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名前:シスターズ・オブ・マーシー

生没年:2020/3/01〜2020/3/31

小説の成長記録

青春とロックの子供として生まれた。才能に溢れていたが生まれたときから自分が大失敗したと感じている6900文字の子供だった。彼は自分の思いのままに生きようとしたが、プライドの高さとあの秘密だけは触れる恐怖に耐えられず、結局嘘をつかざるを得なかった。しかし誠実な彼は嘘偽りの自分に耐えられず、2突然大人になる直前だった2020/3/31頭を身投げして自殺してしまった。106999文字のロックに悩める生涯だった。

小説の性格

『こんな小説もどきなものを書いたって僕の罪は消えない。だけど今から書くことは全て真実だ。オーディエンスにかけて僕は誓う!』と作者は冒頭にこう記し、そして故郷の雪国で過ごした少年時代から物語を始める。父親の持っていたビートルズのレコードを初めて聞いた感動。ずっと欲しかったギターを両親にねだって買ってもらった喜び。それからずっと降り積もる雪の中暖房をつけず365日朝から夜中までギターを掻き毟って近所迷惑になるほど絶叫していた少年時代。初めて好きになった女の子に自分を全く理解されず無残に裏切られた初恋。
そして彼は自分を理解できない田舎の凡庸な人間の無理解に耐えらなかった彼は、ここにいたら自分はダメになると、高校を中退して上京する。しかし東京でも彼は理解されなかった。レコード会社にでもCDを送っても無反応で、ライブハウスでライブをやらせてくれと頼んだが門前払いだった。
しかしギタリストとの天気雨の中のドラマティックな出会いによって運命は激変する。彼ともにバンドをやろうと決め、そしてドラムとベースをオーディションで決め、正式にバンドRain dropsを結成しライブ重ねるとバンドの人気は急上昇しあっという間にシングル『セブンティーン』でメジャーデビューした。そしてそれからバンドも急激に成長し、とうとうバンドの決定的な代表曲『少年だった』を完成させる。
しかしそれが苦悩の始まりだった。彼はスランプになり髪を掻きむしりながら曲を作っていたがなかなか完成出来なかった。そして事務所からの圧力によって同時プラトニックな関係だった某女優と強制的に別れさせられる。彼は女優との別れのショックで『それから何もかもが落ちてしまった』と呟くような状態になってしまった。しかしその別れが彼に刺激を与えたのか、彼はその失恋のショックで全てが抜け落ちてしまった経験を題材に曲を書き出す。しかしあまりにも暗い曲を立て続けに聞いたファンが彼が自殺するんじゃないかと心配になり手紙を次々と送ってきた。失恋で起こった一連の出来事ですっかり自分を卑下していた彼はその手紙を読み、こんな僕を支えてくれるファンがいると涙ぐんだ。そして彼は勇気を出して『裸』という曲で少しだけありのままの自分を見せたのだった。
そしてバンドの十周年記念ライブが行われ、彼らRain dropsは最高のパフォーマンスを見せた。彼は髪を振り乱しだし全曲フル疾走で駆け抜けた。新曲の『僕は太陽』はバンドの新境地とも言うべき曲で彼が初めて自分の全てを解放した曲である。そしてあの事件が起こった……。

小説の成長秘話

作者は有名なロックバンドのボーカルである。彼はあの不幸な東京ドームでの大惨事の後、しばらく雲隠れしていたが2020/3/01、突然ホームページを立ち上げると、Twitterを復活させホームページでこの小説の連載する事を報告した。ファンや野次馬はざわめき一斉にホームページにアクセスするがあまりにもアクセスが集中したためサーバーがパンクする騒ぎになった。
さてこの小説が連載されるとファンは勿論今までロックなどに関心のなかった文学方面の人間まで作者の小説に注目したのである。高校中退とはいえ大学教授の息子である彼は幼い頃から父親にみっちり文学教育を受けていた。彼の文章は文芸評論家をも唸らせるものであった。実際少年時代の誰にも理解されなかった悔しさを書いた部分の繊細な描写などは全く素晴らしい。もちろん小説なので彼の少年時代のエピソードは相当美化されており、彼が自宅や学校でギターのアンプのボリュームを最大限に上げてギターを鳴らして警察沙汰になったことも、初恋の女の子とデート中ずっとギター弾きながら歌いまくっていたら、彼女に「私とギターどっちが大事なの?」と凄まれて「ギター」と即答してその場でビンタされて立ち去られたことも書いていないが、それでも作者の畳み掛ける描写で一気に読ませてしまうのだ。しかしそれ以上に素晴らしいのは家で引きこもっていた作者とギタリストの出会いのシーンである。ギタリストとの宿命的な出会いを祝福するかのように、突如降り出した天気雨の雫の描写などは、うっとりするほど官能的で作者の才能が溢れまくっている。
そしてバンドの人気が上昇するまで作者は例の畳み掛けるような描写で一気に読ませ、『少年だった』の急激なブレイク以降のスランプやプラトニックな恋人との別れまでを鬱々とした描写で書いていたが、だんだん描写が曖昧なものになってくる。作者は何かを避けるようにやたら文学的な修辞を使い、『僕は罪を犯した』『これが堕落への第一歩だった』『僕の中で何かが抜けてしまった』とわかったような分からないような曖昧なことを書いてるばかりでファンや野次馬たちが期待しているあの事件の経緯を少しも書いてくれないのである。
野次馬はこの小説を嘲笑し、コメント欄で笑われるのが怖くて書けないのか!と嘲笑し、ファンもコメント欄で逃げないでちゃんと現実に向き合ってと必死で書き込んだのだった。しかし作者はそんな読者の反応を知ってか知らずか全く無視して小説の連載を続行した。作者は絶望から立ち直るまでを例の熱を帯びた筆致で書いたが、あのことにちっとも触れないので、ファンや野次馬にとっては話の内容自体が嘘くさく思え、小説を更新する度に野次馬や読者にちゃんとあのことについて書け!とコメントが山のように載った。作者はそんな状況に耐えられずとうとうコメント欄を閉じてしまったが、それでもファンや野次馬は収まらず、Twitterやいろんな掲示板で小説のなかであのことには決して触れない作者の不誠実さを詰り尽くしたのだった。そんな誹謗中傷をうけながら作者は小説の更新を続けてとうとう小説があの事件までたどり着くと、野次馬とファンは、まさか作者はこの場面を詳細に書くためにあれをわざと省いたのかと思い、いつものように誹謗中傷はやめてこの小説の成り行きを見守ったのである。実際作者は小説内でこう書いていた。『僕はこのライブで起こった出来事をすべて語りたいと思う。そのいきさつも兼ねて全部ここに書く』
しかし、どんなに話が進んでも、作者は相変わらず文学的なわかったような分からないような曖昧模糊としたことを書いているばかりで、あのことには何一つ触れなかったのであった。そして2020/03/30とうとう我慢の限界に来たファンと思いっきり笑い倒してやれという野次馬は何故か同じ言葉で作者を罵倒した。
『いいかげんにしろこのハゲ!ドームのライブであんなハゲ散らかした姿晒したのにまだカッコつけてるのか!』

その言葉にショックを受けたのか作者は2020/3/31小説のために立ち上げたサイトを閉鎖し小説も途中で終了した。


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