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ショートショート「ウィークポイント」

中途入社から半年が過ぎた。毎日大変だけれど、幸か不幸か五月病にならず、ニートに逆戻りすることもなく出社できているのは、先輩のおかげだと思う。厳しいけど、優しい。あと、取引先と商談に向き合ってる先輩は、なんていうか……超カッコ良い。

控えめに言っても容姿端麗。ついでに文武両道。上司には信頼されてるし、僕以外の部下からも慕われてる。社内のバスケサークルでもキャプテンで、当然のようにエースだ。社員寮の中でも先輩に憧れる奴らは、そりゃあ多い。

天は二物どころか三物も四物も与えてるし、なんて不公平な世の中だ!と思わざるを得ない。少しで良いからカッコ良さを分けてほしいし、学生時代から陰キャの僕にコミュ力を分けてほしかった。そしたら営業成績は今よりずっと上がったろうし、なんなら自信をもって合コンにだって行けたはずだ。そういや、先輩は合コンとか行くのか?そもそも恋人の1人や2人、いや4人や5人ぐらいいたって、おかしくない。完璧じゃないか!

なんだか僕は先輩の弱点が知りたくなって、外回りの最中に質問攻めにしてしまった。嫌いな食べ物から、苦手な取引先や担当者まで。逆に、質問の意図をしっかり聞かれてしまって、しどろもどろになった。それなのに先輩は

「そんなのないし!!!」

と、口を開けてガハハと笑うだけだった。しかし次の休日、思わぬタイミングで弱点は発覚した。寮から商店街に向かって歩いていたら、ばったり先輩に遭遇したのだ。可愛い女性と手を繋いで歩いていた。2人ともモデルみたいにスラリとしていて、よく目立つ。僕みたいな凡人からは、とにかく光って見える。

「あ、そうだ。あえて言うなら、この人が私の弱点よ。」

すれ違いざま、いつもよりも柔らかく笑った先輩が、いつものようにヒールの踵をカツカツと鳴らして歩いていった。

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