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卒業シーズン

「時なんかあっという間にながちゃうんだね。わかっていたけどもうお別れなんて寂しいな」
 そう言うと女は涙ぐんだ。男はそんな女をただじっと見つめている。女は二十代後半で、男は四十過ぎに見え、若者しかいないこの場では明らかに浮いていた。男はチッと舌打ちをし、「やっぱり俺ここに来るんじゃなかったぜ!」と吐き捨てるように言った。女は男の言葉を聞いてハッとし男をじっと見た。女の直視に男は耐えられず罰の悪そうな顔をして俯く。女はそんな男を見て微笑み、そして言った。
「でも、今日はちゃんと私にお別れを来てくれたんだよね。ちゃんと身嗜み整えて、私にお別れをしに来てくれたんだよね」
 男は泣くつもりなんてなかったのに、女の言葉を聞いた途端急に涙が溢れてきた。そして顔をクシャクシャにして号泣してしまったのだ。そんな男の肩に手を乗せて女も泣きながら男に言った。
「私達出会ってから六年間ズッと頑張ってきたよね……。二人にはいろんなことがあった。でも、今となっては素敵な思い出よ!」
そして、女は男の肩から手を離すと、男の正面に向き直ってこう言った。

「大木年男くん、卒業おめでとう!」
「やめろよ!先生いい年してみっともねえじゃねえかよ!」
「でも……先生うれしいよ。六年前に初めてあったときは、三十年以上中学生やってて、しかもとさかみたいな酷い髪型でラッパみたいなパンツ履いてて、こんな子卒業させるなんてできるわけないじゃないって思ったけど、ちゃんとこうして……ちゃんと九九覚えてくれて……やっと卒業させてあげられて先生嬉しくて涙が止まらないよ!」
「馬鹿野郎!先生よぉ二十三区イチのワルを泣かすんじゃねえよ!」
 そんな彼らを同じクラスの生徒が見つけて一斉に駆け寄って来た。
「ああ!大木くんだけずるい!先生!ボクたちも同じ中学のクラスの仲間じゃんかよぉ!」
「バカヤロ!先生は俺だけのもんだからな!お前ら近寄ったらぶっ飛ばすぞ!」
「大木くんまたそんなこと言って!そんなんじゃ社会じゃやっていけないわよ!」
「ワリぃ!先生またやっちまったぜ!」

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