夢にめざめていたくて
あなたは自分の夢を知らない。
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あなたの夢は絶対に叶う。けれどもそれはあなたの信じていた夢ではない。あなたの無意識の信じていた夢だ。
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夢から覚めるほどあなたは夢を生きることになる。夢を見ることと夢を生きることの隔たりを溶かすには、めざめるしかない。
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めざめたときには確かに、夢の残り香とでも言うべきなにかが、鼻の奥にわだかまっている。それが続いているあいだだけにしかない、もの悲しい充実感があり、それとつながっているあいだだけ、生きている自分がある。
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自分が目をさますたびに一緒にめざめて、自分の意識がはっきりするにつれて、いなくなっていく誰かが、その残り香のそばにいる。
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そのひとときにだけ、その誰かと一緒に生きたかったと願っている。もうそれが誰だったのか思い出せないのだ。こうして一日ははじまる。
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その誰かがいなくなっていくことと、自分が目をさますことは並行しているけれども、同じことを意味しているわけではない。夢を生きるとき、そのことが明らかになるだろうという予感がしている。けれどもそんな瞬間は来ないだろうという確信がさらにある。
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寄り添うことができればどれだけよかったか、そう思う別れてしまった友人がいて、そう思う別れてしまった自分がいる。哀しさはなく寂しさがある。
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自分のことをまったく知らない並行世界の自分というのを思い浮かべる。その自分は、今の自分とあまりに違いすぎる。過去のたったひとつの選択から分かたれただけだと思い込んでみても。こちらからその自分のことを考えて、つながりを感じているとしても、むこうは絶対にこちらのことを思い返さないし、こちらのような自分があり得た可能性にさえ思い至りもしないだろう。
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むこうの自分はまるでこちらを知らないし気づかない、こちらの思いだけがその自分に寄り添っている、そう思うだけで、心が慰められる感じがするのはなぜだろう。こういうふうにして、自分のそばにも他の自分がいるかもしれない、そう感じて湧く寂しさにも慰めを覚えながら。
ここまで読んでくれてありがとうございました。