建設会社への研修提案において、講師がすべきこと
「企業・団体に講師登録をしたら、中小企業診断士やコーチングの資格を取得したら、直ぐに講師の仕事がある」このように誤解する方がたまにいます。
特に建設業(ゼネコン、サブコン、専門工事会社)の出身者は、受注後から自分の仕事が始まるので、受注前の営業・提案段階の理解が不足する傾向にあります。
しかし、当然お客様から仕事をいただかなくては何も始まらず、研修講師は提案にも大きく関与する必要があります。
研修の仕方については多くの情報が出回ってますが、提案については情報が少ないので、このようなことにも興味ある方は、私片桐にメールにてご連絡ください。
1. お客様に合う前に提案書を作成する
1-1. 要望が明確な場合は少ない
工事のようにお客様より明確な仕様書が提示され、それに従い研修プログラム・テキスト・演習などを作成し実施する。このようなことは実際は多くありません。
お客様が自社の人材育成の課題が何で、それを解決するには何が必要かを明確に理解していることは少なく、だからこそ外部の専門家に研修を依頼するのです。
研修はお客様の漠然とした問題意識や要望から、講師が適切な研修を想定し、提案を重ねながらお客様の理解を得る。このような受注活動から始まります。
1-2. 「お客様の話を聞いてから提案する」では遅い
お客様より仕事をいただくために、講師が提案書を作成するわけですが、お客様の要望を聞いてから提案書を作成するのでは遅く、それでは受注の確度は非常に小さくなります。
想像してほしいのですが、講師のところに研修の相談がくる前に、営業担当者が複数回お客様を訪問し、会社の事情や課題や研修の要望などをお聞きしているのです。その後研修講師がやって来て、また一から説明を求めたとしたら、お客様は落胆や不信を感じます。
よって、営業担当者から得る事前情報からお客様の状況を想像し、この時点で提案書を作成し、次の打ち合わせに臨む必要があります。
1-3. 標準的な提案書を作っておく
お客様に会う前に提案書を作成するといっても、まだ講師としての経験が浅かったり、営業担当者からの情報が不十分だったりすると、それは難しいです。
そのようなときのために標準的な提案書を作成しておき、それを基にお客様と打ち合わせをして、内容を編集していきます。また、提案書だけでなくテキストと演習の標準案も提示すれば、お客様としても「ここはこのままでいいけど、ここは当社の事情に合わせてこう変えてほしい」等、要望が明確化されます。
お客様の要望によって研修プログラムとテキスト内容が変更されることはありません。なぜなら、これらには企業の規模や工種に関わらず共通する、基本的な理論や方法が示されるためです。演習のみお客様に合わせて編集すること多いです。
そのため、「提案書やテキストをつくったけど、受注しなかったら無駄になる」と心配する必要はありません。その時は使わなくても、また別の機会で使用できることも多いです。
反対に、つくることを惜しんだり、つくることが苦手であると研修講師は務まらないといえます。研修は無形商材のため、カタチで示せるものは極力資料化して事前に提示しないとお客様から理解は得られません。つまり、なかなか仕事が決まらないということになります。
2. 提案書の作り方
2-1. 研修の目的を設定する
まず最初に研修の目的を設定します。受講者がこの研修を受けたら、仕事中の行動がどのように変わるのかを具体的に示します。
専門的な用語を使用しますが、いかなる研修であっても、その主な目的は"行動変容"といわれます。つまり変化が行動として表れ、他者の目で見てわかるものでなければなりません。
例えば建設業法の研修であれば、「建設業法の内容を理解する」ことを目的として設定しても、理解したかどうかは他者が目で見て判別できませんため、適切ではありません。
対して、「建設業法の知識を施工管理や工務の実務に応用できるようになる」等の内容であれば、受講者が研修後に建設業法の定めに応じて適切に期間を確保して協力会社に見積依頼する等の行動をとるようになれば、研修目的を果たしたと判別できるため、このような目的設定が適切といえます。研修の目的設定の仕方について、下記の書籍に詳細にわかりやすく記されるため、紹介します。
「講師・インストラクターハンドブック/中村文子、ボブ・パイク著/日本能率協会マネジメントセンター/p58-64」
2-2. 章・項の見出しを列挙する
目的が定まったら、研修プログラムを記します。章、項の見出しを列挙し、概ねの内容を表します。
例えば、建設業法の研修の場合、下記のようになります。
1. 法規制を自分で勉強する方法
1) 法律が施行されるまで
2) 様々な機関で作成される法規制解説書
3) 自分に合う法規制解説書の探し方
2. 建設業法の基本
1) 建設業法の目的
2) 建設業許可
3) 請負契約
3. 配置技術者
1) 技術者の配置
2) 技術者の専任性
3) 監理技術者資格者証
以下省略研修の章・項立ての仕方(≒研修プログラムの構成の仕方)につきましては、別記事「研修テキスト・演習課題の作り方」を参照ください。
2-3. 演習例を示す
概ねの研修内容は、見出しを列挙すれば伝わりますが、それをどう教え、受講者にどのように習得させるのか、これついては演習例を示すことで表現します。
演習でどのような課題を課し、それを個人で考えるのか、班で検討するのか、どのような様式の用紙に回答を記すのか、具体的に提示します。特に重要なのが、演習の回答例を示すこと。例えば建設業法の研修にて行う演習を示す場合、下記のようになります。
演習課題)
新担い手三法によって、生産性向上を促進する複数の法改正がなされました。それを、あなたはどのように有利に活用しますか? 具体的な案を示してください)
回答例)
〇〇さんと〇〇さんに1級施工管理技士の1次試験を合格させ、来期予定する〇〇工事と〇〇工事の技士補として配置し、私は監理技術者としてこれらの現場を兼任する。これによりお客様は「受講者にこのようなことを考えさせたい」「このような演習を行えば学びを実務で活かせるだろう」と想像しやすくなります。
3. 提案の流れ
3-1. 事前に提案書を提出する
研修の要望が発生し、講師に依頼が来るまでの流れとしては、最初はお客様より問い合わせがある、または、営業担当者が売り込むことから始まります。
お客様の課題をお聞きし、研修により解決が可能と思われる場合、具体的に要件を確認します。
そして、営業担当者が講師に要件を伝え、研修の担当可否を確認します。
担当可能な場合、講師が要件に基づき提案書を作成し、次回打合せの概ね3日~1週間前までに営業担当者経由で顧客に提出します。
1から提案書をつくることなく、過去の類似研修の提案書を部分的に編集し作成することになることが、実際には多いです。
3-2. お客様と打合せをする
提案書に基づき、研修内容をお客様と協議する打合せを行います。
このとき、講師から提案書の説明を受け、営業担当者のみで打合わせる場合もあるし、講師も営業に同行し打ち合わせに参加する場合もあります。提案書の初案に対して、お客様より「この章は重要なため特に注力して解説してほしい」などの要望を聞きます。
また、当方からはこのような演習を行うことで、学びの定着と実践を促しますなどの説明をします。さらなる要望等を確認し、次回打合せの日程を決めます。
3-3. 提案内容の合意を得る
前回の打合せの要望を反映し、提案書を修正し、次の打合せ前に営業担当者を通じて顧客に提出します。
ここまでに十分にお客様のお時間をいただいたため、この打ち合わせで決めるないと、信頼や期待感を失うため、受注できないことが多いです。
そのため、要望をどのように研修プログラムに範囲させたのか。また、研修当時にそれを講師がどのように披露するのかなど、お客様の理解が得られるよう説明し、合意を得ます。打合せ後、お客様の社内で実施の決定がなされたら、お客様と弊社間で契約を交わします。
次に、講師と弊社間で契約を交わし、研修実施に向けてテキスト・演習の作成など、具体的な業務に移ります。
弊社には今までお客様に示した様々な提案書があります。
それらも活用し提案から支援をしますため、興味ある方は私片桐にメールにてご連絡ください。