見出し画像

映画「パーフェクトブルー」

 今敏のアニメ映画「パーフェクトブルー」を見ました。初見でした。そうしたら、これがまた怖いのなんの。今夜の夢に出てきそうです。怖いと表現するのすらネタバレになりそうな気がして、何も知らずに見るのが一番だとは思うのですが。現実世界を舞台にしたSFサスペンスでここまで理で作れているアニメを私は他に知りません。よくできているなぁ。
 主人公のアイドル未麻が女優に転向するところからストーリーは始まります。転向によって、身内もファンも、未麻自身も変化していく。その変化に飲まれてしまうのか、抗うのか。抗うとしたら、どう抗うのか。
 ざっくり言うとショービジネス周辺のエゴの話ではあるのですが、理屈で逐一、丁寧に伏線が張られていて、かつ登場人物たちが身に覚えのある感情の動きをするので、何が起こってもそれに嘘がなく感じてしまうんですね。真実が描かれているような錯覚を起こす。幽霊もののホラーとか私はつまらないと思っていて、幽霊が出たところであんなの空想じゃんとしらけてしまいます。嘘に説得力がなくて。
 この映画ではいかにもありそうな話が混乱していって、現在と夢の境目が曖昧になります。果たして狂っているのは誰なのか。渦の中心には必ず未麻がいる。過去の未麻と現在の未麻。理想の自分と、他人から見た理想の彼女。ただでさえ曖昧なその現実にお芝居までもが交錯して、視聴者も追い込まれている感覚に陥ります。見終わったあとは、この映画から抜け出せて良かったと心底ホッとします。出口、あったんだと。
 八十分の悪夢。悪夢なら理屈は通っていないけど、この悪夢のような映画にはあらゆる理屈が通って見えて、それが怖い。幻覚はあっても幻想はないというか。そういうリアルさがある。
 最後をどう畳むのかというところも、そうくるのかと思わされました。好きとは違うけど、こう締めることでこの映画は良くなっている。説得力が増している。
 パソコン通信なんて作中で言っていますが、全然古臭くないのがすごいですね。ガワが前時代でも、本質が完全に現代に通じる内容になっています。
 そういえば、アイドル風の歌謡曲がいくつか挿入されていて、それらがあって良かったなと思いました。空っぽなアイドル曲というある種の清涼飲料水で一息つきながら見ていても、ここまで怖いんだから、歌がなかったら映画を超えてもはや恐怖映像なんじゃないかと。それは大袈裟ですかね。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?