【Meetupレポ】Nature Bath Vol.12 Natureのグロース お悩み公開相談会
第12回目の今回のNature Bathでは、ラクスル株式会社取締役CMO/ノバセル事業本部長の田部さん、株式会社GrowthCamp 共同代表の山代さんをゲストにお迎えし、Natureのグロースについてお悩み公開相談会を行いました。グローススペシャリストのお二人が語るスタートアップを非連続成長させるためのKey Driverとは・・・?
田部さん:私は新卒で小売りの丸井に 3年半、そのあとテイクアンドギブ・ニーズに 8年半、そして2014年からラクスルに在籍しています。事業責任者としてマーケティングのノウハウを使い、どのように事業を成長させるかということを常に考えています。ラクスルは 売り上げ7億円の時に入社し、直近で210億円と約30倍になりました。そして、現在は自分で培ってきたマーケティングのノウハウを他の方に提供するノバセルというサービスもやっています。こちらは3年で約30倍に成長しました。このように、スタートアップのまだ認知のないサービスを、マーケティングを活用しながらどのように伸ばしていくのかという点をお話しさせていただきたいと思います。
ラクスルは「仕組みを変えれば世界はもっと良くなる」というビジョンの下、ネット印刷のサービスを提供している会社です。世の中の空いている印刷機・印刷工場をインターネットで仮想的につないで、お客様に小ロットのニーズを届ける、マッチングプラットフォームを提供しています。私が入社した当時ネット印刷はなかなか渋い業界で、市場規模もそんなに大きくない中で、マーケティングがうまくいっていない状況でした。結果として認知をあげていかないと商売にならないということで、売上7億円のタイミングから、テレビCMにかなりの金額を投資してきました。そのノウハウを積んだのが、ノバセルというサービスになっています。
このサービスは2018年から展開していて、この事業責任者とラクスルのマーケティングの責任者をやっています。
山代さん:私は新卒でP&G Japanにてパンパースやパンテーンのブランドマネージャーを担当、2017年にメルカリに入社して、デジタルからCRM、IPOまでのマーケティング全般を統括していました。2018年からメルペイに移って事業立ち上げを行い、マーケティング・グロースの責任者として500 万人のユーザーを獲得するところまで伸ばしています。そして去年、Growth Campという会社を設立し、グロースという切り口で、アーリーからレイトステージまでスタートアップ企業を対象にプロダクトの改善から、大規模なマーケティング施策など幅広くハンズオンで支援しています。特徴としてはマーケティングだけではなく、プロダクトの改善にもがっつり入っていることです。プロダクトとマーケティングが両輪となった非連続な成長を長いスパンでサポートしています。toB、toC問わず、シード、アーリー、レイターからExit後まで、ハンズオンで支援させていただいています。いくつか記事があるのでご興味ある方はお読みいただけたらと思います。
・元メルカリの2人が「グロース」領域のアップデートに取り組むワケ
https://forbesjapan.com/articles/detail/36011
・スタートアップに「失敗させない」CMづくりとは!?“効果が出せる”運用型テレビCMの可能性
https://forbesjapan.com/articles/detail/41276
・分断されたままでは非連続な成長は作れない。マーケティングとプロダクトを束ねる「グロース」の概念とは
https://markezine.jp/article/detail/35849
グロースとは LTVとCAC のマネジメントだと考えています。当然LTVが伸びれば伸びるほど、CAC獲得にかけられるコストも増えていくので、大胆な手が打てるようになります。スタートアップはこのサイクルを回しながら、いかにLTVを伸ばしていくのか、つまりそれはプロダクトの本質的な改善をしていくのかという部分とともに、それに伴った、身の丈に合った CAC で勝負していく、というのがベースとなる考え方です。その上でアナリティクスと呼ばれる、効果を可視化して PDCA が回る体制を作りながら機能開発の優先順位をつけ、キャンペーン、デジマ、マスと掛け算していくのが Growth Camp でのグロースとしています。
小和田:私は新卒でユニリーバ・ジャパンに入社しパーソナルケア商品のブランドマーケティング業務に従事しました。その後、エイベックスにて、自社のコマースサービスのデータマーケティングや、海外スタートアップとの新規事業開発を行い、Nature には昨年の12月にマーケティング担当として入社しました。現在は責任者として、Nature Remoのマーケティングや事業開発を担っています。
弊社は「自然との共生をテクノロジーでドライブする」(2021年11月より「自然との共生をドライブする」に変更)をミッションに掲げ、それを実現するために現段階で3つの事業を行っています。
1つ目が「Nature Remo」という創業当時から製造販売しているIoTデバイスです。こちらはスマートリモコンと呼ばれる、スマートデバイスから家電を操作できるIoT製品です。例えば暑い日に外から帰宅する前にスマホでエアコンをつけたり、スマートスピーカーと連携して「OK, Google 電気を消して」と言うと照明が消えるといったことを実現できる製品です。
2つ目の事業が「Nature Remo E」というデバイスで、部屋のコンセントにさしておくだけで、家庭の消費電力がリアルタイムでわかったり、蓄電池をコントロールできるエネマネデバイスです。
そして3つめが、電力小売サービスの「Nature スマート電気」で、こちらは今年の 3 月にリリースしました。Nature Remo と連携することで、節約をしながらスマートに電気を使えるという特徴になっています。
現在は、正社員22名ほどでこのような複数の事業を展開している、アーリーステージのスタートアップです。ラクスルやメルカリのように事業を成長させることができるように挑戦中です。
スタートアップを継続成長させるためのキードライバーとは?
小和田:Nature Remoは販売台数30万台を突破しましたが、この成長のドライバーのひとつになったのはターゲットのニーズを掘り当てたことでした。
Nature Remoを最初に購入してくださったのは、テクノロジーやIoTなど新しいものに興味のあるいわゆるアーリーアダプター、イノベーター層と呼ばれる方々で、当時彼らはスマートスピーカーに関心を持ち始めていました。そこで、スマートスピーカーとのバンドル販売や、Nature Remoをスマートスピーカーと一緒に使うことで実現できること、新しい体験を具体的なメッセージとして届けました。
結果として、実際の使い方を想起し、関心を持っていただいて、購入につなげることができました。新しい市場を形成する中で、誰がターゲットになり得るのか、そのターゲットのニーズは何か、どのようなメッセージを打ち出すのが良いかを捉えることができたことはひとつキードライバーとなりましたね。次の成長フェーズに入っていくために何が必要なのか、ぜひお二方のご意見を参考にさせていただきたいです。
田部さん:一つ目は、非連続に伸ばせる KPIを見極めることですね。2014 年にラクスルに入ったときは、まだまだ名の知れないベンチャーでした。この時にまずKPI を全部見渡してみたところ、リピート率は既にそれなりに高く、倍にすることは相当難しいと感じた一方で、新規顧客数は当時月 300~400 人であり、これを50倍に伸ばすことはできると思いました。明らかにリアル印刷の市場規模があり、認知は10%もありませんでしたので、認知向上を図り、選ばれる価値を磨けば勝てると考えたからです。このように、スタートアップフェーズで数字を眺めてみたときに、数十倍に伸ばせる KPI が何なのかを見極めることを考えることをお勧めします。
二つ目は、価値の翻訳です。認知が低いとはいえ、今まで新規の顧客300 人にしか選ばれなかったものを、1 万人に選ばれるようにするために、わかりやすいコンセプトを届けるということを行いました。特にスタートアップの場合は、多くの企業が高尚なベネフィットを掲げてしまう傾向にあると感じます。例えば、「お客様の労働時間を減らし、発注コストを下げ、売上を上げる」という具合ですね。ただ、結局コストを下げるのか、売り上げを上げるのか、単純化しないと多くの人には届きません。そこで僕らが開発したのは、「500 円名刺」や「1枚1.1円からのチラシ印刷」という言葉でした。これが当たり、テレビCMと相まって伸ばすことができましたね。
塩出:なるほど、わかりやすく価値を届けるということで、田部さんからみてNature Remoの価値を翻訳するとどのような訴求になりますでしょうか?
田部さん:それは難しい質問ですね(笑) 。「スマートリモコン」というワードはキャッチーでわかりやすいと思います。一方で、電力を省力化できるとか、環境にやさしいというのは、結果としては素晴らしいのですが、初めて選ばれる理由にはならない気がしますね。
初めて選ばれる理由と、お客様が使い続ける理由は全く異なることが多いです。僕らの場合は初めて使われる理由は、「安い」「早い」ですが、使われ続ける理由は、「品質がしっかりしている」や「納期が安定している」ということです。品質が良くて納期が安定していることをCMで打ち出したこともありましたが、完全なる無風でしたね(笑)。
塩出:実は2018年頃、田部さんにカテゴリーワードをしっかり獲得するようにアドバイスをいただいて、細部の作り込みまで徹底して行ったことが成果につながってきたとも感じています。同じ質問で、山代さんもスタートアップを非連続に成長させるキードライバーのことを教えていただけますか?
山代さん:一つ目は、「見つけて突っ込む」ということです。
何を見つけるかというと、ユースケースです。サービスをリリースすると少なくても使ってくださる方が一定数いますよね。なぜいつどのように使っているのかを調べて、そのユースケースが拡張できるかという視点で考えます。点で見つけて円にする、という考え方で物事を捉えることが大切ですね。
もうひとつは、基本的な話ですが、ビジネスを分解して現状を正しく評価し、注力ポイントを見つけ事実に基づいてPDCAを回すことです。
冒頭にお話しした LTV、CACの話を田部さんのケースをお借りしてお話しすると、リピートがそこそこいいというのは、ある程度LTVが高そうであると判断できるので重要です。LTVが伸びていないサービスは焼き畑になってしまいますから。離脱率やDay 30 Retentionなど、いくつかの指標でLTVを測定することがまず大事なファーストステップです。まずLTVをしっかり伸ばすためプロダクトを磨くフェーズであれば、磨きこみがドライバーですし、ある程度 LTV が見えているのであれば、獲得コストに踏み切って、テストしましょうというプロセスになるイメージです。
塩出:LTVとCACの比率でいうとスタートアップの中で言われている、LTV÷CAC が 3 以上というマジックナンバーがあると思います。そこはどうお考えですか?
山代さん:フェーズによって大きく異なるかなと思います。これは僕の私見ですが、LTVとCAC、3 対1は、かなりリスクをとっていない印象です。
CACをセールスのコストなど全て含めて考えた場合に、LTV=CACまで踏むことは、生涯かけてその獲得コストを回収するということを意味します。つまり、ずっと赤字だけど損はしていないということになりますね。その前提に立つと、マスに踏み込むタイミングはある程度 LTV に近いところまで CAC を許容して良いと思っています。特にマス広告の場合は、認知の向上など、短期的には見えていないアップサイドがあり、中長期にビジネスが伸びる構造がつくれるためです。そのためのキャッシュフローなど、いくつかの基準を満たす必要は当然ありますが、それぐらいべた踏みするというフェーズもあると僕は思っています。
既存事業に加えて新規事業をスタートするときの伸ばしかたのコツ?
塩出:今回弊社では既存のNature Remoに加えて、Natureスマート電気という新しい事業を投じました。このように既存で成長しているサービスに新しく違うサービスをのせる際に、新しいサービス側をグロースさせるポイントはありますか?
山代さん:まず大前提として、既存のカテゴリーを立ち上げることが大事だと思います。メルペイについても、まずメルカリがしっかり立ち上がっている状態でした。その前の段階で中途半端にリソースを分散させると、二兎得られない部分もあるので、既存の事業がしっかり立ち上がってからの勝負だと思いますね。
田部さん:これは結構難しいのですが、そもそも今の自分たちがやっている事業が立ち上がるかどうかわからない会社もありますよね。この時にその事業のみにベットし続けるのはリスキーなので、他の種を植えておいたほうがいいと個人的には思います。
新しい事業には、「飛び地」と「染み出し」という2パターンあります。飛び地というのが、今までの顧客アセットを全く活用できないパターンです。これをやるには、役員とか創業者が気合をいれてやるしかないです。どうなるかわからない中でのベットなので既存の事業でお金をつくれている状態じゃないと危険ですね。一方で染み出しパターンもあり、例えば僕らでいうと、折り込みポスティングの E コマースがそれです。印刷だけでなく配布も一緒にやってみましょうと、染み出したのが、結果として今伸びてます。既存領域の中で獲得できているユーザーのニーズを理解し、その中の課題で解決できることがあるのであればやればいいのですが、それがない中で、飛び地や染み出しを考えても上手くいかないと思っています。
マーケターとしてのプロダクトとの付き合い方
山代さん:プロダクトはプロダクト、マーケはマーケではなく、一体でプロダクトチームとマーケチームは動くというのが、チームの付き合い方という文脈でいうとありますね。
田部さん:そうですね、僕もマーケティングとプロダクトは分けて考えるべきではもはやないと思っていて、特に小さい規模の会社でいうと基本的には一体型で取り組んだ方がいいと思います。初期のほうだと結局プロダクトの良し悪しが最も大きなドライバーだったりするので、プロダクトの変数を持たないままマーケターをやっても、恐らくマーケターではなくてプロモーターとか WEB マーケターでしかなくなってしまうと思います。
強いマーケ組織づくりとは?
田部さん:これは二つあります。
一つ目は、マーケティング職の制限を外すことですね。マーケティングは、広義では売上を上げるすべての仕組みづくりです。その一方で、CMOやマーケティングという職種名がつくと、小手先の手段やお金を使うことを前提にした施策にとらわれてしまうことが多々あります。本来、マーケティングは、コストカットをしてもいいし、プロダクトを作ってもいいし、何をしてもいいはずなんですよね。マーケティングというものの制限を外してあげることが強い組織づくりにつながると思います。
二つ目は、マーケティングというのは総合格闘技に近いので、何か一つの機能だけの仕事をしていても改善のドライバーを十分に持てるようになりません。五角形でイメージした時にそれぞれを埋めていかないと、強いマーケターや組織は生まれないと思います。
山代さん:僕もメルカリに入社した当時、めちゃくちゃ勉強しました。まだまだ知らないことがあったり、新しいイノベーションも生まれるので、まず学ぶことと、あまり組織を縦割りにしないことが、田部さんの仰るとおり大切だと思います。
違う切り口ですと、どこまでインハウスでやるべきかという話もありますね。結論、僕は最初から全てをインハウスでやらなくていいと思っています。マーケターはお金を持って色々やりたいという性質があるので(笑)、一人だったら最適解を考えるのですが、複数名いると予算の確保に走ってしまうなど組織がダブつく傾向にありますね。個人的には、信頼できるパートナーを携えることで筋肉質なマーケ組織やプランをつくりやすくなると思っています。
スタートアップでマーケティングをやる魅力とは?
田部さん:マーケティングの定義は諸説ありますが、「会社の売上が伸ばす仕組みを作れたらOK」としたとき、スタートアップですとその全部に関わることができるところが大手とは異なった、面白いポイントだと思いますね。
山代さん:そうですね。違うポイントで加えるとすると、ビジネスが10倍になるとか30倍になるのはなかなか経験できないことでやりがいに感じると思います。1年後に全然違う景色が見られるのは面白いですね。
小和田:まさに僕も一部ではなく全体を見ることや、指数関数的に事業や会社を成長させたいと思って半年前にNatureに入社をしていますが、Natureは同じことを求めている人にはぴったりの環境だと思います。
たくさんお聞かせいただいて、ありがとうございました・・・!
おわりに
弊社では、一緒にサービスグロースを担ってくださるメンバーを募集しています!興味を持っていただいた方はお気軽にご連絡ください。