見出し画像

全身マスク! 第4話:ジョニー、キャロラインを部屋に連れ込む

 ミラクル。まさしく神の奇跡。カンダタの糸は選ばれし者しかつかめない。ミラクル。マスクをつけた女神。きっと未来の人間はこの赤いスーツに黒いマスクをつけた女を女神と崇めるだろう。

 しかしなんて酷え会議なんだ。俺の女神はバカの親父たちの質問攻めにあっている。ああ!キャロライン!所詮は客寄せパンダ!プロジェクトの成功のために目立つマスコットを雇っただけ。プロジェクトを実質的に仕切ろうとしているのは彼女の手前に座っている広告業界を仕切る親父たち。これじゃあ東京オリンピックの再演だぜ。また俺らが恥をかくだけだ。女は世界の奴隷か?ジョンアンドヨーコ。そうじゃないだろ?だがプロジェクトの末席のジョニーに発言権などない。キャロラインはオヤジたちの質問に懸命に答えるが、オヤジたちは彼女をせせら笑いさらに質問を上乗せしてくる。まるで質問を装ったいぢめ。尻に刺さったイチヂクみたいなクソ親父ども。いぢめ、ダメ、ゼッタイ、ベイビーなメタル、ヘビメタみたいに奏でる怒りのギターソロ。怒りのジョニーはターザンのようにテーブルの上に飛び乗った。そしてそのまま歩いてキャロラインの前に立つ。雄々しいランボーのようなジョニーの立ち姿。驚愕のキャロラインは目を剥いてジョニーを見る。ジョニーはそのキャロラインに向かってかましてやった。

「ヘイ、キャロライン!そんな連中放っといて俺の部屋で『全員マスク!』プロジェクトについて熱く語り合おうぜ!」

 この突然のジョニーの行動に会議室は一斉に凍りつく。オヤジたちからキャロラインを救いたい思い。イーロン・マスクになるために必要不可欠なのは常識を超えた大胆さ。ちょっといきがってみただけさの照れ隠し。オヤジたちがジョニーに出て行けと喚き出す。知ったことか。お前らなんか『全員マスク!』にはお呼びじゃないぜ。世界は俺とキャロライン。ジョンアンドヨーコ、シドアンドナンシー、カートアンドコートニー、南海キャンディーズ……違った。

「ふっ、キャロラインってもしかして私のこと?私の名前がカオリだからキャロラインって呼んでるの?あなた、もしかして自分をジョニーって呼んでない?譲だからジョニーって?ジョニー、あなた絵に描いたようなアメリカンね」

 キャロラインがマスクの下で吹き出してジョニーに言った。本物を知っている女からの褒め言葉。やっぱり俺のアメリカかぶれは本物。イーロン・マスクもアメリカンになって成功した。俺もアメリカンを極めてやるぜ。

「キャロライン。俺をファーストネーム呼んでくれたのはお前だけだぜ。そう俺はアメリカンさ。イーロン・マスクと同じようにアメリカ人になるために生まれてきたような男だ」

 キャロラインは立ち上がるとなんとジョニーと同じようにテーブルに乗ってしまった。まるで自由の女神。スカートの下は丸見えだ。

「いいわ、今からあなたの家で『全員マスク!』について語りましょ」

 キャロラインはそう言ってマスクの下で微笑む。ああ!見てえ、マスクを剥いでキャロラインの顔みてえ。ジョニーはキャロラインのマスクを剥ごうと知らず知らずのうちに腕を上げる。しかし、キャロラインアルコール消毒液を手にまぶしてからジョニーの肩を叩いてすり抜けた。キャロラインはそのまま真ん中まで歩く。オヤジたちは床に屈んでキャロラインのスカートの下を覗き出す。このどすけべ野郎。シュトロハイム、ハリウッドバビロン、昨今の映画監督のスキャンダル。君、僕の映画に出たかったら今すぐ脱ぐんだ。世の晒し者、下世話な想像の自動筆記。シュールレアリズム。アンドレ・プルトン、君はプルプルしているよ、ホントに。

 腰に手を当てたキャロラインはそのオヤジたちに向かって見事ぶちかました。

「皆さん、集まってもらったのに申し訳ないけど、私今からこの沢村穣くんと『全員マスク!』について話し合いをするので今日の会議はこれで終わりにするわ」

 そしてキャロラインはジョニーを呼んで言った。

「沢村くん、いえジョニーだったわね。ジョニー、今すぐあなたの家に連れて行って」

 何という幸運。まさに棚からぼた餅。餅の食い過ぎで喉が詰まって死んでしまいそう。

 そのままジョニーとキャロライン、この令和のボニーアンドクライドはトゥルーロマンスを求めて会議室から飛び出す。会議は踊る。踊り果てた二人が去った後に残ったのは踊れない連中ばかり。踊れるやつはどこでも踊る。ダンスイズマイライフ。ノーダンシング、ノーライフ。そこら中ダンス天国だ。

 ジョニーはビルの前でタクシーを拾うと紳士のようにキャロラインをエスコートする。まるでジェントルマン、溢れ出る欲望を必死に抑えて。ジョニーは運転手に自宅への道案内を始める。3番目の信号を右に曲がって、それから二つ目の道を左に曲がって、そこを進むと突き当たりにぶつかるから左に。だが運転手は手をかざしてジョニーを止めて言った。

「お客さん、このタクシーナビついてるから住所教えてもらえば大丈夫だよ。うるさいから喋んじゃねえよ!」

 タクシーの中でジョニーはキャロラインに尋ねる。何で未来のプロジェクトリーダーに向かってナンパして強引にホテルに連れ込もうとした俺をプロジェクトのメンバーに加えたんだい?本来なら俺みたいなセクハラ・レイプ野郎はクビになって当然のはず。するとキャロラインは黒光りするマスクのしたで微笑んで言う。

「ジョニー、私初めてあった時からあなたにウルフを感じたの。去勢された犬にしか見えない日本人の中であなただけは荒野の狼だった。この男とはいずれ再会するだろうって私思ったわ。そしてこうも思ったわ。これは躾がいがありそうだって」

 荒野の狼、ヘルマン・ヘッセ、ステッペン・ウルフ、ヘビーメタルサンダー、俺の脳内にハリケーンが渦巻いている。キャロライン、狼と人間は子供を作ることが出来るんだよ。君は『おおかみこどもの雨と雪』って映画を知ってるかい?今から子作りしようぜ。しかし突然タクシーは止まり運転手がジョニーに呼びかける。

「はい、着きましたよ。さっさと金払って降りて下りて!」

 都会は全てがスピーディに動く。人情もへったくれもない。先に降りたジョニーはキャロラインに手を差し伸べたが、キャロラインはあなた消毒してないでしょとか拒否って勝手に降りてしまった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?