見出し画像

この世で一番面白いエッセイ(もものかんづめ/さくらももこ)

タイトル通り、この世で一番面白いと思えるエッセイ本。
有名なので読まれてる方も多いはず。

私はこの本をずっとトイレで読んでいた(2周目)のだが、読みながらぐふふと笑ってしまうので、トイレから出た後に旦那から「さっきトイレで笑ってなかった?」とバレてしまう始末。

トイレで一編ずつ読みすすめていると、もう一つ読みたい、という気持ちがまさり更に読み進めてしまい、トイレがかなり長くなってしまう。
しかも、トイレからは笑い声。
このままでは家族にトイレで何か良からぬことでも企んでいるのではないかと疑われてしまう。

トイレから出て普通にリビングで読めば良い話だが、トイレで読んでる方が、自分だけが他人の面白い人生をこっそり覗いている感があって、良い。
何だか口調も、さくらももこのエッセイ風になってきた。でもせっかくだから今日はこのままいこう。


出会いは新婚旅行のお供

私たち夫婦は新婚旅行で二週間程度ヨーロッパを周遊することにしていた。
出発の当日、二週間も日本を離れるのであれば、日本語が恋しくなったり、旅行に疲れて部屋で本でも読もうとなるのではないかと思い、羽田空港の本屋で本を買うことにした。
そこで購入したのが「もものかんづめ」である。
旦那が、さくらももこは本当に面白いよ、とお勧めしてくれたので、どれどれどんなもんだいと購入して、早速、行きの飛行機から読み始めた(早い)。

これがもう読み始めたら止まらない。私の旅行に対するワクワクと一抹の不安(海外旅行には必ず伴う、慣れない国へ行くことへの漠然とした不安)が一気に彼方へ飛びやり、本の世界にのめり込んでしまった。

海外旅行中も、移動時間や部屋でのんびりしているときに、この話が最高に面白い、この表現が秀逸すぎる、と終始もものかんづめの話で盛り上がっていた。
すっかり私たちの新婚旅行の思い出の一つである。

「奇跡の水虫治療」の回で、さくらさんが水虫になり、そのことが母にバレた際、母が自分も過去に水虫になったことがあると打ち明けるのだが、そこでの家族の反応とその描写が面白すぎる。

それにしても、母の”私も水虫になった発言”は、家族の間でもセンセーショナルな話題としてもちきりになった。彼女は若い頃、『イヤだけど命にはかかわりない病気界』の三本柱である、盲腸・イボ痔・がんこなニキビ、を経験しており、その上に水虫までともなれば、がっぷり四つ、こわいもんなしではないか、と我々は絶賛してやった。
(文庫 もものかんづめ p14)

『イヤだけど命にはかかわりない病気界』の三本柱って。またその病気のわかりみが深い。
その他にも友人と健康ランドに行く話や、小学生の頃無意味だと感じていたHR委員会親睦会(お泊まり)のこと。恥ずかしながら自分にも共感できるポイントが多々ある、恋する乙女のバカ心など、現実味を持って想像できるが自分ではここまで面白くは語れない話が目白押しである。


さくらももこの作品に対するスタンス

祖父友蔵が亡くなる「メルヘン翁」という回がある。
ここではさくらももこの祖父に対する感情や亡くなった日の様子などがあっけらかんと包み隠さず書かれており、ここまで赤裸々かつ面白く書くのは、なかなかどうしてもできない事である。

この回が雑誌に掲載された時、読者から、身内のことをこんな風に書くなんてひどい、さくらももこの話はもう読みたくない、といったような手紙が数通届いたと記載がある。(単行本 もものかんづめ p226)

これに対してさくらももこは、

そうか、もう読みたくないか、それじゃ仕方ないな、というのが私の感想であった。私はこれからもそのような人達の読みたくない物を書く恐れはいくらでもある。遅かれ早かれ受け入れてもらえない日は来たであろう。
(単行本 もものかんづめ p226)

と書いている。私はこのスタンスがすごく好きだ。潔い。
そして自分にも少し身に覚えのある出来事を思い出した。

私は過去に、少し合わないと気付きながら、とりあえず仲を続けていた友人がいた。
その友人は、たまに私が言った言葉に対してひどく嫌悪し、連絡が取れなくなったりすることがあった。その都度謝罪し仲を続けてきていたのだが、ある日同じように私の発言で相手を傷つけてしまった時、これはもうだめかもしれないと急に悟った。

その感覚が、さくらさんの作品に対するスタンスに近い。

たぶん私は友人と根本的に合わない部分がある。
私の相手を傷つけるつもりは全くない発言で相手を傷つけてしまうのだから、これは今後も十分に傷つけてしまう恐れがあるだろうと思った。
私は友人に、傷つけてしまったことは、ごめんなさい。でも、これからもあなたを傷つけない発言をすることは約束できない。と伝えた。

その後、その友人とは少し疎遠になったが、多分これがお互いにとってちょうど良い距離なんだと今はわかる。


もものかんづめはシリーズ化されており、さるのこしかけ、たいのおかしらと続く。当然うちのトイレには全て揃っている。

さてさて次はさるのこしかけを読もう、とトイレにこしかけ本を開くと、1つの目のタイトルが「痔の疑いのある尻」。
すでに、ぐふふ、と声が漏れる。

読んだ内容を思わず誰かに話したくなってしまう、笑いのツボ満載の一冊。
家族に怪しまれない程度に、トイレ時間にぜひ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?