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私は旅に出た。君は好きにしろ。10

◆モンゴルに嫁ぐという決意

自分の人生に覚悟を持って挑んでいる人は本当にかっこいいと思っています。大学卒業後の進路に対して覚悟が決めきれず、海外に飛び出したわたしにも、決意せねばならない瞬間が訪れました。ロシアを抜け、モンゴルに入り、そこから中国へ陸路で抜けようとしていた時の話です。モンゴルの首都から、中国国境の近くの町まで電車に乗り、そこから先はジープをチャーターしないと国境を抜けることができませんでした。

陸路での国境越えは何度かしたものの、ジープを自力でチャーターするなんて経験は今までしたことがなかったし、不安でいっぱいだった電車の車内で、たまたま近くに座っていたモンゴル人家族と仲良くなりました。わたしの1歳年下の男の子(ケンゾー)とそのお母さん、そして国境直前で親戚だというおじさんと合流し、総勢4人で国境を越えることになりました。

ジープを一人でチャーターすると高いので、ラッキー!と思っていた私に、さらにラッキーだったのはそのおじさんがまさかの政府関係者(日本でいう警察手帳のようなものを持っていました)だったので、本来は2時間以上並ぶ国境手前のジープの列を顔パスで通り抜け、面倒だと言われているモンゴルー中国国境を一瞬で抜けることができました。自分の運の良さを両手で抱きしめてあげたい。

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無事に中国に入国した私ですが、国境あたりからややおかしな空気を感じていました。やたら、そのモンゴルママが私とケンゾーを近づけようとしてくるのです。さらに、モンゴルに自分たちが帰ったら、家に住ませてあげるから絶対遊びに来なさいとか。いや、私モンゴルでの長期滞在は考えてなかったんですけども。国境を超えてひとまずホテルにチェックインすることになりました。私は中国の状況が全くわからなかったので、とりあえずお任せして一晩寝てから、明日の移動のことを考えようと思っていました。

いつも泊まっているところだから!と案内されたホテルで、予感は的中。私がお金をおろしに行っている間に確保してくれたのはダブルが二部屋。モンゴルママ&おじさんが一部屋。そしてケンゾーと私が一部屋。

ちょっと待って何かがおかしいですおかあさま!いや私まだ嫁ぐなんて一言も言ってないしっていうか昨日会った同じ年頃の男性とホテルで同じ部屋でダブルベッドってどう考えたらその部屋割りでオッケー!ってなるんですか?!?!っていうかおかあさんとおじさんの関係性についても一度確認させていただいてもよろしいでしょうか??!?!?!モンゴルではファミリーの定義が広いんでしょうか?!?!

私の心の叫びは完全に無視され、みんなであたかも家族かのように夕食を囲み、私はまるでケンゾーと兄弟か、もしくは新しい家族の一員かのように迎えられました。わたしはこのままモンゴルの家族としてこの地に骨を埋めるのか。夜までずっと「モンゴルに嫁ぐのはやっぱりどう考えても無理だ」と覚悟は決まらず、結局ケンゾーにたくさんお酒を飲んでいただき、一瞬で眠りについていただき、私は部屋の片隅で、明日にはこの家族と離れるべく、中国の情報規制や旅の情報について調べまくり眠れぬ夜を過ごしたのでした。

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海外に出た当時はまだ21歳で、自分の人生について真剣に考えたことなどなかった私ですが、旅を続けるうちに「私にしか描けない人生にしたい」という思いが強くなっていきました。海外で出会って、その国のために人生を費やすことを覚悟した日本人の方々や、貧しい国なのに自分の国の未来をよくするために必死で働く現地の人に毎回脳天痺れるような衝撃を受けたからです。自分の人生に覚悟を決めて、何かに打ち込んだり、誰かのために力を使う人たちが、本当にかっこよくて。

私たちは自分の道を決めるのに、本当の自分の意思ではなく、つい周りの意見や世間の波に身を委ねてしまうことがあるけれど、よっぽど意識しないとやっぱり自分の意思だけで行動を決めるのは難しいと思います。だって、上手くいかなかったときの言い訳があるほうが楽だから。環境や周りの人の言葉をぎゅっと握りしめながらおそるおそる進みたくなる、誰だって未来は不安だもん。でも、そんな不安と良いバランスで付き合いながらも、わたしは、自信を持って自分の歩む道を選べる意思と、自分の人生と正面から向き合う覚悟を持った、そんな大人になりたいと思っています。

だから私はモンゴルには嫁ぎません!ケンゾーに手を振って一安心したバスの車内でふと携帯に目をやると、わたしのiPhoneのカメラロールはいつのまにかケンゾーの自撮りでうめつくされていましたとさ。


11につづく!


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著者:山口夏未
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