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恥かき人狼。

二十代、何度も転職していた私。




その度に会社からのお達しで、
新入社員セミナーに参加していました。




「前の会社で行きました。」





これが言えません。

毎度毎度出席していました。

/あたしゃ新人だよぉ\



そして何度目か、
そこそこ規模のあるセミナーに
参加している時のこと。





今回もいつも通り始まりましたが、
皆フレッシュな若い人たちばかり。





恐らくですが、偽新入社員は私だけ。
ちょっと自分だけ老いてます。




そして皆消極的。

誰も進んで挙手したり、
シミュレーションをしようとはしません。





講師の残念そうな顔を見ると、
毎回忍びなく思います。




よし。

ここはベテラン新入社員の自分が、
一肌脱ぐしかないか…




私「はい!やります!」






そして頭真っ白。

大失敗。





ややうけ。





(あえてね。雰囲気をよくするために。)


そう自分に言い聞かせて。

今までの経験から
何も学んでいないことを、
無にします。


/無にしていくワン!\





そして、
こうなったからには
面白兄さんモードでやっていくと決意した私。





すかさず挙手をし、





大失敗。




ややうけ。



(あえてあえて。)

変なスイッチが入って止まりません。



こうしたやり取りを繰り返し、
会場が変に柔らかくなってきたところで、
セミナーも終盤を迎えました。




講師「それでは最後に人狼をやりましょう!」







(…?)




(人狼ってなんだっけ…?)





周りの様子はどこか楽しげ。





ヘーッドショルダーニー&トー 
ニー&トー!


みたいなやつだっけ…?





記憶の欠片を集めても、
ヤムチャの狼牙風風拳しか出てきません。





講師「ルール知らない人いますか?」






(ルールあるの…?)





全く分かりません。

ここは完全に挙手のタイミング…






私「ん…」






どうしたことでしょうか。




"人狼"は知っている面白兄さん

でいたかったのでしょうか。





私は手を挙げることが
できませんでした。



挙手にフェイントをかける少年



私の心の焦りも空しく、
質問ゼロで始まってしまいました。





20人規模2グループの人狼です。




勿論みな初対面。




この圧倒的劣勢感、圧倒的アウェイ感。

脇汗ギュンギュンです。





(多分何か議論するゲームなはず…)






…よしまずは、あれだ。
ゲームを壊さないように努めよう。






「ここは"見"(ケン)だ!」






役割のカードが一人一枚ずつ配られていきます。





(ゴクリ…)





実はここが最大の正念場。

特別そうなカードを引くとすべてが台無し。



「すみません。ルール知りませんでした。」

の大白状。総スカン。刑事告訴。




頭が沸騰しそうです。






謝るときはしっかり謝ろう。

そう覚悟し、ゆっくりとカードに手を掛けます。




ペラリ…





"村人"



どうやら私は「村人」らしい…。




(うん…たぶん…多分…安牌。)




"その他大勢"な感じがするぞ!
やった!




沈黙を貫いてゴールまで突き進む。
これでよし。




勝利の方程式を確信したところで、
ほっとしながら、周りに目を移します。





ん?…





皆が私を見ている。





(何?何!?何かするの?)





とにかく笑顔を切らさないようにする私。






「笑顔が最大のコミュニケーションです。」

そうさっき言ってました。




ばれたのか?
ルール知らないことがばれたのか?




カードを隅から隅まで凝視し、
どこかにヒントがないか探します。






刹那、賢そうな青年が、
第一声をあげました。




「占い師の方いますか?」





(えっ?)



(占い師って新入社員セミナー来るの?)









はいはい。嘘嘘。
ゲームの役割ね。
知ってた知ってた。





私の泉ほど湧き出る脇汗を横に、
どんどん進みだす人狼。




しばらくして段々ルールが見えてきました。




どうやら話し合いを行い、
潜む人狼を探し当てる(処刑)というものらしい。





それを数ラウンド繰り返していく。




処刑された人はおしまい。
遠くのベンチに移動し、眺めるのみ。





活発に議論が進んでいく中、
とにかく沈黙でニコニコを貫く私。


当初の作戦を忘れてはいけません。






そして最初の投票が始まりました。





ざわざわ…ざわざわ…


「始めは全然分からないよね。」


「一斉に指差しで決めようか?」


「それじゃせーのでやりましょう!」


「ニコニコ。」




「せーの!」



19対1





私が何をしたというのでしょうか。





私の指だけが震えて空を指しています。





そうか。
これは端から決まっていたのか。



間違いなく出来レース。




セミナー序盤に目立ち過ぎた、私。





人狼云々関係なく、
最初に指すのはあいつにしよう。





そう皆が第六感を超えて、
心を一つにしたのです。





あいつを指しておけば、角立たないしょ。




そうそれが最適解。





寂しい!






講師「それでは、退席される方一言!」









私「へへっ(ニコニコ)」





ややうけ。








あとがき

兎にも角にもゲームを壊さずに済み、
ほっとしました。


遠くの席でケータリングを
ポケットに詰め込んでから、帰りました。



今も詳しく知らない人狼。

本当の人狼はあなたなのかもしれません。




(?)





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