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妊娠…妊娠 その2

「皆さーん!どうしたんですかぁー!病院の中で大声出しちゃダメですよー!」

 と言いながら笑顔でその女の人は私たちのところにつかつかと歩いてきた。そしてまた言ったの。

「あらあら、黒くて太い毛がそこら中に散らばってるわ。誰の髪の毛なのかしら?」

 したら病院のスタッフの連中が私を指指してこんなこと言ったの!

「いえ、先生!これは髪の毛ではありませんよ!そこの患者さんが連れてきたペットの毛ですよ!この患者さんときたらこっちがいくらペットは禁止だと言っても言うことを聞いてくれないんですよ!」

「何がペットよ!この毛だらけで全身真っ黒なダーリンのどこがペットなのよ!ちくしょう!アンタ達!私のママがこのクソ病院にどんだけ寄付してるかわかってて私にそんな無礼な口聞くわけ?覚悟しなさいよ!ママに言いつけて病院への寄付やめさせてやるからな!こんなロクでもない人間がいる病院なんてさっさと潰れればいいんだわ!」

 私の一喝にみんな黙りこくっちゃった。みんな私を怪訝な目で見てるの。なにそれ!私が嘘ついてるとでも思ってるわけ?でもホントなんだからね。アンタ達覚悟しなさいよ!私をここまで侮辱したってことはママをも侮辱したってことになるのよ!ふん!ママが寄付する病院だからどんなに素晴らしい病院かと思ってきてみたらとんでもない!ロクでもない人種差別主義者の巣窟だった。ああ!ママが可愛そう!きっと人種差別主義者達に騙されてお金をもさぼりとられたんだわ!


 しばらくしてから女の人が尋ねたの。

「その、ダーリンさんてどなたなの?」

 したら病院のスタッフが可哀想に大勢で捕まえているダーリンを指差して「恐らくこのペットの事を言っているのでしょう」とかほざいたの。

 とんでもない馬鹿どもだわ!コイツらはダーリンが人間だってまだ気づかないの。やっぱり人種差別思想のせいで日本人の学力が落ちたんだわ!今の日本は学力ランキング世界最下位!もうオリンピックどころじゃないわ!だから私はもうバカにでもわかるように言ったの。

「何がペットだ!アンタ達には毛だらけで全身真っ黒なダーリンが人間だって事がまだわかんないの!」

 私がこう言うと、病院の連中は呆然とした顔で私を見たの。なによその顔は!やっとダーリンが人間だってわかったって言うの?全く人間だって説明しないと人間だってわからないなんて!アンタ達小学生以下よ!全く一体みんなどういう教育うけてきたのかしら。

 その沈黙の間、女の人はずっと私とダーリンを交互に見ていた。しばらく見ていた後で女の人は口を開いたの。

「……その毛だらけで全身真っ黒な方を離してあげてください」


 やっと病院の人種差別主義者達から解放されたダーリンはウキー!と私のところに飛び込んできた。私はダーリンを窒息死しそうなぐらい抱きしめてそのまま熱すぎるキスをしたの。

 私とダーリンが情熱よりも熱いキスをした瞬間、一斉に悲鳴が起こったの。みるとまた病院のスタッフやら死にかけの患者のババア達が一斉に気持ち悪いと喚いて口を押さえながらしゃがみ出したの。ふん!私たちの愛はこんなものじゃないのよ!どうせなら最後まで見せてやりましょうか!とそのままダーリンを倒して満席御礼の愛のドライブをはじめようとしたけど、そのとき私は一人立って私とダーリンを見つめているあの女の人に気づいたの。

 その女の人はキスを交わす私とダーリンの姿を震える眼差しで見つめていた。顔を震わせ喉元からこみ上げてくる感情を必死で押さえているんだわ!ああ!ここに私とダーリンの愛をわかってくれる人がいたんだわ!ああ!口元を手で押さえたりなんかして!この人私たちの愛の崇高さに感動してるんだわ!この人種差別主義者だらけの日本にもまともな人間はいたんだわ!

 やがて彼女が口を開いた。

「そういえば、騒ぎのせいで次の患者を呼ぶのを忘れていたわ。誰だったかしら?猿山さん?ああ!あなたが猿山さんですか?」

 この人が私の先生なの!私は心の底からホッとした。この人だったら安心して身を委ねられる。この人だったら必ずベイビーを産ませてくれる。だから私はダーリンの腕を取って一緒に立ちながらハッキリ返事したの。

「ハイ!私が猿山サル子です!」

 すると先生はまだ感動が収まらないのか口元に手を当てながら、じゃあこちらへと私を案内したの。私はダーリンを連れて行こうとしたんだけど先生が何故かダーリンを見ながら「やっぱりダーリンさん……控え室おられたほうがよろしいかと……」とか言ったの。

 私はああ!やっぱりこの女も人種差別主義者!日本人なんて全員人種差別主義者よと先生に「なんでダーリンを一緒に入れてくれないのよ!この人ベイビーのパパなのよ!やっぱりアンタも……」って言いかけたら、先生が「でも……あれを見てください」と言って指差したの。

 みるとそこにババア達が倒れていて心臓マッサージを受けていた。そしてババアは息を吹き返すなり「猿の祟りじゃー!みんなあの猿に乱暴されるだぁー!」とか喚き出したの。

 全く年寄りの人種差別主義者には呆れ果てるわ!命の危険に晒されても人種差別をやめないなんて!いくら憎たらしい人種差別主義者達とはいえ私とダーリンのせいで死なれちゃたまったもんじゃないわ!だからとりあえずダーリンは診察の間だけは控え室で待ってもらう事にしたの。

 

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