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【短編小説】あの時の嘘①

「恋は猫」

ふとその文字が目に飛び込んできたのは

ある町の小さな映画館を通り過ぎた時だった。

その時、私は出張先での外回りを終え

昼食がとれそうなお店を探して

通りから通りへと彷徨っていた。

「この町にはどうやらファミレスはないらしい」

とぼやきながら

車が一台ほどしか通れないであろう

見知らぬ狭い通りを歩いているときに

その文字を見つけたのだった。

私はその文字

いやポスターの前で立ち止まった。

そのモノクロのポスターは

いわゆる大きな映画館にあるものとは違い

大きさはA4ほどだった。

しかし私を惹きつける何かを

そのポスターは帯びていた。

そこにゴシック体で

「恋は猫」

と書いてある。

そしてその文字の下には

しゃれた筆記体で

その映画の原題があった。

無論読めない。

背景は

映画の1場面と思われる。

若い男女がテーブルをはさんで

お互いにうつむき加減で

読書をしている。

男は黒ぶちの眼鏡をかけており

女はセミロングの髪だ。

テーブルには

テーブルクロスが敷いてあり

その上には

コーヒーカップが置いてある。

2人の背景は

どうやら喫茶店のようだった。

ふとポスターに見入っていると

私の後ろをそば屋の出前が

轟音をたてて走り去っていった。

そこで我に返った。

「ああ、腹が減ってたんだ。」

私は昼食難民になりかけていることを思い出し

その場をあとにした。

②へつづく

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