ヨーゼフの失踪
ヨーゼフ・Nが失踪したとの通報が流れたのは三日前の事であった。ヨーゼフはハッキリ言ってニートで両親からもウザがられていた。彼はソーセージが好きなデブで職場の女の子にそれをバカにされてからニートへの道をデブい体で超高速で転がって言った。そんな息子であるから両親は一応捜索届は出したものの実は心の中で喜んでいた。さらに心の中のもっと奥深くではいっそこの世から消えて仕舞えばいいとさえ思っていた。
村の中を捜索してもヨーゼフ・Nは一向に見つからず、痕跡さえ見当たらなかった。両親はこの捜索結果に喜びと悲しみが同時に溢れた。息子がいなくなったのは嬉しい。だが息子が死んでしまっていたとしたら……。ああ!せめて二人は神に祈るしかなかった。愛しいヨーゼフが真人間になってソーセージ屋にでも働いていますようにと。だがそれから十数年経ってもヨーゼフの消息は一向に掴めず、とうとう警察はヨーゼフを死亡人扱いにした。
夫婦はさすがにデブのニートでもヨーゼフが死亡人扱いされた事を深く悲しんだ。もはやこの世でヨーゼフに会うことはない。あの世でも会いたい息子ではないが、それでも悲しかった。結局夫婦はその後ずっと二人きりで暮らしていた。
村ではヨーゼフが失踪したとほぼ同時に野生の動物によるソーセージ盗難事件が続発した。目撃情報によるとどうやらブタが野生化したのではないかという事であったが、ブタは超高速で転がり、足跡さえ残さないので誰も捕獲出来なかった。このブタの行動を追っていた。ハンターはどうやらこのブタが通常のブタより知性が高いのではないかと考えた。というのはこのブタがたびたび落とし穴を作ってハンターを罠に嵌めていたからである。ではそれなりの対策を考えようと逆にソーセージなど置いて罠にかけようとしたが、それは全て無駄に終わった。被害は村の至る所に出てその中でも一番酷かったのは行方不明で死亡人判定の出たヨーゼフの両親の家であった。両親はこれはヨーゼフの祟り、彼の霊を鎮めるために毎日村の中心に禊ぎ物をしようと呼びかけた。あれはブタでなくてヨーゼフの亡霊なのだから見つけても捕まえぬようにしないと。両親はそう村の衆に頼み込んだ。こうして禊ぎ物を捧げる習慣ができるとソーセージの盗難はそれ以降全くなくなった。
しかしである。どんな世界にも親の言いつけを守らない子供がいて、子供たちはブタ捕まえて丸焼きにしようぜと毎日の禊ぎ物で油断し切ったブタをあっさりと捕まえてしまったのだ。子供たちはブヒーブヒーと喚くブタを禊ぎ物を捧げている広場に逆吊りしてブタを叩いてはしゃいでいた。故ヨーゼフの両親は何事かと広場に向かったが、二人はそこでとんでもない物を見てしまった。夫婦の前で逆吊りされてブヒーブヒー鳴いていたのはなんと豚化した息子のヨーゼフ・Nであった。ヨーゼフ・Nは両親に向かってブヒーブヒーと鳴いて助けを求めていた。だが、両親はヨーゼフの懇願を無視してこう言った。
「このブタ早く丸焼きにしてください」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?