抱擁

しつこいくらいに飽きることなく、見つめ合って、頬と頬をすりすりして、疲れるまで笑って、そんなことしてたら今日ももう、網戸の隙間から郵便配達の音が聞こえてきちゃったね。夜と朝の間にやさしく唇噛んで、気がついたらホワイトムスクの香りみたいな夢を見ている。

四つ葉のクローバーを見つけた日には、片目しか光らない猫がいた。
「お〜い、にゃんこや〜い。まぐろ食べるか?」
完全にへにゃりと緩みきった顔で、わたしはビー玉のような猫の目を覗いて一生懸命喋りかけている。その私を覗いてへにゃりとしてる彼、その彼を覗いてまた、わたしがへにゃりとしてしまう。

帰り道、まだ少し太陽が肌にベトッとする時間。みずいろの空にハート型の雲が浮いていた。それを型取るみたいに左手と右手で一緒にハートを作ってみたりした後、写真を撮るためにマンションの駐車場に走った。けれどその頃にはもう形は無くなっていて、日常に浮いているいつもの雲の表情に戻っていた。でも、写真には写らなかったけど、わたしたちの心にはちゃんと残っているからね、って。やっぱし人生は儚いなあと思った。

そしてまた見つめ合う。煙草は嫌いなのに、彼の服についた煙草の匂いはなんだか愛おしく感じてしまって、顔をうずくめる。何してるんだ〜って、脇腹をこちょこちょされてキャッキャする。そうやって、早く帰ろうと言った日には結局暗くなって、ふたり隣に寝転がって星を見る。

星、屋上から見えるすこしの星。そこで食べるアイス、指相撲が強いところ、珈琲の湯気、そんな、日常に散りばめられているたくさんの愛おしさ。

プリクラを撮る時はルートミーで、写真を撮る時には変顔する。だけど、少し上を向かないと目が合わない身長差とか、たまに見せる真剣な表情や、愛でてくれるようなウルウルな瞳とか、そういうものがずるくて、ズルくて、たまらない。

わたしたちにしか伝わらないギャグでいつまでも笑いあっていたい。わたしの人生を、わたしたちの人生を、キラキラしているところも、少し不格好なところもすべて、一緒に抱擁していきたいな

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