたは怒っているのね、私があなたを批判している感じになったから。私はあなたがしていること全てに本当に感謝している、最初にこれを伝えておくべきだった。私は家事に追われているだけなの、家を綺麗に保つ別の良い方法がないか話したかっただけなの」

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これは自己防衛のスパイラルに陥る可能性を下げる、自己防衛のスパイラルは誰にとっても最善ではない。たったこれだけの行動が、劇的に役に立つことはよくある。

だが、単純な承認だけではうまく行かなかった場合、彼らはこのような反応をするだろう:

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「くそだな!お前は俺にお前の仕事をやらせたいだけだろ。ずっと怠けているくせに」

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これは、攻撃であり、断固とした境界線を引く必要がある。

そのやり方は:

 ・自分の我慢を超えた攻撃の構成要素を明確にする

 ・少し時間をかけて、どのタイプの攻撃的会話と攻撃的行動に対し自分は境界線を引きたいのか書く

 ・次に、その攻撃が起こった場合に自分はどう反応するか決める。例えば、パートナーが自分の批判を始めたら、私はパートナーに一度だけ「やめて」と言う。やめない場合は、私は会話から去ることにする。

 ・境界線を遵守する際に生じる厄介な感情を予想しておく。境界線と他人の攻撃の結果を遵守するのは簡単ではないと心得ておく。あなたは罪悪感を感じるかもしれない、例えば、自分にはこの問題を修正する義務がある、というような。あなたは心配するかもしれない(相手が怒り続け、何か愚かなことをするのではないかと)。いずれにせよ、自分の引いた境界線を遵守するために生じるこの感情の摩擦に、不用心に足元を掬われないようにする。

 ・落ち着いている時に、自分の計画を問題の相手と共有する。例えば、日曜の午後に数分とって、パートナーに、あなたの怒りと攻撃的な態度が本当に自分を悩ませていると説明する。そして、これからはこういう対応をすると。

もちろん、相手の攻撃があなたが身の危険を感じるほどに極度の場合は、専門家に助力を求めるか、単に警察を呼ぶ。

もし、あなたが、セラピストかカウンセラーのもとを訪ねるなら、彼らは計画を前に進める支援リソースになるだろう。かかりつけ医も同様だ。虐待もしくは危険な家庭環境にある人たちには、ホットラインのような独立の支援機関もある。

要点をまとめる:

 ・他人の怒りを責めるのではなく、承認することを学ぶ。相手に、自分はあなたが怒っていることを理解している、そして、それを感じることに問題はなく大丈夫だ、と知らせよう。本当に多くの怒りの問題が、このシンプルな一歩で解決されるだろう。

 ・他人の攻撃に対して明確な境界線を引く。相手の攻撃に、自らも攻撃をもって返すことは避ける、甘受しその責任を取ることも避ける。相手の攻撃を管理する明確な計画を作り、それを完遂する鋼の覚悟を決める。

 ・虐待の場合は、常に、専門家の助力を求める

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2.彼らの怒りの機能を探す

幼少期より、我々のほとんどは、つらい感情や難しい感情を病気のように捉えることを教わった(我々を傷付ける外部からの敵であり、速やかに、根絶するか、少なくとも無視する)。

幼少期の自分を考えてみてほしい:一体どれだけの回数、あなたは、「元気を出しなさい」、「落ち着きなさい」、「嬉しそうな顔をして」、「怒るのやめるまで自分の部屋から出てはいけません」と言われただろう? 無意識的に、これらの発言は、自分の感じ方が間違っている、さらには、その感情を持った自分が悪い、と伝えている。

我々は感情を、解決すべき問題、もしくは、避けるべき問題、として扱うように教わってきた。

我々が教わらなかったのは、自分の感情に耳を傾ける方法。数少ない人たちは、自分の感じ方(how we feel)に対し、仕方なく屈するのでも、避けるのでもなく、三つ目の選択肢があることを学ぶ:あなたは静かにそれらを聞くことができる、それらが「言っている」ことを考慮し、意見を聞いた上での進め方に関する選択をする。

感情について考える際の最善の方法は、車の計器盤のランプ:それは少し落ち着かない時もある(燃料が残り少ない!)、だが、それらは我々に何かを伝えようとしている。

感情の機能(それらが何をしているのか)をよく見ることを学ぶ、これがエモーショナル・インテリジェンス(感情知性)全般における鍵となる部分である。他人の怒りと対峙する時には、とても有用となりうる。

ほら、ほとんどの人が気付いていないのは、怒りはポジティブな感情だということ。怒った人は最終的にネガティブな事をするという理由で、我々は、怒りの感情を悪い、もしくはネガティブなものと考える。だが、真剣にそのことについて考えるなら、怒りという感情自体は、実際には、心地良いものである。それは膨張的であり自我をブーストする。

 ・すべての「お前は、馬鹿だなあ」という評価の裏には、「私は賢い」が暗示されている。

 ・すべての「駄目だよ、間違っている」という判断の裏には、「私は何が正しいか知っている」が暗示されている。

怒りが、実は、気持ち良いものだということを理解すれば、なぜ人々はこんなにも怒り、そして、怒り続けるのかという理由が見えてくる……、それは、とても気持ち良い!からである。

ほとんどの人が気付いていない、だが、とても一般的な怒りの機能とは、悲しみや恐怖、恥といった別の難しい感情を軽減させる、もしくは、そこから気を逸らさせること。それは防衛機構なのである。

状況の見方を変え、誰々が何か間違ったことをした、とすることで、恐怖や悲しみといったつらい感情を、速やかに、軽減できるということを多くの人が学んでいる。その結果、彼らは、自分は正しい、正当である、と感じ、自分のよりつらい感情から、一時的に、気を逸らす。人々がこれほどにジャッジメンタル(judgemental、批判的、否定的)になるのには、こういう理由がある。

例えば、あなたが、同僚に対し、一緒に取り組んでいるプレゼンの修正を求めたとする、同僚は、すぐさま言い返す:「いや、俺は散々お前のミスを修正したんだが!」ここでは、怒りは、例えば、ミスをしたことによる恥の感情を緩和する機能をしている。

他人の怒りの機能を見ることを学べば、他人の怒りと自分を分離し、一定の距離を保つことが容易になる。夫が怒っていて失礼な態度をするのは、自分の不安を紛らわせるための防衛機構(それがどんなに原始的であっても)である、と理解できれば、自信を持って揺るがない対応を取りやすい。

さらに、他人の怒りの機能を知ることは、他人の怒りの認識と承認を用意にする、上記第1項で述べたように。

次にあなたが他人の怒りと対峙していると自覚した時には、自問してほしい:「この人の怒りが果たしている機能は何だろう?」「怒ること(心地良い感情)は、何を達成する(もしくは、行う、考える)役に立っているのだろう?」

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3.憶測のセルフトーク(独り言)は避ける

我々人間は、意味を作る機械である。また、我々は物語る機械でもある。

我々は、物事には本質的な目的と秩序があると信じることで、安心と快適を感じたいと欲する。我々は、物語りをすることで、物事に対し自分の目的と秩序を強いることがある。

何か上手く出来なかった時のことを考えてみてほしい、テストの成績がCだったり、勤務評価が低かったり。この場合よくあるのは、あなたは、ほぼ即座に、何故こうなったのか、に関して自分自身に物語りを始める:

 ・「友達と遊んでいた余計な3時間を勉強に当てればよかったんだよなあ」

 ・「部長はちょっと厳しすぎる。彼女はいつも自分に突っかかってくるし、自分は目の敵にされている」

上記のいずれも、我々は、現状に筋を通す(道理を見つける)ための一つの方法として物語りをしている。

さて、この物語りは、かなり客観的に、真に物事をより良く理解するために行われている場合もある。だが、我々が語る物語は、物事の真実を動因とするのではなく、自分自身の気分を良くするため、である場合のほうが多い:

 ・もっと勉強をしていればもっと良い成績が取れたと自分自身に語ることは、我々に、自分がコントロールを持っている(自分の制御下にある)と感じさせてくれる

 ・部長を責めることは、自分が最近業務怠慢だったという事実に対する罪悪感を薄めてくれる

我々は、独り言と物語ることが持つ力を手懐けることができる場合もある、だが、これらは、本能的に生じたり、自我を増強し気持ち良くなるために生じている場合が多い。そして、これをそのまま見過ごしていると、これらの独り言の習慣は、自分の感情生活と人間関係に大災害を生じさせる。

怒りへの、そして、他人の怒りへの対処となると、多くの人たちは、他人の怒りの意味について物語を紡いでしまうという自動的な習慣によって、事態を悪化させてしまう。

例をひとつ:

あなたが部屋に入ろうとした時、あなたの奥さんがあなたに向かって怒鳴ったとしよう、その原因はあなたが30分遅れたからで、それによって彼女は打ち合わせに遅れることになった。ほぼ瞬時に、あなたの思考とセルフトーク(独り言)は、彼女の怒りの意味について物語を紡ぎ始める:

「ゴッド、なんで彼女はこうも四六時中怒らなきゃならないんだ。落ち着くべきだ、大したことじゃない(そんなにかっかするほどの価値はない)。彼女はセラピストに診てもらって、自分の怒りの問題をコントロールできるようになった方が良い」

まず、この物語には、潜在的な思い込みと間違いがたくさんある:

 ・本当に彼女は「四六時中」怒っているのか?

 ・あなたにとっては、それは大したことじゃない。だが、あなたは、それが彼女にとっては、実際に、大したこと、であるかもしれない全ての可能性を考慮したのか?

 ・あなたに向って怒鳴っただけで、彼女が怒りの問題を抱えていることになるのか?あなたは、本当に、怒りの問題(anger issues、アンガー・イシュ、*過度に怒りっぽい性質?)が意味するところを知っているのか?自分が、彼女は怒りすぎだと感じる、という理由だけでそう言っているのではないのか。

次に、このセルフトークは利己的である。事実、あなたが語るこれらの物語は、あなた自身を善良な人に、そして彼女を悪人に見えるように仕立て上げ、あなた自身を気持ち良くさせている。自分が気持ち良くなるという事実は、客観性という点において、大きな利害の衝突である。もしかすると、彼女の怒りに関するこの物語は、すべて、自分自身の時間に対する不注意という罪から気を逸らしたいだけではないのか?

重要なのは、自分の頭の中で、他人の怒りとその意味について物語り始めるのは、とても簡単だということ。そして、通常、これらの物語は、高い客観性を持たない、その大きな原因はそれらが利己的になりがちだからだ。

他人の怒りが正当ではない理由についての物語を自分の頭の中で作り上げてしまうと、あなたは、高い確率で、他人の怒りを承認しない方向で行動をし、彼らを自己防衛的にさせ、衝突を激化させてしまうだろう。

そうではなく、他人の怒りに対峙する際に最も有効な行動の一つは、最初の段階で彼らの怒りに対して憶測を避けること。

憶測と利己的な直感を元に、彼らの怒りの仮説を構築するのではなく、もう少し事実に目を向けてみよう。一つの選択肢は、上記第2項でも述べたように、彼らの怒りの機能を理解しようとすること。

別の選択肢としては、シンプルに、現状の中の事実を分類すること。「正確には何が起こっている?、彼らの発言は私の体験と一致しているか?、私は恐れや悲しみ、罪悪感、もしくはその他の強い感情を感じているか?、もしそうならその感情は何に起因する?」

物語は力を持つ。直感的な(勘による)反応と、自分の自我を守りたい衝動を根拠にした場合、それらの物語は、最終的には、良いこととなるより、害となる場合の場合が多い。

他人の怒りに対峙する際には、自分のデフォルト(初期設定)のセルフトーク(独り言)のスクリプト(筋書き)を自覚するように心がける。そして自問する、「これ(*セルフトーク)はどれだけ現実に則しているか?、もっと言うなら、この一連の思考は本当に現状に対して有用なのか?」

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4.アンガー・プランを作る

もしあなたが、私や、私が共に(*治療に)取り組んでいる私の数十人のクライアントたちと同じなら、怒りはパターンを伴って生じている。つまり、怒りが生じる際に、予想可能な特定の状況、時間、出来事、引き金があるということ。

どんなカップルにも当てはまるであろう簡易な例がある:あなたは、仕事で疲れた日の夜の11時30分にベッドで、本当に重要で真剣でハイリスクな会話を試みたことがあるだろうか?もしそうなら、あなたは、絶対に上手く行かない、という不可避の真実を知っている。これらの会話は、喧嘩や口論、傷心、睡眠不足に結び付くことが多い。

重要なのは、我々は、他人の怒りに、完全な無防備の状態で隙を突かれてしまう時もあるが、通常、それはかなり予想可能な状況で発生するということ。つまり、あなたがどこに目を向ければいいのか知っていれば、これらの高リスクの怒りの状況を予測し、それに対処するための堅実なプランを用意できる。

これは結果論だが、夜の11時30分は重要な会話をするのに適切な時間ではないのかもしれない……。

アンガー・プランを作るということは、よくある怒りの状況に対する戦略を用意するということ、それは自分のため、もしくは、(理想的には)、対象となる他人の合意の上ならその他人のためでもある。

例えば、私のクライアントの話、彼と彼の妻は、彼の両親の話題になった時には、いつも二人は喧嘩になる。彼の話では、彼の両親は自分の妻をすぐ批判する、意地悪をする時さえある、そして彼女は、当然ながら、彼らとの関わりに神経質になっている。

なので、休日の家族集まりを計画する時、例えば、彼の両親とどれだけ時間を過ごすべきか、または過ごすべきではないか、に関して、腹を立て喧嘩になる。

状況をより詳しく聞く中で、私は私のクライアントが気付いていない別のパターンに気づき始めた:彼らは、ほぼ常に、彼の両親と何をするか計画する話し合いを「無意識に、自然発生的に」行っている。

例えば、彼は母親から感謝祭の正餐についてのメールを受け取った、すぐに彼は、妻に感謝祭で何がしたいか聞いた。彼の妻は、直感的に、少しストレスを感じ、その話題に不意打ちを食らったことで苛立っていた。そして、私のクライアントは、彼女のストレスを怒りであると解釈し、彼は自己防衛的になった。そして、お互いに気づかないまま、完全な喧嘩になっていた。

私は、この問題の大きな原因は、彼の両親のついての議論が持つ無意識・自然発生的で受動的な性質にあるのではないかと提言した。

我々は少しエクササイズ(練習、実践)を試した、次に何か両親とする必要があることが持ち上がった場合、少なくとも1時間待ってから妻に話を持ちかける。そして、妻に話す際には、軽く触れるだけにして、この数日中にこれについて話せる時間があるだろうか、と妻に問う。

これにより、彼の妻は、もう少し準備ができた状態でその会話を始めるための、自分でこの事についてゆっくりと考える時間を持つことができた。

予想通り、私のクライアントは、このちょっとした「ゲーム・プラン(攻略法)」が、驚くほど上手く行ったと私に報告した。それ以降翌年にかけて、彼らの怒りを伴う論争は劇的に減った。

私はこの話を気に入っている、なぜなら、これは怒りに対し計画を持つことの恩恵の良い例である。怒りに満ちた状況が、難しいが対応できるものから、破滅へと至ってしまうのは、そのほとんどの場合において、我々がその状況に「リアクティブ(受動的)」に対応するからだ。その代わりに、それらの状況を予測する方法を見つけ、そしてそれらに上手く対処するためのすぐに使える計画を持てば、我々がその対応に成功する確率は跳ね上がる。

もちろん、これは常に可能なわけではない。誰か他人の怒りが突然に降って湧く時もある。

だが、ほとんどの場合は、怒りにははっきりとわかるパターンがある。それらのパターンを理解できれば、そのパターンを予想できる。そして計画を持てば、上手く対処できる確率は大きく高まる。

5.ディファレンシャル・リーンフォースメント(differential reinforcement)の技術をマスター(習熟)する

「ディファレンシャル・リーンフォースメント」は、すごく専門用語的で奇異な響きを持つが、とてもわかりやすい概念であり、他人の怒りに対応する際に極めて有用なツール(道具)である。

その仕組みとは:

リーンフォースメントとは、心理学の基本的な概念の一つであり、我々の行動はその後に続いて起きることに影響されるということ。特に、その行動が心地良い体験につながった場合、その行動が再度行われる確率は高まる。だが、その行動が不快な体験につながった場合には、その行動が再度行われる確率は下がる。

例えば、あなたの部長は、あなたがタイムカードに数分遅れた時に、パッシブ・アグレッシブ(受動的な攻撃性を持つ)なメールをあなたに送る習慣があるとする。これは、当然ながら、あなたにとっては迷惑である。

あなたが彼の行動を止めさせたい(少なくとも回数を減らさせたい)なら、あなたは、そのリーンフォーサー(強化しているもの)について考えるべきである:「メールが送られた後に何が起きる?未来において同じ行動を誘発させているそれは何だ?」

この場合、あなたは、このメールに謝罪(遅れている理由を説明し、部長に再発防止を約束する)で返す傾向があるかもしれない。ある意味では、これは賢明な対応に思えるかもしれない、なぜなら、あなたは、自分の遅刻に理由を付けることで、部長の怒りが抑えられるかもしれない、と想像する。そして、世の多くの部長らは、これを良い心掛けと考え、あなたが仕事を気にかけていて、ただ怠けているわけではない印として受け取るかもしれない。その結果、あなたに時間制限の余裕を与える(つまり、迷惑なメールの頻度は減る)。

しかしながら、人はそれぞれに異なる。権力を求め、職場で他人を「監督」することに喜びを見出すタイプの部長も、想像に難くない。つまり、あなたのメールの返事は、この部長の権力と優越の意識(彼はこれを感じるのが大好き!)を膨張させるかもしれない。

リーンフォースメントという観点から見れば、あなたの謝罪のメールは、実際には、未来におけるパッシブ・アグレッシブ(受動的攻撃、皮肉)メールの発生確率を高めているかもしれない!その場合は、単にメールに返信をしないことが未来における同様のメールの発生を減少させるかもしれない、なぜなら、彼はそこから多くを得られなくなる。

ディファレンシャル・リーンフォースメントの技術とは、他人の行動の本当の動因は何か見極めることを学ぶこと

そして、あなたが、彼らの行動(あなたがより多くを求める行動とより少なくを求める行動の両方)への賢い(そして創造的な)反応の方法を理解できれば、良いことがある。

別の例に応用してみよう:

洗濯について妻と何度も喧嘩をしているクライアントがいた。特に、このクライアントの妻は、汚れた服をクローゼットの前の床に一日か二日放置してから洗濯かごに入れるという習慣があった。

これが、このクライアントの気に障った。彼はこの事について妻と何度か話したが、何も変わらなかった。その結果、彼らは洗濯に関して、常に、ちょっとした言い合いをすることになった、そして、それは彼らの関係にとっては実際に小さいもので重要なものではなかった。

私はこのクライアントに、二つの部分から成るちょっとしたリーンフォースメント(強化)を行うことを提案した:

 1.自分がより多くを求めたい彼女の行動(彼女が自分の洗濯物を洗濯かごに入れること)をポジティブにリーンフォース(強化)する

 2.自分がより減らしたい彼女の行動(床に服を脱ぎ捨て放置する)をリーンフォース(強化)することをやめる

それでどうなったか:

 ・時折、そして次第に、このクライアントの妻は、自分の洗濯物を洗濯かごに入れるようになった。洗濯かごに入れるのに永遠にかかっていると批判する代わりに、彼は、敢えて、心の底から、自分はこれを歓迎すると伝え、大きなハグをし、それで切り上げた。

 ・このクライアントの妻が、床に洗濯物を放置している時は、常に、彼は何も言わず、自分がそのことで苛立っているのを態度にすら出さないように全力を尽くした。さらに、彼は、彼女の洗濯物を片付けてあげることもしなかった(これはそれまで彼が習慣的にしていたことだった、彼はクローゼットの床に洗濯物を置いておくのを嫌っていた)、だが、この行動によって、彼は自分が嫌う彼女の行動をリーンフォース(強化)していた。

 ・数週間の内に、(当然、このクライアントにとっては厳しい期間だったが)、物事は移り変わり始めた。彼の妻が洗濯物をすぐに片付ける頻度が増加した。このクライアントの床に放置された洗濯物に対する耐性も増加し、あまり彼を悩ませなくなった。そして、何より、言い合いや口喧嘩が減った、つまり彼らの関係は目に見えて改善した。

もし、あなたが他人の怒りに悩んでいる場合、あなたはディファレンシャル・リーンフォースメントを活用し役立てられる:

 1.自分が変えたいと思う行動を特定する(通常は、それは何らかの形のアグレッション(攻撃)である)

 2.その行動のすぐ後に何が起きるのか注意深く観察し、そして、自問する:「これが問題の行動を未来において繰り返させる確率を高めているのか?これはこの人にとって、ポジティブなことか、それともネガティブなことか?」

 3.ほぼ常に、攻撃的な、もしくは苛立たしい行動には、それを強化する何かが続き、その行動を繰り返す確率を高める。それは直感に反する場合が多い、またそれはあなた(受け取り手)が意図せず行っている何かである場合も多い。例えば、状況について真実を示そうとすることで、怒っている人に注目を与えること(これはリーンフォースメント、強化である)。

 4.もしあなたが、その行動を強化しているかもしれない何かをしているなら、やめる。問題の行動と対峙した時に何もしないことを1週間か1ヶ月続け、どうなる見てみる、という実験をしてみる。

 5.対立や怒りに対して、攻撃的な行動に出る代わりに、良い反応が見られた場合には、その代替行動をポジティブに強化することに努める。

ディファレンシャル・リーンフォースメントは万能薬ではない。だが、特定の状況では、ゲーム・チェンジャー(結果を変える力を持つもの)になる。いずれにせよ、これは、自分の人生における、怒りと攻撃的行動のパターンについてより注意深く考えるために有用な手段の一つである。

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あなたが知るべきこと

他人の怒りと対峙するのはチャレンジングであり、時に、恐ろしくもある。我々は、結局、他人(その感情や行動も含む)に対してそれほど多くのコントロール(影響力)を持たない。だが、他人の怒りに対峙する際に、上手く対応するために我々皆が学ぶことができる建設的なことはある:

 ・怒りは承認し、攻撃には境界線を引く

 ・彼らの怒りの機能を探る

 ・憶測に基づくセルフトーク(独り言、推論)を避ける

 ・アンガー・プランを作る

 ・デファレンシャル・リーンフォースメントの技術をマスターする

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メモ:これは「怒り三部作」の第三部である、第一部(The Secret Life of Anger)と第二部(Ten Healthy Ways to Manage Anger Issues)へのリンク

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