【オススメ小説24】夢と記憶の淡い混ざり合い『きことわ』朝吹真理子
こんにちは、名雪七湯です。23回目の本紹介の今記事は第144回芥川賞受賞作『きことわ』を取り挙げたいと思います。
1、本情報、作者情報、あらすじ
『きことわ』朝吹真理子 2011 新潮社
某会場にてスピーチを発表し、編集者から小説を書くことを勧められ、2009年に『流跡』にてデビュー、Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。2011年に今作で芥川賞受を賞作、他著作に『TIMELESS』やエッセイ多数。
以下、あらすじになります。
葉山の別荘で同じ時間を過ごした少女。貴子と永遠子。貴子は八歳、永遠子は十五歳。二人は貴子の母親の死をきっかけに会うことはなくなった。それから25年。葉山の別荘の解体をきっかけに二人は再会する……。
2、現実の危うさ
本作は永遠子の夢から始まります。
永遠子の夢の中で、二人の二十五年前の思い出が断片的に語られます。
さて、二十五年前の記憶はどこまで正しいのでしょうか?
あるいは、昨日の記憶は?
じゃあ、今見ているものは?
今見ているものが現実ではない、と言い出すとSFやファンタジーちっくになりますが、それこそがこの作品のテーマなのです。現実の危うさ。
二十五年振りに再開した二人、しかし話していく内に思い出が微妙に噛み合わないことに気付き始めます。あの時はこうだった、ああだった。私はこう思っていた、あなたはこう思っていたはずだ。
人間はタイムマシンをまだ開発していないので、過去の現実を確かめにゆくことはできません。記憶だけを頼りに、修正された過去を本物だと思う。
そして、本文には時々、夢落ちというテクニックが使われます。
さらに、夢落ちの中の夢落ちなど、、、。
徹底して、現実と夢、記憶の境目があやふやになる様子が描かれます。
そして、朝吹真理子さんの詩のような言葉遣いも相まって、読者自身が夢の中にいるようなふわふわした世界観に陥ります。激しい起承転結がある作品ではなく、淡く今にも崩れてしまいそうな空気感を楽しむ一作になっています。二人の食い違う台詞や夢落ち、比喩が続き、読んでいる内に何が本当で何が幻想だった分からなくなる感覚をぜひ楽しんで下さい。
3、最後に
とても淡くふわふわした空気感が特徴の一作。
明確なストーリーラインはないのですが、言葉を楽しめる純文学です。
純文学や詩が好きな方はぜひ。
最後までお付き合いありがとうございました。
またお会いしましょう。
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