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企業が「ソートリーダーシップ活動」を始めるために、必要なこととは?

こんにちは、国際社会経済研究所(IISE)、理事長の藤沢久美です。

前回は経営戦略としての「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)活動」が、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための一つの方法であることを、「不確実性」「人的資本」「新市場」の3つのアプローチとともにお伝えしました。

今回はこれらのアプローチを生かして、ソートリーダーシップ活動に着手する際の課題とその解決策を考えていきます。

ソートリーダーシップ活動には、ソートの発信が不可欠です。そして、ソートには「ユニークネス(独自性)」が必要です。しかし、いかにユニークであっても、自社以外に興味を持ってもらえないと、仲間づくりができません。

ソートを読んだり聞いたりした人が、「それ、まさに我々が目指すべきこと!」という共感と同時に、「一緒に活動したら実現できそう!」という期待を持ってもらえることが重要です。

さて、こうしたソートを企業として発信するときの大きな壁は、合議によってソートをデザインするうちに、共感を呼ぶユニークさを失ってしまうことです。ビジョナリーな創業者が経営者として君臨している企業の場合は、ガバナンス上、合議の仕組みがあっても、創業者が生み出したソートの根幹に揺らぎがなく、その実現への道筋や方法に組織の知恵が生かされます。しかしソートの根幹の部分から組織で議論してデザインしようとすると、そのソートの共感を呼ぶ力は低下します。

では、ソートの根幹とは何でしょうか? それは「未来に対する信念」です。

ソートとは、未来に実現したい姿とそこへ向かう道筋です。実は、道筋は途中変わる可能性はありますが、未来の姿の根底にある信念こそがユニークさであり、それがブレてしまっては、ソートそのものが崩壊します。

例えば、歴史的なソートリーダーのお一人である松下幸之助氏は、「水道から水を飲むように、誰でも家電が使える社会を目指す」というソートを掲げました。いわゆる『水道哲学』であり、家電が行き渡る未来への信念からくる表現です。

その第一歩は、松下幸之助氏が米国で家電製品を見た後に、日本で洗濯機や炊飯器を開発、販売し、家庭の婦人を家事重労働から解放したことでした。続いて、テレビなど家庭での団欒につながる家電へと、その幅が広がっていきました。

そして今、『水道哲学』で描いた社会像は、当時の松下電器の枠を超え、世界の常識になりつつあります(世界にはまだ、無電化の地域があります)。

こうした事例を出すと、「我が社はサラリーマン経営者だから、松下幸之助氏のような信念に基づくソートは作れない」という声が聞こえてきそうですが、そんなことはありません。今の時代、各社がパーパスや企業哲学を制定していますし、それらがなくとも、どの会社にも創業の精神はあるはずです。パーパスや企業哲学、創業の精神に立ち戻り、それを背骨として、ソートをデザインするのです。

例えば、私たちIISEが所属するNECグループには、「Orchestrating a brighter world, NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。」というパーパスがあります。

我々がデザインするソートには、この「安全・安心・公平・効率」な社会の実現という信念が不可欠です。この背骨の上に、生体認証やサイバーセキュリティといった独自の技術を肉付けし、ソートを描いていくことになります。したがって、ソートをデザインする際に、常にこのパーパスからずれていないかを確認する必要があります。

さらに必要なことは、背骨に肉付けをする技術やサービスに対する「思い」のある担当者の存在です。「思い」のない担当者には、共感を呼ぶソートをデザインすることができません。

もちろん仲間との議論や上司からの承認は必要となりますが、誰よりもその技術やサービスに「思い」を持ち、その力を信じていることが必要です。その信念があれば、仲間や上司のアドバイスを受けながら、自らの信じるソートを描くことができるはずです。

もし、担当者に信念があるのに、ソートが共感を呼ぶものにならないとすると、その原因はパーパスそのものが会社に浸透していないこと、その技術やサービスが会社の経営方針の中核(強み)にないこと、上司が部下を信じる力を持っていないことなどが考えられます。

つまり、ソートリーダーシップ活動を組織として企業で実践するためには、次の3つが自社にあるかを、しっかりと確認する必要があります。

外部のコンサルタントにソートリーダーシップの戦略をいかに美しく描いてもらっても、上記の3つの要素が整っていない企業には、ソートリーダーシップ活動のスタートラインに立つことはできないでしょう。

次回は、3つの要素を揃えてスタートラインに立った企業が、ソートリーダーシップ活動を進めるために必要な戦略思考についてお話しします。

※今後の更新を逃さないように、まだの方はマガジン「ソートリーダーシップHub(TL Hub)」のフォローをお願いいたします。

文:IISE 理事長 藤沢 久美

藤沢 久美
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て1995年、日本初の投資信託評価会社を起業。1999年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却。2000年、シンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年~2022年3月まで同代表。2022年4月より現職。https://kumifujisawa.jp/

企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、鈴木章太郎、塩谷公規、石垣亜純)

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