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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第172回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の十八~十九
 
子張十九の十八
 
『曽子曰、吾聞諸天子。孟荘子之孝也、其他可能也、其不改父之臣与父之政、是難能也。』
 
曽子曰く、「私が先生から伺ったことだ。孟子荘子の孝についてである。孝以外のことはできるだろう。しかし、父の臣下と政策を改めないのは難しい。」
 
(現代中国的解釈)
 
自動運転業界は、ここ2年ほど業務の縮小と再編が相次いだ続き。米国市場に上場している自動運転関連十数社の株価は、80%を超える下落に見舞われた。昨年春にはBYD創業者の王伝福氏が「自動運転はナンセンス」とこき下ろすなど、閉塞感の強い状況だった。
 
しかし最近になり、明るいニュースがちらほら出てきた。テスラは2万5000ドルの低価格EV車の開発を中止し、ロボタクシーに注力する、と伝えられた。
 
さらに、トヨタ、ファーウェイ、Momentaの3者協力モデルが、トヨタの自動運転ソリューションとして採用されるという。Momentaという企業を知っている人は、よほどの事情通だろう。同社はトヨタ、ファーウェイの両巨頭の政策を改めさせるほどの、孝行息子となるのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
Momentaは2016年、北京で設立された。主力製品はMpilotといい、高速道路、都市交通、駐車場などをフルカバーする、連続した高度な自動運転ソリューションである。データ駆動型アルゴリズムの継続的蓄積と反復を通じ、効率的なクローズドループを実現した。データ主導により、希少でまれな緊急事態シナリオも自動解決できる。もう1つはMSDといい、完全自動運転のソリューションで、ロボタクシー、マイカーの幅広いシーンを想定している。Mpilotのクローズドループを高速回転させ、データ蓄積の勢いを増し、爆発的成長を実現させるつもりだ。

すごいのは投資家である。"造車新勢力"の蔚来、上海汽車、トヨタ、ボッシュ、メルセデス、テンセント、GM、など豪華メンバーが揃う。さらに国有投資機構も積極的に参加したことで、設立2年で2億ドルを調達、自動運転企業として初のユニコーン企業となった。中国、ドイツ、日本で事業を展開し、世界中の期待を集めている。

 今回の3社提携では、ファーウェイがハード(スマートキャビン)、Momentaがソフトを提供する。ファーウェイは、EV車を事実上、作っている。賽力斯という新興EV車企業を丸抱えし、問界M5、M7などの新車をヒットさせている。将来的に、トヨタとライバル関係となるかもしれない。3社にとって新たな成長の起爆剤となるのかどうか。
 
子張十九の十九
 
『孟氏使陽膚為土師。間於曽子。曽子曰、上失其道、民散久矣。如得其情、則哀矜而勿喜。』
 
孟氏が陽膚を裁判官に任じた。陽膚が曽子に質問した。曽子曰く、「孟氏が道を失い、民が離散して久しい。もし犯罪の実情をつかんだときは、哀れに思って喜ぶことのないように。」
 
(現代中国的解釈)
 
道を失ったようにも見える自動運転業界だったが、それをつきやぶるような新規上場のニュースが出た。某ネットメディアによれば、中国には、少なくとも46社の自動運転関連企業が活動している。有力どころは「百度」、「小馬智行」、「文遠知行」、「AutoX」、「Momenta」、「図森未来」、「元戒後行」「地平線」などだ。IT巨頭の一角、百度を除けばみな、新進のベンチャーである。
 
(サブストーリー)
 
それら有力ベンチャーの1つ、「地平線」が、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレーと共同で、香港証券取引所へ上場申請をした。正式名称は、北京地平線機器人技術研発公司といい、2015年に設立された。
 
目論見書には、乗用車の先進運転支援 (ADAS) および先進自動運転 (AD) ソリューション プロバイダーとある。コンピューティングによりソリューションを提供するのだが、その中心はチップの供給とソフトウェアの開発である。
 
出資者には、インテル、SKハイ二クス、BYD、長城汽車などが並ぶ。2021年以降、積極的に戦略提携を進めていった。新興EV車メーカーの「哪吒汽車」、国有最大手の「上海汽車」、クアルコム、シャオミが出資した自動運転システムの「縦目科技」その他「禾多科技」「覚非科技」「軽舟智航」「宏景智驾」などの新進企業と提携した。これにより脚光を浴び、頭一つ抜け出した。売上も増加し、ハイエンド市場のシェアは、Nvidia 49%、地平線35.5%、ローエンド市場は、Mobileye26.6%、地平線21.3%といずれも2位につけている。
 
注目すべきは利益率の高さである。2021年から3年間の売上は、4億1000万元、8億100万元、14億7000万元と急成長、粗利益率も、70.9%、69.3%、70.5%と極めて高い。また手元資金も113億6000万元と豊富だ。
 
現在、31ブランド、230以上のモデルに搭載されている。最大の買い手は「酷睿程」という企業で、収入全体の40%を占める。同社はフォルクスワーゲン60%、地平線40%の合弁である。フォルクスワーゲンとがっちり組めていて、これは大きなアドバンテージだ。。
 
L4レベルの完全自動運転は、は先行き不透明なままだが、L2レベル未満の補助システム搭載車は、増加する一途である。地平線は、そうした流れをリードし、事業を採算レベルに載せた。希少な優良企業として道を失わず、上場にこぎつけられそうである。
 
 

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