マイヒーロー 〜警視庁隠密捜査官美月恭平の事件簿
「オラ!いつまで黙りこくってんだあ〜!さっさと吐けよ!もう証拠は上がってんだぜ!」
「この変態!あなた女子のゲロ吐くとこみたいだけなんでしょ!何が証拠は上がってるよ!どうせ全部出鱈目じゃない!」
「出鱈目かどうかは裁判所が判断するんだよ!」
「なんて酷い!極悪人!それでも刑事なの?あなたは無実の人間を犯人に仕立て上げるつもりなの?」
「お前が無実かどうかは俺が判断するんだよ!テメエじゃねえんだよ!」
とある治安最悪の某都市のヤクザの事務所と区別がつかないと言われる警察署では一人の女性が半日前からこんな風に尋問されていた。取り調べしているのはいかにも暴力団と繋がりがありそうな悪徳刑事そのまんまの刑事である。
「取り調べから解放されたかったら全部喋るんだな。喋った所でどうにもならんけどなぁ〜!」
悪徳刑事の笑いが取調室に響いた。女はそのヒステリックな笑いに耐えきれずに耳に手を当てて泣きながら叫んだ。
「ああ!誰か助けて!このままじゃ私この変態に犯されちゃう!」
女が叫んだ直後だった。突然ドアが開いてそこから若い男が入ってきたのだった。悪徳刑事は突然入ってきた若い男に向かって怒鳴りつけた。
「おいテメエ!何入ってきてんだよ!今取り調べ中だろうが!勝手に入ってくんじゃねえよ!」
「だけど先輩、これはあまりにも酷すぎる。見過ごしておくわけにはいかない」
「なんだとテメエ!新人のくせに威張りやがって!お前にその体でここのしきたり教えたろかコラァ!」
新人と罵られた男は表情を変えず胸元から黒い手帳を取り出して悪徳刑事に突き出した。
「おい手帳なんか取り出して何やってんだよ!もしかして辞めるとか抜かすのか?こんな職場は嫌だとか逆ギレでもしたのか?辞めちまえ!ここはテメエみてえな甘ちゃんが勤める場所じゃねえんだよ!」
だが新人は罵倒を受けても手帳を引っ込めず、冷静に持っている手帳を指差した。悪徳刑事は「ああん?」と凄みながら手帳を見てすぐさまこの新人の正体に気づいたのだった。
「ああ!あなた様は!もしかして警視庁の超エリートだけで構成された全国警察署管轄部の隠密捜査官様!ああ!大変なご無礼を働き申し訳ありませんでした!」
「その通り、僕は警視庁全国警察署管轄部の隠密捜査官美月恭平です。先月よりこの署の新人刑事に扮してこの署の問題を調査していました。そして今ハッキリとこの目で悪事の証拠を目撃したのです。容疑者でしかないこの女性に対する度を越した尋問。全く許し難い大悪事だ。そのうち警視総監からお沙汰が来るだろう」
こう隠密捜査官は平伏している悪徳刑事に申し渡すと今度は自分を救い主のように崇めている容疑者の女性に向かって微笑みながら言った。
「もう大丈夫ですよ。あなたの身元を調べて決して逮捕できない人だと分かりましたから。もう安心して下さい。さぁ、行きましょう!」
「ありがとうございます!あなたのおかげで全てが救われました。どうやってお礼をしたからいいか……」
「お礼なんかいりませんが、とりあえず釈放記念に近くのホテルでディナーでもどうですか?」
「まぁ!」
隠密捜査官美月恭平と女性は手を繋いで外へと歩き出した。悪徳刑事はその隠密捜査官の美月に向かって必死な顔でこう叫んだ。
「ああ!隠密捜査官様!そのビッチは男を百人も殺していてちゃんと証拠も上がっているんですよ!こっちだってそのビッチが政財界の大物の愛人だから慎重に証拠集めて逮捕できるかってとこまで漕ぎ着けたのに!」
隠密捜査官美月恭平はもはや悪徳だか正義だかわからなくなった刑事に向かってこう言った。
「君はバカだな。だから僕がこうしてこの署に来たんじゃないか。罪にできない人をれっきとした証拠を集めて罪に陥れる君のような悪徳刑事どもから彼女を守るために僕はここに派遣されて来たんだよ。とにかく君は多分打首獄門だからそこで沙汰を待つがいいさ」
「なんで俺がぁ〜!」
悪徳だか正義だかもはやわからなくなった刑事は警官に拘束されてそのまま牢屋にぶち込まれた。隠密捜査官美月恭平と女性は警察署の入り口に立って美しい夕日に見惚れていた。
「ああ!夕陽をもう一度見れるだなんて思わなかったわ」
「随分長く拘束されていたようだね」
「ええ、もう出れないかって思ってたわ」
「大丈夫さ。警察はあなたのような立派な市民を守るためにあるんだから。さぁ行こう。ホテルはすぐそこさ」
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