見出し画像

白い公爵様

 突然街に白い肌の青年が現れた。彼は自分を公爵だと言い親戚の将軍のところに両親の財産を取りに行くと言う。街の人々は冬なのに上着一枚しか着ていないこの青年の言っていることが何かの冗談としか思えず笑って彼の元から去っていった。それでも青年は将軍の家の場所を尋ねて街の人々に聞いて回ったのだ。僕は公爵なんだけど将軍の家知ってますかと。彼は将軍の家を知るために家の門を片っ端から叩いて将軍の居場所を尋ねた。しかし残念ながら将軍は見つからなかった。彼が叔父を探していると誰かが声をかけてきた。振り返ると一人の男がそこにいた。男は彼に近づいてくると「将軍だったらここにいるぜ」と自分のスマホの液晶を指差して公爵に見せたのだ。液晶の中にはちょんまげのカツラをかぶった暴れん方将軍が映っており、今まさに悪役を叩っ斬るところであった。公爵はそれを見て唖然とした。自分の良き叔父であった将軍は姿かたちを変えて、今はなぜか頭を剃ったちょんまげ姿でよりにもよって人殺しをしようとしている。彼は泣きながら画面の将軍に向かって叔父さん人殺しはやめろと叫び、スマホの男に向かってどうやったらこの中に入って叔父を罪から救う事ができるのかと涙ながらに尋ねた。しかし液晶画面の中では無情にも叔父の将軍は人々を次から次へと惨殺していった。公爵は叔父に何度もやめろ!貴方はそんな人じゃないはずだと叫んだが、無情にもその叫びはちょんまげ姿で軽快な音楽に乗って人殺しをする叔父には聞こえなかった。もはや公爵に叔父を救うすべはなかった。彼は狂気に囚われ罪を重ねる叔父をせめて安らかに眠らせたいと、男のスマホをぶんどりウォー!と絶叫しながら叩き割った。それが狂人とかした叔父を止める唯一の方法であったのだ。目の前でいきなりスマホを割られた男は激怒して「なんてことすんだ!このスマホ10万以上したんだぞ!」と大激怒したが、公爵はそんな男に向かって一礼して感謝の言葉を述べた。

「ありがとう。あなたが叔父の凶行を教えてくれなかったらいずれ叔父は日本中の人間を殺していたかもしれない。あなたのおかげで被害者は最小限に抑えられたのだ」

 それから公爵は呆然と立っている男の前から消えていったが、その後彼の消息を見たものはいない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?