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ジョブ理論が優秀でも活用が難しい理由

はじめに

 今日の記事は「イノベーションのジレンマ」で話題となった、クレイトン・M・クリステンセン著の「ジョブ理論」を読んでの考察のようなものである。

商品開発や改良、販促において新たな視点を与えてくれる本なので、一読されることをお勧めする。

非常に興味深い内容の本書であるが、今日はこの本の負の側面=活用の難しさについて感じることを書いていきたい。

本書の内容

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本書の概要についてはこの記事で一度まとめているのでサラッと読んでもらえば、本書の重要な概念については理解していただけると思う。

そう、「ジョブ」について、である。

以前の記事で、ジョブの定義は「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」で、僕なりの解釈は「ニーズを文脈によって具体化したもの」だった。

そして、その進歩のために顧客は製品やサービスを”雇用する”

常に顧客の片づけたいジョブにフォーカスして、それを「いかにうまく片付けられるか」を基準に機能の拡張や改善、新たなシステムの導入などあらゆることを検討していくことで方向性が明確になる。

これが最速の本書のまとめである。

しかし、この理論はすごく面白い一方でそれを簡単に組織の中に取り入れるのはなかなか難しい。

なぜ、ジョブ理論は浸透しづらいのか

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単刀直入にジョブを理解するのが難しいからである。

なんと薄っぺらい子供のような言い訳だろう。

でも、それが結構根本的な理由だと思う。

ジョブというのは複雑な顧客の事情や行動の中に埋もれているものだ。

それを知るための情報というのはどうしても定性的なデータになってしまう。

ここがこの記事の肝になる部分である。

ビジネスの世界では定性的データよりも明らかな事実を集めた明快な定量的データを信頼する傾向にあると思う。

定性的なデータの重要性を完全に捨てていなくても、なかなかそれを効果的に集めている企業は少ないのではないか。

今のご時世で一番重要な定性的データの収集源は”レビュー”だろう。

しかし、どれだけの企業がこのレビューを効果的に活用し、顧客体験の向上に努めているだろう?

なぜ人は定量的データを好んで集めるのだろう?

これをせっかくなのでジョブ理論的手法で考えてみる。

仕事をしている中で、「3時間でこれについての情報を集めて」と言われたあなたの片づけたいジョブは何だろう?

その事象のデータを集めるということではない

もし僕なら効率的に重要な情報を集めて、上司に有能だと思われたいが片づけたいジョブになると思う。

これはあなたの上司にとってもあまり変わらないかもしれない。

役員会議や経営会議にかけるときにできるだけ意思決定に重要そうな情報を提出し、有能だと思われたいだろう。

いわゆる「仕事してる感」を感じるには定量的データはとても魅力的だ。

事実に基づいたデータだと胸を張って言えるし、そこにグラフやチャートもあるといかにも分析をして、自分の主張はこれだと論理的に述べられそうだ。

ここが落とし穴なのである。

定量的なデータに誤りはない。確かに事実かもしれない。

しかし、そのデータを活用するという視点でそのデータがその目的を果たせるだろうかということが重要だ。

CVRPV数顧客継続率離脱率というのはいかにも大事そうに見える。

確かに少し購入画面のUIを見やすくすれば、購買はふえるかもしれない。

でも、それが本質的に顧客のジョブを片付けられたかという問いへの答えとはならない。

どんなにそれらのデータを追い求めても顧客が片づけたいジョブは何で、そのためにサービスの一連の流れがどうあるべきかは理解できない。

結局、自分たちが集めたいデータを集め、それを客観的事実に基づいていると”主観的に”判断し、紛れもない事実に基づいた素晴らしい意思決定だと考える。

ビジネスという本当に不確かで、複雑で、不安定なものの中で人はできるだけ自分の結論は間違ってないと思いたいのである。

だから顧客はこんな風に感じているようだといったふわっとした定性的データより明らかな事実である定量的データに基づいて判断し、自分の意思決定を正当化したくなるのだ。

もう人間の特性みたいな部分に足を突っ込んでいるのでなかなか記事を書いて自分でも耳が痛い。

さらに技術の進歩でビッグデータやAIの活用が叫ばれると、人々の定量的データの活用への関心は高まるだろう。

データの活用ではなく、集めることやそういった流行りの技術をいち早く取り入れることが目的になってしまう。

その一方で定性的データの収集を手助けするツールはなかなかない。

ジョブはパターン化できる事でも、表面的に表れる事でもないので機械的に収集するのが難しいし、それを技術で追おうとすると個人情報保護の観点からストップがかかりやすそうだ。

ジョブ理論を活用するには

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上で述べたように今の状態やマインドでジョブ理論を活用するのは難しい。

そのためにできることは

・上の人間がジョブにフォーカスするよう組織を導くこと
・正しいKPIを設定すること

ではないだろうか。

まずは組織の上に立つ者が、顧客が成し遂げたい進歩をどれだけうまく片付けているかを推し量るための情報集めを先導しなければならない。

そしてそのために地道で、正しいのか確信できない泥臭いプロセスを踏む心構えが必要だ。

顧客のストーリーラインを想像したり、サービス購入時点ではなく”実際に使用される場”に立ち会ったり、顧客の心配事をリストアップするブレストなんかも必要かもしれない。

ベンチャーやスタートアップのようなこういった地道でアナログなアプローチに大手や中堅が立ち返るのには重い腰を上げる必要があると思う。

そして正しいKPIを設定すること。

自分たちにとってではなく、顧客にとって意味のある測定基準を設定することが重要だとAmazonの国際リテール部門の上級副社長も言っている。

創業当初からの「豊富な品揃え、低価格、迅速な配送」というAmazonのジョブを解決する3つのポイントを実現するためには、

商品がいつ出荷されたかではなく、いつ届いたかにフォーカスする必要があるということだ。

自社のデータ収集の目的が意思決定しやすいデータを集めることに終始していないか内省し、必要があればその仕組みを変えていく必要がある。

おわりに

 ただの大学生が偉そうに組織の問題について、そして著名な作品について提言したことをお詫びしたいが、僕にとって本当に学びの多い本だった。

現在の新規事業のインターンにおいても中小企業のIT化やデジタル化を後押しするためのデータの利活用に触れることがある。

その際には経営計画やその後の意思決定に活かすことのできる意味あるデータの活用を支援したいと思う。

その点においてどのようなデータをどんな方法で集めるかは非常に重要な問題になると思う。

データの性質以外にも様々な問題に直面するであろうが、何かしら形にできてこそ、本書の言いたい事を理解したと言えるのではないだろうか。


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