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読書感想「砂に埋もれる犬」

桐野夏生の「砂に埋もれる犬」を読んだ。
※ネタバレあり。

テーマは貧困の連鎖と児童虐待、ネグレクト、暴力、傷ついた心の再生だろうか。
小学6年の優真と弟の篤人は充分な食事を与えられず母親に放置されている。
母親は男と遊び歩き子供達の待つ部屋によりつかない。
部屋は男の借りている部屋なのだが男は優真達、子供に暴力を振るう。
最悪なんである。
優真はいつも飢餓にあえいでいる。
そんな優真は飢えに耐えかねてコンビニ店主の目加田に廃棄する弁当をくれないか、と話しかけた。
本当は規則で廃棄する弁当を人にやってはいけないのだが目加田は弁当を優真にやる。
優真は弟の分もと、カルビ弁当とカレーライスを貰うのだった。
目加田は少年が気の毒になり、おにぎりも2個袋に入れてやる。
目加田には娘がいる。重度脳性麻痺の20歳になる娘だ。妻、洋子は娘の世話に明け暮れている。
目加田は一階のコンビニと自宅の八階を往復する毎日だ。廃棄する弁当を貰いに来る優真を気にかける目加田。妻、洋子にも優真の話をする。ネグレクトというやつだ。
ある日、優真は顔にあざを作ってコンビニにあらわれる。行きがかり上、交番の警官に相談する目加田。不憫に思った目加田は優真に食べたい物はないかと訪ねる。優真はアイスクリームが食べたいと子供らしいことを言い、胸を突かれた目加田はできるだけ美味しいアイスを、とハーゲンダッツのチョコレート味を食べさせてあげる。
優真は児相の一時保護所にゆくことになる。母親は弟だけ連れて逃げた。
紆余曲折あって目加田は優真の里親になる。
長年、世話をしていた重度脳性麻痺の娘が亡くなったということもあり、妻、洋子も優真を引き取りたいと強く希望した。
しかし、優真はなかなか心を開かない。
いや、開けないのだろう。
里親になってから、どういう風に優真に接していけばいいのか、男親である目加田はじりじりしてつい説教してしまう。
妻、洋子はもっとおおらかにかまえている。
男親と女親の違いなのかな…。
優真は親の優しさを知らない。
知らないとはどういうことなのか。
それが傍目から見て変な空気の読めない奴と思われて学校でも馴染めない。
目加田は友達が出来たか?とよく訊くが、人と親しくなるとはどうすればいいのか優真はわからない。
行き場の無い衝動は危険な方向へ向かう。
その下には飢えた何かがある。
でもそれが優真は何か自分ではわからない。
目加田が児相のワーカーに相談する場面で心に残った言葉がいろいろある。
ワーカーの淵上は「彼らは私たちの想像を絶するような極限状態を生きてるから、兄弟とか言っても、どうでもよくなる時があるんじゃないでしょうか。サバイバルするには、ライバルであるわけだし」
「彼らには私たちの常識が通用しないんですよ、受けた傷が大き過ぎて。」
信頼を築くのは容易ではないのだ…。
優真は13歳になっているが、まったく親の温もりなしで生きてきた。
正月に雑煮を食べた事もなければ、年越しそばも知らない。お年玉も知らなかった。
食事も満足に与えられなければ歯を磨く習慣も風呂も、着替える服さえろくに与えられなかった。
それは優真自身のせいなのか?
誰とも温もりのある安心した関係を持ったことがないのは優真自身のせいなのか?
優真はついにナイフを手にする。
自分が何に飢えているかもわからないまま、不安や居心地の悪さに囲まれて、出口を探すうちに…。
しかし、ラストはホッとした。
洋子と目加田は優真の心に触れることができたのではないかと思う…。
誰かが心配して、気にかけているとは、こういうことなのかと優真が目の当たりにして感じたのだ…。
優真は涙と一緒に自分の心を解放できたのだと思う。ながいながいひとりぼっちの孤独から…。

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