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【2023年版】宇宙ビジネスを知る おすすめの本5選

2040年までに1兆ドル(約140兆円)規模と、市場がいまの3倍にまで拡大すると予測されている宇宙ビジネス。2000年代以降多くの民間企業が宇宙開発に参画するようになったのはなぜなのか、成長が期待されている分野や事業は何なのかーー一般のビジネスパーソン向けに背景や注目すべきトピックを解説する書籍も毎年刊行されるようになりました。

本記事では2023年までに刊行された書籍の中から、宇宙ビジネスを学ぶのにおすすめの本を5冊紹介します。宇宙開発の現在地点を網羅できるだけでなく、他人ごとのように思っていた宇宙開発を“自分ごと化”するのにも役立つ書籍も選んでみたのでぜひご参考ください。


【入門書①】『宇宙ベンチャーの時代』

宇宙ベンチャーの時代 経営の視点で読む宇宙開発 』(小松伸多佳、後藤大亮/光文社/2023年)

2010年代以降、民間の宇宙ベンチャーが躍進するに至った経緯といま盛り上がりつつある宇宙産業の分野について、文系のアナリストである小松伸多佳さんと、JAXAで衛星やロケットの開発に従事してきたエンジニアの後藤大亮さんが、文理の両側面からわかりやすく紹介する一冊です。
 
宇宙ベンチャーが勢いづいた理由を①ロケットのコスト破壊、②衛星コンステレーション革命、③「宇宙にいかない宇宙ビジネス」の躍進、という“3つの革命”から紐解いたり、イーロン・マスク率いるスペースXがなぜ“宇宙ベンチャーの雄”となりえたのか、さらに注目の宇宙ビジネスを8分野に分けて事細かに解説するなど、宇宙ビジネスを学ぶにあたって最低限抑えておきたい情報が網羅されています。
新書にもかかわらず図版も豊富で、理系の知識がなくともするする読める、入門にうってつけの内容です。
 
特筆すべきは、書籍全体を通して著者が「新しい産業の勃興には、経営者だけでなく社会全体でリスクを分散処理する体制が必要である」と主張している点。
スペースXもただ経営者がスタープレイヤーだったから成長したわけではなく、「COTS」と呼ばれるNASAの有効需要政策の1つに採用されていたのも要因にあるなど、リスクマネーを国側が負担してきた事実を取り上げていきます。
このように米国の宇宙ベンチャーが台頭していった背景には、起業家に集中しがちなリスクを顧客や従業員、投資家や政府など様々な主体が分担して引き取る素地があったからだとして、「社会全体でリスクを分散」していくためのポイントを解説。日本の企業に宇宙開発へ挑戦してもらうにあたって、私たちには様々な関わり方、手段があることを示唆してくれます。
宇宙開発の概覧を把握できるだけでなく、自分はどのように関わっていこうか考える主体性、そして宇宙ビジネスの未来への視座も獲得できる、バランスの取れた良書です。

【入門書②】『2025年、人類が再び月に降り立つ日 宇宙開発の最前線』

2025年、人類が再び月に降り立つ日 宇宙開発の最前線 』(寺薗淳也/祥伝社/2022年)

元JAXA職員で宇宙開発を30年見つめてきた著者が、NASAのアルテミス計画を中心に宇宙開発の現在地点を解説する新書です。

アルテミス計画とは半世紀ぶりの有人月面探査を目指す米国主導の国際共同プロジェクトで、第1章はまるっとその話題について書かれているため、パッと開いただけでは宇宙ビジネスと無縁の本のようにみえます。

ですが、第2章では1957年の世界初の人工衛星打ち上げ成功に始まり、2000年代から巨大テック企業が宇宙産業に参画していった流れ、10年代に中国やインドといった新興国が米国やロシアを上回る勢いで宇宙探査に乗り出しているところまで、「世界の宇宙探査・開発の歴史」を広く解説。

さらに第3章は日本の宇宙探査・開発の歴史を紹介するなど、宇宙開発について国内外の歴史と現状を端的にインプットできる教科書というべき内容になっています。

また、“宇宙開発のウラの顔”について記しているのも大きなポイントです。アルテミス計画に日本がどれだけの予算を割いているのか、米国にはすでに破綻している宇宙関連企業もある事実、宇宙資源に関する法律は拙速すぎないか、などなど、宇宙開発における問題点やリスクをきちんと取り上げ警鐘を鳴らしています。

手放しに民間の宇宙ビジネス参画を促すのではなく、市民が宇宙開発について一緒に考えていく必要性、国側の説明責任を訴えており、宇宙ビジネスをより俯瞰的に、なおかつ主体性を持って捉えられる一冊となっています。

【宇宙開発をワクワクしながら知ることができる】『宇宙開発 未来カレンダー 2022-2030's』

宇宙開発 未来カレンダー 2022-2030's 』(鈴木喜生/G.B./2022年)

はじめて女性が月面に降り立つ予定の探査機「アルテミスIII」、米民間企業による月着陸船「CLPS1 ペレグリン」、スペースXが挑む史上初の有人火星着陸船――。これからの10年で打ち上げが計画されているロケットや宇宙ステーション、惑星探査機、天文観測機を50点以上、予定年月順に紹介しているガイド本です。
 
1機1機の目的やスペックが、大型のB5判で豊富なカラー写真とともに掲載されているため、近い将来に宇宙空間へどんな機体が送り出されていくのか具体的にイメージしながら、各国の動向を一気にインプットすることができます。民間企業がビジネスのために打ち上げようとしているプロジェクトも豊富で、宇宙開発は決して夢物語やロマンの世界ではなく、私たちの生活に続く挑戦であることがわかります。

冒頭の「宇宙探査を理解するための宇宙機と軌道の超基本」も、宇宙機の種類や構造、世界にある打ち上げ場所といった基礎知識を図版とともにわずか8ページで学ぶことができて重宝できる内容。
後半の「いまも運用中の人工衛星&探査機」では1977年以降に打ち上げられてからいまも稼働している宇宙機を40点ほど紹介しており、宇宙の謎を解明してきた機体がどのような形をしているのか、地球にどんな恩恵をもたらしてきたのか、宇宙開発にまつわる基礎教養も広く身につけることができます。
 
何より、ロケットや探査機の写真とともに打ち上げ計画をパラパラ眺めているだけで宇宙開発の変革が目前に迫っていることを実感でき、宇宙開発が遠い存在ではなく身近で起きていることをワクワクしながら知ることができる読み物となっています。

【実践に適した一冊】『いちばんやさしい衛星データビジネスの教本』

いちばんやさしい衛星データビジネスの教本 人気講師が教えるデータを駆使した宇宙ビジネス最前線 』(神武直彦、恩田靖、片岡義明/インプレスブックス/2022年)

地球の周りを飛ぶ人工衛星から送られてくるデータが、近年誰でも扱えるようになってきたことを受け、いま世界で衛星データを駆使してどのようなビジネスが展開されているかを幅広く紹介する教本。
 
石油タンクの衛星画像から投資を検討する、キャンプ場に使えそうな未活用地を宇宙から探す、夜の明るさからその地域のGDPを推測するなど、衛星データのビジネス活用例が多岐にわたって解説されています。漁業や林業はもちろん、保険や不動産といった意外な分野にまで応用されているのを知ると、宇宙ビジネスがまったく未来の話ではないことを実感できるはずです。
 
特に素晴らしいのはケーススタディに終わるのではなく、「もし自分が衛星データを活用するなら何ができるか」考えるためのワークフレームも収録しているところ。衛星データビジネスという宇宙開発の一分野に絞った内容ですが、民間から宇宙ビジネスに参加するための術を現実的かつ明快に手ほどきしてくれる、宇宙市場へのハードルをぐっと下げてくれる一冊となっています。

【周りを巻き込むための一冊】『宇宙開発をみんなで議論しよう』

宇宙開発をみんなで議論しよう』(編:呉羽真、伊勢田哲治/名古屋大学出版会/2022年)

宇宙開発のあり方に関して、市民が自ら考えて議論に参加していくことの必要性と、そのための基礎知識やコミュニケーションの方法をわかりやすくまとめた手引書です。
 
ChatGTPや顔認証技術など、いまや最先端の科学技術にはその利便性だけでなく倫理面についての議論も必ず付いて回るようになっています。
宇宙開発も例に漏れず、ビジネス創出の可能性が大いに期待される一方で、“宇宙ゴミ”が地球温暖化につながるといったネガティブな側面にも議論が交わされています。それでもいまはまだ、宇宙産業に関わりのある科学者コミュニティと、関わりのない市民たちとの間には興味関心に大きな温度差があるのが現実です。
 
本書では、そうした両者が科学についてフランクに議論できる手法として、「サイエンスカフェ」を提案。市民と科学者がカフェのような場所でコーヒー片手に気軽に話し合う場を作ろうとする試みで、2005年以降に全国各地で広まっているそうです。
過去に実施した宇宙開発についてのサイエンスカフェの対話の内容も収録しているのですが、最初はピンときていなかった参加者たちが、対話の中で理解度をあげていく過程が見て取れます。宇宙開発はとにかく「私には関係ないや」と距離を置かれてしまうのが常ですが、参加者が対論を繰り返す中で宇宙を自分ごと化していく変容ぶりは、実に興味深いです。
 
宇宙開発について収録しているカフェのテーマは、例えばこんな内容です。
①ロマンを中心とした有人月探査は、是か非か(主に政府主導、税金投入の論点も含め)
②宇宙資源の開発利用は、是か非か(ルールつくりが先か後かなど)
③デュアルユース宇宙技術の研究開発は、是か非か(社会に受け入れられるかという視点も)
④宇宙ゴミへの対策は、是か非か(誰が負担するのか)
 
これから宇宙ビジネスを進めていく人の中にはきっと「どのようにして多くの人に宇宙開発を自分ゴト化してもらうか」という課題にぶつかる人もいるでしょう。そうしたときの対話の姿勢、共有すべき背景知識、議論の場の設定の仕方やスキルを学べる、宇宙ビジネスの未来を見据えた応用編として重宝できる本です。

企画・制作:IISEソートリーダシップ「宇宙」担当チーム
文:黒木貴啓(ノオト)

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