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大好きなバンドと共に生きていける幸せ

くるりライブツアー2022、全公演無事完走。
昨年Zeppを周るツアーは開催されたものの、全国の小箱を巡るツアーは実に2019年振りであった。
その2019年のツアー以降、毎年参加していた京都音楽博覧会にこの年は参加できず、そのまま世間はコロナ禍へ突入。リアルタイムで活動を追いかけて初めて、2年余りの間くるりのライブに観に行けない状態が続いた。結成25周年記念ライブ『くるりの25回転』の大阪公演のチケットを取っていたが、急激な感染拡大によりあえなく遠征を断念した苦い思い出が記憶に新しい。後日配信を観ながら、この場で一緒にお祝いできなかった悔しさを噛み締めていた。
しかし決死の祈りが届いたのか、今年に入ってから立て続けにくるりのライブに参加できている。今回のツアーを数えると今年3度目のくるり。例年だと年1〜2回ペースだったので、現時点で確実にハイペースのライブ参加である。これまで観れなかった分を取り戻すかのようで、我慢や悔しさを飲み込んだ日々が少しは報われた気がした。

堅苦しいことは全部置いて、とにかく終始楽しくて幸せな時間だった。
今回、ライブハウスの一番後ろのPA(音響&照明)卓の横に立って観ていたのだけど、ステージはもちろんのことライブを体感するお客さん達の後ろ姿を全体的に眺められるので、リアクションであったりその温度感がひしひしと伝わってくる。
そもそもお客さんが徐々に集まってくる時点で確かな期待というか感慨深いものがあった。メンバーと同世代のお客さんや私の親世代くらいのお客さんであったり中学〜高校生位のお子さんを連れた親子のお客さん、学生同士でのお客さんなど、今までライブハウスに足を運んだ中でも今回は特に幅広いファンの方が参加されていて、その層の厚さに思わず嬉しさで頬が緩んだほど。ツアーの前に参加した大阪のフェス・OTODAMAでもそうであったが、皆嬉しそうに新旧グッズのTシャツやタオルを身に付けてその時を待ちわびていて、「ここにいる人達みんな、くるりのことが好きなんだな」と思うだけで胸がいっぱいだった。

今回のツアーは岸田さん(Gt / Vo)曰く、「大ヒット曲満載」のセットリストとなっていた。蓋を開けてみれば、長きに渡り活動を追っているファンにとっては久々の曲との再会による懐かしさと驚きが、最近好きになったファンにとってはこれまでのくるりが持つ様々な一面をたっぷりと味わえるような構成になっていたと思う。
つまるところ、今回のセットリストはシングル曲であったりアルバムの顔になっている曲よりも、そのアルバムでしか聴けない曲、強いて言うならば普段出演するフェスやライブでも近年なかなか聴く機会がないラインナップであったに違いない。
例えば、1曲目に披露された『Bus To Finsbury』も最たる例のひとつとも言えるだろう。この曲は2005年にリリースされたアルバム『NIKKI』に収録されており、約10年前からライブに通い始めた私自身も生で演奏を聴くのはおそらく初めてだった記憶がある。お客さん達もきっと選曲のチョイスに驚いたのではないだろうか。むしろ、今回のライブはそんな驚きの連続だった。

なにより今回のライブのすごいところは、『コンバット・ダンス』(言葉にならない、笑顔を見せてくれよ / 2010年)や『bumblebee』(坩堝の電圧 / 2012年)など、先述した「アルバムでしか聴けない曲」がいくつもセットリストに組まれている中、並んだ曲の良さを互いに引き立て合っている上に、今回披露されている他のシングル曲やアルバムの顔とも言える曲に負けず劣らずの輝きを放っている点だと声を大にして言いたい。言い方を単純に変えれば「マニアックなセットリスト」であることに間違いはないのだが、私には正真正銘「どれも名曲のセットリスト」だったと言える。また、先ほどの『Bus To Finsbury』をはじめ、『マーチ』(図鑑 / 2000年)や『white out(heavy metal)』(坩堝の電圧 / 2012年)といった、アルバムの幕開けを飾る楽曲がいくつも披露されたのだが、いずれも大体中〜後半に位置されている。必ずしも冒頭で演奏されるのがしっくり来る位置なのではなく、違和感なくちゃんとそこにピタリとはまる並びで構成することができるのが、長きに渡り幅広く多彩な楽曲を作り続けてきたからこそ、くるりの成せる技であると改めてセットリストを眺めながら感じた。

くるりの活動を追いかけていると自然と感じるポイントではあるが、その時代毎にバンドのサポートメンバー(特にドラム)が変わることがあるので、その当時に聴いていた楽曲も今の形態で聴く演奏により感じ方が変わるというある種の醍醐味がある。岸田さんと佐藤さん(Ba)は結成当初から固定ではあるものの、結成から今に至るまでの25年以上、流動的なメンバーチェンジを繰り返してきた。近年で言うと、10年もの間在籍していたファンファンちゃん(Tp)が2021年春にバンドを去った。バンドサウンドにはお馴染みの弦楽器や打楽器ではない、トランペットという特徴的な音を担っていた分、今でも演奏を聴いていても無意識にどこかその音を探してしまい寂しくなってしまうし、そういうファンも少なからずいるだろう。今はそのパートをサポートメンバーの松本さん(Gt)や野崎さん(Key)がフレーズをアレンジして演奏したり、コーラスワークでカバーしている。カバーというか、また新たなアレンジを施していると言った方が正しいのかもしれない。寂しいけれど、逆を言えば確かにその音が存在していたことであり心から愛していた証拠なのだろう。その寂しささえも糧にして、くるりというバンドはひたすらに転がり続ける。私がこのバンドに惹かれ、今でも愛してやまないのはそういう理由からだ。

さらにすごいポイント、言うならば今回のツアーのハイライトとも言うべき『かごの中のジョニー』からの『Tokyo OP』の流れもとい繋ぎは特筆すべきだろう。
『かごの中のジョニー』は全体的にはちょっとシュールかつ可愛らしい楽曲ではあるが、そのアウトロは原曲では長い小節の中で遊んでいる感じがあった。それが今回のライブではそれよりももっと長い小節の中で楽器達が各々遊ぶどころか縦横無尽に動き回っているではないか。遊びを通り越して思いっきり動き回っているギターと鍵盤をリズム隊が支えているかと思えば、そのリズム隊さえも思いっきり動き回っている。一見訳がわからなくなりそうというか、しっちゃかめっちゃかになりそうであるのに、ちゃんと曲として成立している。そこに加えて岸田さんの操るモーター音である。何を書いているのか、とお思いの方もいるかもしれない。けれども実際そうなのだ。詳しくいうと、岸田さんは幼い頃からの筋金入りの電車オタクであり、中でも無類のモーター音好きという。MCにてその種類やらを楽しそうに説明するのを他のメンバーやお客さんが温かい目で(でもよくわかってない)見守るのはいつものことなのだが、このツアーでは一味違った。MCのネタになってもおかしくないモーターが、アウトロの中でソロパートを担っていたのだ。轟音のギターや鍵盤の音色に肩を並べる響きであり、感覚としてはテルミンのような輪郭のない音で、唸るモーターの回転数の加減速により音色を操っているといった具合だ。混沌に混沌を重ね、曲の世界に引きずり込まれていく。個人的には以前フジファブリックのライブにて聴いた『蒼い鳥』のアウトロのうねりのような混沌さに近く、その時感じた「このまま曲を聴いてたらちょっと具合悪くなるかもしれない」感覚を、まさかくるりのライブでも味わうなんて夢にも思わなかった。それでいてすごいのは、混沌さが極まった瞬間、バラバラに思えた演奏が一気にぎゅっとまとまり違和感なくこれまたカオスな楽曲『Tokyo OP』へと繋がる。この瞬間、会場にいた人々は声を出さずとも心の中で感嘆の声を上げたに違いない。それくらい圧倒かつ圧巻の繋ぎであった。

リアルタイムで活動を追いかけ始めて10年以上経つので最早新参者ではないにしろ、かと言ってくるりと同世代のファンから見ればまだまだ若手の域でもあるかもしれない。「あと10年早く生まれたかった……」とは時々思うけれど、今更そう言ったってと思うのも現実だ。それでも、活動を追いかけ始める前にリリースされた曲にも、どれだって思い入れがある。結成からの時系列に曲を並べて演奏された『くるりの25回転』もそうだったけれど、今回ライブが進んでいくにつれて、それらの曲にまつわる思い出が自然と蘇ってきた。あのツアーで観た時振りだなぁとか、遠征した時に聴いた曲だなぁとか。
それが如実に現れたのは本編最後に演奏された『ロックンロール』。今までフェスやツアーで何度も聴いていたはずなのに、その夜は聴こえ方がなんだか違った。イントロの一音で手が上がるのと同時に自然と涙が溢れていた。蘇るのは学生時代、授業で組んだバンドで『ロックンロール』をカバーした時のことや、そのスタジオ練の日々。ほろ苦くもあり、楽しい時間だった。その時間に二度と戻れないと悟った瞬間、この曲の持つ、サビで歌われる歌詞の本当の意味をようやく知った気がした。それでも前に進まなければ鳴らない、歩みを止めてはならないと改めて強く思った。直接バンドから曲の持つ意味を聞くのもありかもしれないが、自分で曲の意味を見つけることも大切なのかもしれない。

アンコールの最後に演奏されたのは『潮風のアリア』。
昨年リリースされた最新アルバムに収録されている、いわば最新曲である。配信された『京都音博』や『くるりの25回転』以外で聴くのは始めてで、ようやく新曲が聴けたのが嬉しかった。イヤホンから流れ込む音ではない、目の前のステージで発せられる生の音。今、この瞬間に同じ空間にいるからこそ感じられる音。くるりと同じ時代に生きることができて、それが現在進行形で続いていることにとてつもない幸せを感じた。バンドと共に生きていくとは、きっとこういうことなんだ。それにきっと、この先も新たに曲に付随する思い出が増えていくに違いない。その幸せを噛み締めながら、眩しく光るステージを眺めていた。そして、私が帰ってきたい場所はここなんだと改めて実感した。またここに帰ってこれるように、最高な音を浴びられるように頑張ろう。再び会えるように約束を交わすような、確かな未来へ続く夜だった。


2022.7.28 くるりライブツアー2022 @ 仙台Rensa

1.Bus To Finsbury
2.目玉のおやじ
3.コンバット・ダンス
4.ブレーメン
5.忘れないように
6.bumblebee
7.しゃぼんがぼんぼん
8.青い空
9.風は野を越え
10.Time
11.さよならリグレット
12.ばらの花
13.white out(heavy metal)
14.マーチ
15.Giant Fish
16.かごの中のジョニー
17.Tokyo OP
18.飴色の部屋
19.ハイウェイ
20.loveless
21.ロックンロール

En)
22.琥珀色の街、上海蟹の朝
23.潮風のアリア


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