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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第81回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
先進十一の四~六
 
先進十一の四
 
『子曰、孝哉、閔子騫。人不間於其父母昆弟之言。』
 
孔子曰く、「閔子騫は孝行者だな。親兄弟が彼をほめても、誰も身びいきなどとは言わない。」
 
(現代中国的解釈)
 
身内びいきは、中国文明の基本である。善意の第三者には期待できず敵だらけの中、交渉によって味方を増やし、安全地帯を拡大していく。中国で生きるということは、これが延々と繰り返されることである。身内びいきは、交渉やゴマすりなどと違い、テクニックを必要とせず、最も簡単な手段だ。中小企業では、創業者の親族たちが、楽なポストに付き、知らぬ間に増殖していく。ごく普通に見かける後継だ。
 
(サブストーリー)
 
ファーウエイ創業者、任正非は身びいきをするのだろうか。その後継者に注目が集まっている。先妻との間に、孟晩舟(1972年生、女)任平(1975年生、男)、後妻との間に、姚安娜(1998年)の3人がいる。

 ファーウエイは、よく知られているように、非上場、社員株主制、輪番会長制など、特色の際立った経営をしている。株主は100%、現役の社員とOB、計13万人が保有する。この方式は2003年から続いている。ファーウエイは2022年4月、今年の配当を614億元と発表している。これを13万人で割ると1人平均47万元、日本円で1000万円近くにもなる。任正非の持ち分は、0.84%に過ぎないが、5億1600万元を得る。
 
この持ち株比率で、後継者が決められるのだろうか。すでに取締役会にも出てこないという。それでも、彼が存命のうちは、大丈夫なのだろう。何もかも彼が作ったのだから。孟晩舟と任平はファーウエイに入社したが、当初は特別扱いをしていない。
 
孟晩舟は、周知のようにカナダに3年近く拘束され、米中貿易摩擦の象徴的存在となった。昨年9月の帰国時には、大勢の国民が、リアルタイムで中継を見守った。英雄凱旋である。今年4月には、輪番会長に就任した。
 
任平は、2004年、英国留学を終え、ファーウエイに入社した。姉の孟晩舟と同様、その後各部門を経験し、現在は、旅行、不動産関係の子会社で、それなりに能力を発揮しているらしい。しかし口の悪いメディアは、これを“女神と中堅社員の差”と評している。
 
姚安娜は大学卒業後、エンタメの世界に入り、ファーウエイに関心はなさそうだ。順当に孟晩舟が後継となるのだろうか。
 
先進十一の五
 
『南容三復白圭。孔子以其兄之子妻之。』
 
南容は白圭の詩を何度も読み返した。孔子は、自分の兄の娘を彼の嫁にした。
 
(現代中国的解釈)
 
中国の学問と政治は近親関係にある。学の独立という考えはない。例えば清華大学五道口金融学院という組織がある。大学というよりビジネススクルールである。中国人民銀行研究生部と清華大学の提携により、2012年に成立した。中央銀行の研究教育部門と最難関の名門大学という華やかな組み合わせで、当然、中国最高の金融エリート養成機関である。2021年までの10年間で3592名の金融学修士、317名の博士が、中央銀行、金融監督当局、商業銀行、証券会社、投資信託管理会社、保険会社などに就職している。エリートたちの交友の厚みでは、ダントツのナンバーワンだ。
 
(サブストーリー)
 
しかし、中国の金融を大きく改革したのは、彼らエリートではなかった。主役はアント・グループである。2004年、アリババの資金プール「支付宝」から始まる。
 
その後2011年、QRコード決済を開始。2013年、MMF「余額宝」を発売、高金利で全中国を席捲、何度も預入制限が発動された。2014年、アリババから分離、独立会社に。2015年、小口金融商品の「花唄」を発売、これも大ヒット。さらに信用スコアの「芝麻信用」医療共済保険「相互宝」など、斬新な商品を次々と世に出し、中国の金融を大きく変えた。2020年7月、アント・グループに改名、このころ企業価値は1500~2000億ドルと見積もられていた。同年11月に予定された上場は、売出し価格で3185億ドル、史上最大規模だった。
 
アリババグループ総帥のジャック・マーは、この上場で、さらに莫大な資産を手にするはずだった。彼は、高考(全国統一大学入試)における数学0点エピソードで知られ、理系頭脳もなければ、エリートでも何でもない。権力による強引な上場中止は、エリートたちの嫉妬による反撃だったのかもしれない。
 
 
 
先進十一の六
 
『季康子問、弟子孰為好学。孔子対曰、有顔回者。好学。不幸短命死矣。今也則亡。』
 
季康子が孔子に質問した。「弟子の中で学問好きは誰ですか。」孔子は「顔回という者が学問好きでした。不幸にも短命で死んでしまいました。今はもうおりません。」
 
(現代中国的解釈)
 
学問は、いつの時代も成功への早道である。現代中国は、次々に新職業を認定している。今求められている職種を提示することになり、学生たちには参考になる。また統計資料も、より経済実態を反映するものになる。
 
(サブストーリー)
 
中国政府は2019年以来、4次にわたり、56の新職業を認定してきた。さらに2022年6月、18職を追加した。
 
機器人工程技術人員…ロボット技術
増材製造工程技術人員…3Dプリンター設計補助
数据安全工程技術人員…データセキュリティ
退役軍人事務員…退役軍人事務
数字化解決方案設計師…デジタルソリューションデザイン
数据庫運行管理員…データバンク管理
信息系統适配験証師…情報システム検証
数字孿生応用技術員…デジタル応用技術
商務数据分析師…ビジネスデータアナリスト
碳匯計量評估師…カーボンシンク(炭素吸収源)の評価
建築節能減排咨詢師…建築の省エネルギー
総合能源服務員…総合エネルギーサービス
家庭教育指導師…家庭教育指導
研学旅行指導師…研修旅行インストラクター
民宿管家…民宿管理
農業数字化技術員…農業デジタル化
煤提質工…石炭の改良
城市軌道交通検修工…ライトレール点検修理
 
ITと環境が多く、現代の課題そのものである。
 

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