忘れ物
電車の中ででスマホを無くしたことに気づいた。改札を通ってホームにならんで電車に乗ってポケットからスマホを取り出そうとしたら、スマホが消えていた。
買ったばかりなのに。もう泣きそうになるよ。
彼氏に振られた時も泣かなかったのに、どうしてスマホを無くしただけで涙が溢れてくるんだろう。
私は満員の電車の中でずっと俯いて目頭を押さえていた。今日会社休もっかな。こんな状態のままじゃ働けないよ。
落ちたスマホ拾ってくれる人なんかいない。スマホがないだけでまるで世界から弾かれた気分になった。私はひとりぼっちなんだ。どうしようもなくひとりぼっちなんだ。
「ひとりぼっちじゃないよ」
突然聞こえてきたその優しい言葉に私はハッとして我に返った。目頭を押さえていた手を話して目を開けるとそこに私のスマホを持つ指があった。
な、なぜ私のスマホをあなたが?もしかして拾ってくれたの?私は恩人の顔を見ようと勇気を出して顔をあげた。
「拾ったんじゃないよ。僕が君のカバンからコッソリ盗んだのさ。カバンが焼けた蛤のようにパックリと開いていたから盗むのは簡単だったよ。だけど安心して。僕は君のスマホには興味ないから。僕はただ君を困らせて振り向いて欲しかっただけなんだ」
「やっぱりお前かよ!このストーカーめ!ああ!何度も何度も私の元に現れて!もう今日は会社はやめだ!これから警察署で警官と一緒にお前をみっちり扱いてやるからな!」
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