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【短編小説】あの時の噓③

翌日。

午前中の仕事を終えた私は

昨日の場所へ向かっていた。

昨夜、就寝する前に

この町の映画館を

ネットで検索してみた。

しかし検索結果には

今向かっている映画館は

出てこなかった。

無論ホームページもない。

そのため

私が観ようとしている映画の

上映時間が分からない。

実際にもう一度

その場に足を運ぶほかなかった。

片側一車線の

この町一番の大通りから

一本中に入った道。

町の構造は

そこまで複雑でないため

その道に容易にたどり着けた。

昨日は空腹のあまり

周りを見渡す余裕がなかったので

今日の景色が

新鮮に見えた。

道の左側には

小さな工場が連なっていた。

「硝子」「板金」など

錆びれた看板が

辛うじて屋号を伝えている。

その工場からは

音は聞こえない。

聞こえるのは

一本向こうの道を

行きかう車の音だけだ。

道の右側は

その工場の倉庫のようだった。

全ての建物に

シャッターが下ろされていた。

その道を進むと

中央あたりに

小さなそば屋があった。

そば屋の前には

配達用のカブが停められていた。

それはこの道で

唯一「動」を表すものだった。

お店は開いているようだった。

しかし

聞こえるのは調理の音と

店員の話声だった。

どうやら

お客はいないらしかった。

そして

その隣に目的の映画館があった。

④へつづく

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