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愛するクラブのまとい方 ~ユニフォームコーディネート入門講座~

1.タンスの中身がJ2クラブ

暦の上では9月になりましたが、まだまだ暑い日が続きます。皆様いかがお過ごしでしょうか。ユウです。


私が小さい頃だと、9月といえばすっかり秋のような気がしましたが、最近の酷暑というと、なんともとんでもございません。その昔、太宰治は「秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。」と書いておりましたが、最近はいささか夏の主張が強すぎる気がします。未だに半袖が手放せず、衣替えなど考える余裕もない、そんな日々が続く今日この頃です。


しかしそうは言いましても、街を歩けばファッションビルはすっかり秋の装い。ショーウインドウには、21AW(2021年のAutumn/Winterの意)のコレクションが並んでおります。ファッション業界における秋支度、冬支度はすでに始まっているのです。


私も例外なく、この時期になると服を買い求める傾向にあります。高校生の頃からファッションに興味を持った私は、それ以降の10年間、いろんなファッションに触れて過ごしてきました。


最初は、ショッピングモールに入っているような、リーズナブルな服を扱うショップから。そのうち古着屋に行くことを覚え、まとまった金額が入ると、少し値の張るセレクトショップにも行くようになりました。


社会人になった今は、個人でやっている小さなセレクトショップに足を運んだり、名は知られてなくとも、コンセプトやデザインが気に入っているブランドのショップに行ったりしています。


これだけ好みが変わるので、当然私のタンスの中のアイテムは、3年で7割くらいが入れ替わっています。まるで選手の引き抜き・引き抜かれを繰り返すJ2のクラブのようです。長年常にレギュラー入りしている「バンディエラ」と呼ぶべきアイテムはありますが、組み合わせる相手はその時々で変わります。


きっと私にとって服は、その時々の自分の「ありたい姿」を表現するためのツールなのでしょう。人と会う時、街に出る時、自分がどのようにありたいのか。着飾ることで、その時々に応じた「ありたい姿」を表現するのが、きっと楽しいのです。


しかしお堅めの会社に週5で勤めている私が「ありたい姿」を表現できるのは、基本的に休日になってしまいます。そして私の休日の行先として、大きなウエイトを占める場所がひとつあります。


それが「スタジアム」です。


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(写真:著者が持っている中で一番派手な服「ankoROCK」のパーカー。Mrs.GREENAPPLEのキーボードがフェスで着ていたのに惹かれ購入しました。)



2.愛するクラブをかっこよく着こなす

話は変わりますが、Jリーグサポーターの被服費というものは、往々にして小さいものです。「タンスの中で最も高額な服がユニフォーム」というのは、Jリーグサポーターあるあるのひとつでしょう。


ユニフォームという服は不思議なもので、試合と関係なく着ているだけでテンションが上がります。ちょっとしたランニングの時やテレワーク中など、着ていると少しだけやる気になれる、そんな魔法の服です。


試合以外で着てもテンションが高くなるということは、むろん試合の日は言わずもがな。スタジアムという場において、ユニフォームはコーディネートに加えたい必須のアイテムなのです。


ただ、私はJリーグサポーターであると同時に、着飾ることが大好きな人間です。クローゼットの中にはユニフォームより高価な服もちらほらとあり、それを着て、遠征先の街の喫茶店で一人静かに珈琲でもすすりたいという気持ちがは、日頃よりついて回っています。


つまり私は、スタジアムにユニフォームを着ていきたいという欲望と、なるべく着飾りたいという欲望の狭間で、日々苦悩していると言っても過言ではないのです。


さて、前置きが長くなりましたが、そんな悩みから、この記事はスタートします。今回の記事のテーマは「ユニフォームを用いた服のコーディネートを考える」です


もちろんサポーターと呼ばれる方々には、「ゴール裏という戦場に装いなど不要」「俺たちゃ裸がユニフォーム」など、硬派な方も大勢おられます。気持ちは分かります。

※私もその昔、真冬のカシマスタジアムで上半身を脱ごうとしたことがあります。大変気持ちよかったです。気持ちはよく分かります。


しかし、今は「声出し禁止・密になっての応援禁止」の時代。我々サポーターが思う存分暴れられる機会は制限されています。逆手にとって考えると、今の時代は昔に比べると、ライトに、ポップに、サッカー観戦を楽しめる環境にあるのかもしれません。


また、最近のトレンドとして、クラブチームのカルチャーをファッションの分野に取り入れた例が、年々増えてきています。


例えばフランス・リーグアンの「パリ・サンジェルマン」はクラブ独自でアパレル商品を展開し、渋谷のファッションビルに実店舗を構えています。


Jリーグにおいても最近では、ツエーゲン金沢が、クラブオリジナルのアパレルブランド「WAYZ」を展開し、クラブの理念をファッションの世界で表現しています。


アパレルに限らず、ユニフォームを街着としてかっこよく魅せようとする取り組みも、最近では多く見られます。例えばベガルタ仙台では、ユニフォーム発表の際、「おしゃれな着こなしのイメージ」として、ストリートファッションとのコーディネートを、キービジュアルとして提示しました。


海外のみならず日本にも「愛するクラブをかっこよく着こなす」というムーブメントが、着実に迫ってきているのです。



3.服選びは難しい?

しかし、服選びというのは往々にして非常に難しいものです。まず、どういう基準でアイテムを選んでいいのかが分かりません。


ファッション初心者向けの記事などでは、よく「サイズが合っていて、シンプルで、清潔感のある服装をしておけば間違いない!」などと書かれています。実際、そのようなアイテムを適当に組み合わせて着ておけば、まず、日常生活で大怪我はしないでしょう。


しかし今回は「ユニフォーム」、つまり「個性」を煮詰めたような服を中心に据えたコーディネートを考えなくてはなりません。我々はこれから、前例がほとんどない課題に立ち向かうのです。


ファッション系の記事にありがちなのですが、よく「秋の一週間コーディネート」のようなタイトルで、コーディネートの例と簡単なコメントをひたすら並べた記事を見かけます。


しかし今回は「ユニフォーム」の話です。そもそも愛するクラブは人それぞれ。クローゼットの中身も人それぞれ。前提となる条件が、人によって異なりすぎているのです。


この記事の最も重要な目的は、この記事を読者のみなさんに活用してもらい、ファッションを楽しんでもらうことです。


そこで今回は、コーディネートの組み立てについて、以下のように手順と考え方を整理しました。

【コーディネートの組み立て方】
① 基礎的な考え方をもとにした配色の整理
② 配色の考え方を用いたアイテム選び
③ 選ばれたアイテムからコーディネートを作る


当然のことですが、ファッションに正解はありません。これから紹介する内容も、人によっては間違っていると感じるかもしれません。


しかし、ファッションコーディネートは、「どう組み合わせればいい感じになるか」を考えている時が一番楽しいのです。競馬ファンがよく「いくら返って来るかも重要だが、それよりも予想することが楽しい」と言うように、人からどう思われるかはあまり気にせず、自分がいいと思ったもので勝負すること。これが何よりも大切で、楽しいことなのです。


この記事を読んだ後、読者の皆さんがタンスの中を見ながら、楽しく頭を悩ませて頂けることを期待しながら、続きを書いていきたいと思います。



4.ユニフォームコーディネートのポイント

さて、コーディネートを始める前に、まずユニフォームという服の特性を整理します。ユニフォームには、一般的に売られているようなシンプルなシャツと違った、以下のような特色があります。


▼ デザインが一枚で完成されている。
ユニフォームは基本的に、選手がピッチで身に着けて「映える」ものです。基本的に選手は、シンプルなデザインのパンツ、ソックスともにユニフォームを着用しています。
例えば白のシンプルなワイシャツなら、基本的にどんな色・柄のパンツを合わせても違和感なくコーディネートできます。しかしユニフォームのようなデザイン性の高いものは、派手なデザインの服と組み合わせると落ち着かない印象を与えてしまいます。
▼ シルエットがタイト
ユニフォームは運動着であるため、基本的にタイトに作られています。そのため、どちらかと言えば身体のラインが出やすいアイテムです。
そのため細いパンツを合わせると、細身の方はすらっとした印象に、大柄な方だと上半身が強調される印象になります。逆にワイドパンツなどを合わせると、裾が広がって、全体的に華やかな印象を持たせることができます。


これらの特徴を踏まえて、次は実際のユニフォームを使い、コーディネートを考えていきましょう。



5.ユニフォームコーディネート例①(2021・長崎・平和祈念ユニフォーム)

こちらは現在発売されている、V・ファーレン長崎の平和祈念ユニフォームです。ここからは例として、このユニフォームを軸にしたコーディネートを考えていきます。

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それでは、先ほど説明した以下の流れに沿って進めていきましょう。

【コーディネートの組み立て方】
① 基礎的な考え方をもとにした配色の整理
② 配色の考え方を用いたアイテム選び
③ 選ばれたアイテムからコーディネートを作る


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① 基礎的な考え方をもとにした配色の整理

コーディネートに使う色を選ぶため、まずはこのユニフォームに相性のいい色を探っていきます。

【このユニフォームのカラーリング】
メインカラー:水色
アクセントカラー:白、黄色

相性のよい色を探るため、ここで「色相環」というものを使います。美術の授業で習ったことのある方も多いかと思いますが、このように色を並べた円のことです。

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この色相環にある色を基本に、明度(明るくしたり暗くしたり)や彩度(黒の成分を混ぜる)を調整することで、さまざまな色を作ることができます。


それでは、相性のいい色を探していきましょう。相性のいい色とは、このような色が挙げられます。

【相性のいい色一覧】
同系色
:隣り合う色や近い色のこと。比較的まとまりのある配色になるため、メインカラーと合わせてコーディネートの軸になる。
補色:メインカラーに対して正反対の位置にある色のこと。いわゆる「差し色」として用いることで、全体のアクセントをつけることができる。
類似色:色相環上で30度~45度の位置にある色の組み合わせ。
対称色:色相環上で120度~165度の位置にある色の組み合わせ

また、色相環に含まれない色(色味の概念を持たないもの)として、白と黒があります。白と黒は、どんな色と組み合わせてもそれなりに相性がよくなるため、困った時に使うと便利です。


さて、話をユニフォームに戻します。この平和祈念ユニフォームのメインカラーは水色です。水色に対応する相性のいい色を探すと、こうなります。

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平和祈念ユニフォームのデザインを見ると、メインカラーの水色を軸に、同系色として濃い目の水色、デザインのアクセントとして対称色の黄色、サイドにはどの色にもなじむ白…と、相性のいい色を中心にデザインされていることがわかります。

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② 配色の考え方を用いたアイテム選び

それではここから、組み合わせる服を選んでいきましょう。


まずはボトムス(下半身)からです。ボトムスはトップス(上半身)と同じくらいの面積があるため、補色や対称色などのインパクトのある色を使うと、全体的に落ち着きのない印象になってしまいます。

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(写真:落ち着きのない配色の例:中崎町の古着屋で購入)


そのため、ボトムスの色はトップスに馴染むよう、ユニフォームと同系色となる青色系統のものを選ぶと、まとまった印象になるでしょう。

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また、ユニフォームの多くの面積を占めている水色(白色を多く含んでいる)に近い色である、白も相性がいいように思います。

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さて、次は靴を選んでいきます。ここではボトムスと同様に、青や紺、白などを選ぶと全体的にまとまります。


ここで、「補色、対称色はいつ使うの?」という疑問が浮かびます。答えは「コーディネートのアクセントとして」です。


補色、対称色がメインカラーとなるアイテムを使うと、印象が強くなり、そのアイテムだけが浮いた印象になります。しかし、デザインの中に少しだけ、補色、対称色にあたる色が含まれたアイテムを選ぶと、コーディネートのアクセントとなり、単調な印象を回避することができます。


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③ 選ばれたアイテムからコーディネートを作る

さて、選んだアイテムを組み合わせて、完成したコーディネートがこちらです。


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パンツ:Lui'sのワイドパンツ(白)
靴:D'shのデッキシューズ(紺)


白や水色などの明るい色が前面に出ているため、全体的にゆったりとした印象に見えます。そこで、足元を引き締める目的で、タイトに見える紺のデッキシューズを使い、全体をまとめています。


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パンツ:Lui'sのワイドパンツ(紺)
靴:NIKE AIRMAX

こちらは逆に、紺のワイドパンツを挟んだことで締まった印象になりました。そのまま暗い色の靴でもまとまるとは思うのですが、すこしだけ遊びを入れる意図で、白ベースのスニーカーを入れてみました。スニーカーに含まれている暖色系統の色が、ユニフォームの色から見た、補色や対称色の位置にあたるので、いわゆる「差し色」の役割を果たします。


また、これからの季節、少し肌寒くなる時には、上着を羽織る機会も多いです。上着を羽織ることで、コーディネートのメインカラーが、ユニフォームの水色から上着の色になるため、ユニフォームが「差し色」の役割に変わります。

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ジャケット:UNISON SQUARE GARDENのツアーグッズ(黒)
パンツ:MHL.のスキニーパンツ(紺)
靴:FRED PERRYのスニーカー(紺)

黒の上着を羽織ることで黒がコーディネートのメインカラーになります。そこで思い切って全体を黒や紺などの暗い系統でまとめ、ユニフォームがアクセントの役割を果たすようにしました。上着のワンポイントに青が含まれていることも、全体として馴染む効果を生んでいます。


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シャツ:WHO'S WHO galleryのドレープシャツ(白)
パンツ:Lui'sのワイドパンツ(白)
靴:FRED PERRYのスニーカー(紺)

こちらは、最近セットアップ(上下セットの服装)が流行っているのを意識して組んだコーディネートです。本当は真っ白な靴があれば理想だったのですが、手持ちの白い靴がどれも派手であるので、単色でまとめたこのコーディネートには合わないと踏み、シンプルなデザインの紺のスニーカーでまとめました。


これらの例のように、ユニフォーム一着だけでも、いろいろな着こなし方ができます。タンスの中の戦力を駆使してスタメンを決めるような感覚で、ユニフォームは楽しくアレンジできるのです。



6.コーディネートが先か?ユニフォームが先か?

今回は長崎を例にとりましたが、全国には様々なクラブがあり、チームカラーも多種多様です。そしてユニフォームも、メインのユニフォームのみならず、アウェイ用ユニフォーム、ゴールキーパー用ユニフォーム、最近では夏季限定ユニフォームなど、同じクラブでも多種多様な種類が発売されています。


私も昔は「ユニフォームは年に一着あればいいや……。」と考えていました。しかし、サポーター熱が高まり、一年にユニフォームを複数枚買うようになると、その日のファッションに応じてユニフォームを選ぶことが、だんだん楽しくなってきました。


今ではもはや、コーディネートを組むために、年間にユニフォームを複数枚買っているようなものです。(長崎はレプリカユニフォームが1万円台前半で売られているという要因も大きいですが。)


服選びというのは大変に難しいものです。私も未だに、いろいろなアイテムに手を出しては、時に成功したり、失敗したりを繰り返しながら、日々模索しているところです。


しかしどんなアイテムも、組み合わせ次第でいくらでも化けるところが、ファッションの面白さのような気がします。


今回は配色という観点で、自分なりにコーディネートのポイントを整理してみました。参考になるかどうかは、人それぞれかと思いますが、この記事をきっかけに、スタジアムに向かう際の服選びがさらに楽しくなれば、ライターとして大変喜ばしく思います。


ぜひ次の試合には、少しだけ秋の装いをまとって、お出かけしてみてはいかがでしょうか。


【著者プロフィール】ユウ
シンガーソングJリーグサポーター。長崎県出身。大阪府在住。大学卒業後、会社員として勤務する傍ら、音楽活動を行っている。旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌「OWL magazine」ライター。V・ファーレン長崎(J2)のサポーターであり、現地観戦のために、月に1~2回ほど全国各地を旅している。
【Twitter】https://twitter.com/neccoUK
【Youtube】https://www.youtube.com/channel/UCUqf3lItlnt6bM1puP9yC-w
【Instagram】https://www.instagram.com/neco_lab/



Ex1. ユニフォームコーディネートの例②(2017・名古屋・1stユニフォーム)

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