文化系の謎キャリア・インタビュー① 夢に向かって即行動、山口明紀さん(株式会社BestenDank社長)
(記事担当;泉水若葉)
私は今回、株式会社BestenDank(ベステンダンク)社長の山口明紀さんにお話を伺った。山口さんは大阪府東大阪市を中心に、地域に特化したイベント企画・運営を行うイベント事業と、ビールやドイツ料理を提供する飲食店経営の2つの事業展開を行っている。
特に力を入れているイベント事業では、地域の伝統行事の復活やイベントでの露店営業などを行い、コミュニティ作りや地域活性化にも取り組んでいる。東大阪産の地ビール作りに挑戦する「ひがしおおさかホッププロジェクト」や普段閉ざされた工場を解放し、モノづくりを知ってもらうイベント「こーばへ行こう!」といった地域に根付いたイベントの他、FC大阪とのオリジナルビール企画といった企業とコラボした取り組みなど、幅広く事業展開を行っている。
私が今回山口さんを取材したいと思ったきっかけは、元々地域活性化やコミュニティ作りに興味があり、私の所属する近畿大学がある東大阪市を拠点に活動されていること、なぜイベント事業と飲食店の経営を行っているのか気になったのが理由だ。今後のキャリアを考えた時に、就職活動では出会わないような山口さんのお話を聞いて見たいと思い、インタビューに至った。
経験から得た叶えたい夢
山口さんのキャリアは高校卒業後、ガンバ大阪やセレッソ大阪といったサッカー関連のスタッフとして働くところから始まる。2年間様々な経験を積みながら将来について考えたところ、建築や街づくりに対する興味が強かったため、大学に進学した。当時からサッカーが好きだったため、大学4年生の卒業論文では「日本とドイツのサッカースタジアムの賑わいの違い」について研究したが、その研究成果が思うように得られなかった。大学卒業後は一般企業に就職したものの、その研究成果を追い求めるため、そして以前から抱いていた夢を叶えるために仕事を辞めて、今の活動を続けている。
山口さんが叶えたいその夢とは、「フットサルコートを作る」ことである。
高校生の時に修学旅行で訪れたドイツにはマリエン広場、レーマー広場といった有名な広場がたくさん存在する。野菜を販売するマーケットだけでなく、屋台もたくさん出展しており、陽気な音楽が流れている。このような街の中心となる場所が日本にはない。ベンチに座ってぼーっとしてもいい。昔ながらの顔なじみやお隣さんと気軽に話してもいい。そんな寄り道したくなるような、心のよりどころになる場所をフットサルコートに置き換えて作りたいと山口さんは考える。では、なぜフットサルコートにこだわるのか。それはサッカーが好きな山口さんだからこそ、疑問に感じていた点があったからである。
レンタルできるフットサルコートはたくさん存在する。一方で、レンタル予約の時間前にコートの前で子供たちがボールを蹴っていると、管理人の方に注意される光景をよく見る。フットサルをしに来たのに、なぜボールを蹴って怒られるのか。コートの前が駐車場だとボールが当たるという可能性が考えられるなら、コートの前が駐車場という立地こそを変えるべきである。せっかくお金を払って来ているのに制限されるのはなぜか。大学で建築や街づくりを学んでいた山口さんだからこそ、なぜ計画的に作っていないのか疑問を感じていた。もっと自由にフットサルを楽しみたい、そう山口さんは考えた。
ただフットサルコートを作るのではなく、コート周辺を広場のように賑やかな場所にするのも夢の1つだそうだ。周りにカフェ、バー、理髪店、クリニック、花屋さんなど、フットサルコートを取り囲んだ憩いの場にすることで、地域交流も広がる。様々なお店を誘致するために、飲食店とイベント事業を組み合わせながら、地域の方とのコミュニティ作りを積極的に行っているそうだ。
ドイツで感銘を受け、フットサルコートの問題点を疑問に感じ、大学で街づくりの勉強をしてきた山口さんならではの発想だと感じた。
1秒のふとした思いつき
素敵な夢に向かって、数々のイベント運営を行ってきた山口さんは、最初から知り合いが多い訳ではなかった。また、新型コロナウイルスが流行し始め、緊急事態宣言が発令された2020年4月7日に会社を設立したため、前途多難だった。最初はイベント事業として会社を立ち上げたが、コロナの影響で開催予定だったイベントが全て中止に。収入も無くなり、赤字からのスタート。しばらくは本来と別の事業で生き繋いでいて、コロナの今後の見通しがつかない状況だった。
そんなある日、企業の営業担当者と電話で話をしていた。
「ビール作りのイベントをやろうと思っています。」
電話をするまで何も考えていなかったが、1秒のふとした思いつきでそう伝えた。こうして開催されたのが「ひがしおおさかホッププロジェクト」だった。山口さんにとって、本来やりたいイベント事業ができない中で数少ないチャンスだと感じた。電話をした次の日から、初対面の様々な地域の企業に声をかけ始めた。多くの賛同を得て、無事苗木植えから収穫までを行い、イベントは成功した。
このイベントが山口さんにとって最初のイベントだったが、全てが上手くいったわけではない。自身にとって近しいコミュニティが何も無い中、1から賛同してくれる企業、参加者を募ることに。宣伝ポスターを出したが、1週間前でも10人しか集まっていなかった。このままではイベントが成立しないと悩んでいたところ、当時の東大阪市長秘書の方が偶然ポスター見かけ、このイベント情報を市役所に持っていってくれたそうだ。そこから多くの人々に広まり、イベントも成功に終わり、他イベントとの繋がりを持つことができた。
山口さんが印象に残っているイベントとして、ひがしおおさかホッププロジェクトの企画の1つである「王者直々ミット打ち体験」を挙げた。山口さんはスポーツが好きで今でも身体を動かすことが多いという。ミット打ち体験では、元プロボクサーである兄の名城信男さんと元K1チャンピオンである弟の名城裕司さんが兄弟でミット打ちをしてくれた。世界チャンピオン同士のミット打ちをしている姿は、山口さんにとって衝撃的でとても嬉しかった。山口さんだけでなく、お客さんもそのミット打ちを見て、オーラが違うことから見入っていた。
この世界チャンピオン同士のミット打ちを見て、地域の子供がキッズボクシングを始めたそうだ。山口さん主催のイベントが、子供がプロボクサーを目指すきっかけになった。これは地域を繋げることにもなる。このように自分のコミュニティだけでなく、地域活性化として街の人にも影響を与えることができたイベントであった。
「何やってるのか分からんな」
山口さんはアイデアを自分から生み出したり、積極的に行動するような性格ではなく、どちらかというと苦手な類だ。多数決の意見に同調するようなタイプだという。ただ、自分の夢を叶えたい、コミュニティを広げたいという強い思いがあったたらこそ、思いつきで積極的に行動することができた。今では東大阪市でたくさんの人と繋がり、コミュニティを広げている。
イベントやコミュニティを作る上で、自分を見せることを大切にしている。コミュニティは人からの紹介で繋がりを広げているからこそ、紹介してもらった相手に自分の意見や価値観をしっかりと伝える。相手の意見に流れて寄り添ったりはせず、自分の色を出している。ただ、これは自己中心的な人が自己中なままやっていいわけではないため、参考にはならないかもとお話ししてくれた。山口さんの朗らかな性格や社会人としての経験もあり、多くの場数を踏んできたからこそ、自分を見せ続けてコミュニティ作りに成功しているように感じた。山口さんは以下のように語る。
そう、多くのコミュニティを作ることができているが、誰と関わるのか、誰をターゲットにするのかなど、慎重に考えてブランディングを行っているそうだ。
今後の展望
今年の春には、多国籍の方と交流ができる多言語マルシェや東大阪市の野球チームである大阪ゼロロクブルズの開幕戦の企画が予定されている。この開幕戦の企画は、以前FC大阪と山口さんがコラボをしていたのを見て、大阪ゼロロクブルズの運営本部長から依頼があったという。東大阪市で次々にコミュニティが広がっているように感じる。このイベント以外にも楽しい企画を既に計画されていて、今後も目が離せない。
今年の目標としては、まずビール工場を作ろうと考えているそうだ。ひがしおおさかホッププロジェクトから得た知識や情報を発展させて、ビールの原材料全てを東大阪市で栽培することで地産地消によってビールを作りたいという。既に畑を2箇所に持っているため、その畑で小麦栽培をしようと計画中である。また畑を利用した運動会(雨天中止)など、一風変わったイベントを畑で行うことで、ビールだけでなく畑仕事にも興味を持ってもらえると考えている。
そして、夢として挙げていたフットサルコートを作ることは、いつになるか分からないが、慌てることなく進めていきたい。そのためにも、コミュニティ作りに変わらず力を入れていきたいそうだ。
夢に向かって、積極的に行動し続ける山口さん。山口さんにしか作ることができない、憩いの場所としてのフットサルコートを作るため、コミュニティ作りや地域活性化に取り組んでいた。自分の夢を追い求めたいという気持ちや、周りに流されず自分の意見を貫く素敵な姿を垣間見ることができた。これからもコミュニティを通じて多くの人と繋がりを見せ、最終的な夢を叶えるのだろうと感じた。
今回のインタビューは、自分自身のキャリアについて考えるきっかけになった。私は幼少期から父親の仕事の影響で引っ越しを4回行い、様々な地域での生活を経験した。実際に住んでみることでその土地特有の良さや伝統を発見してきた。そのため将来は全国各地でキャリアアップを目指すという考えしか頭に無かったが、山口さんのお話を聞いて、拠点を絞ってキャリアを展開するということも1つの考えだと感じた。私は今後就職をして、様々な土地に関わることで自分にとって良いキャリアを目指していくことになる。その時に自分にとっての居心地の良い地域が見つかれば、自分のスキルを活かして積極的にチャレンジできるよう、しっかり備えておきたい。
今後どのように仕事をしてキャリアアップしていくかは私自身も分からないが、常に目標を持って行動すること、人と関わりながらコミュニティを広げていくことなど、自分のやりたいことを明確にしていきたいと感じた。
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