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「解はひとつだけではない」ロケット開発の要 エンジン設計のお仕事!

こんにちは!インターステラテクノロジズ(以下、IST)広報チームです。
久しぶりとなった社員インタビュー。今回は、ロケットのエンジンを作る推進チームから中田裕一さんにお話を伺いました。ISTで作るロケットエンジンの特徴や設計など、技術者の立場から少し踏み込んだ内容です。ロケット開発や、ISTの仕事に興味のある方はぜひご一読ください!

プロフィールー推進エンジニア・中田裕一さん

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中田 裕一(なかだ・ゆういち)
1992年生まれ。神奈川県相模原市出身。2016年に東海大学 大学院 工学研究科 航空宇宙学専攻を修了後、ISTに入社。現在はMOMOのエンジン設計を担当。

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まずは中田さんがISTに入った経緯を教えてください。

中田
僕は、大学院を修了してそのままISTに入社しました。院在学時は、学生サークルに入り大樹町でロケットを打ち上げていたのですが、そのときにISTへ見学に行ったのが始まりです。入社したのは、もともと大学の同専攻だった植松くん(現ZEROプロジェクトマネージャ 植松千春)に声をかけたのがきっかけ。その頃は採用募集がおおやけに出ているわけではなかったので、「採用はどうなっていますか?」と直接聞いて、トントン拍子で入社しました。

中田さんのお仕事ーインジェクタの設計

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ISTでは主にどんな仕事をしていますか?

中田
主にエンジン設計を担当していて、その中でも、主にインジェクタ(噴射器)の設計をしています。

エンジン図解ピントル_文字あり6_2021

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去年(2020年)7月に予定されていた『ねじのロケット(MOMO7号機にあたる機体)』の打上げが延期になったことで、エンジンを設計から見直そうという動きになっています。今は、エンジンを根本から改良しているということですね。

中田
はい。設計と、試験の実施も一部を担当しています。

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インジェクタとはそもそも何でしょう?

中田
ロケットエンジンの心臓部で、推進剤(液体酸素と燃料)を噴射する装置のことをいいます。
例えば、自動車は推進剤を霧状に噴射して燃焼させやすくするのですが、我々のロケットエンジンは「ピントル型」というインジェクタを採用しています。このピントル型では、燃料は霧状ではなく液膜としてエンジンの燃焼室に流れていきます。噴射された直後は液体でドバドバと噴出し、出てきた先で液体酸素にぶつかる。このときの互いの衝突によって、霧状になるというメカニズムですね。

ピントル型インジェクターアップ図解2

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筒の内側から傘状に出てきた液体酸素が、外側を流れてきたエタノールとぶつかるという構造ですね。ISTはもともと衝突型のエンジンを作っていて、それは線と線でぶつかるというものでした。

中田
衝突型とピントル型は、どちらも推進剤を互いに衝突させることによって霧状にしているインジェクタですね。

MOMOエンジンの特徴ー「熱に耐える」

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MOMOの推進剤はエタノールと液体酸素ですが、エンジン自体の特徴はありますか?

中田
エンジンの特徴としては積極的な冷却をしていないことが挙げられます。エンジンは、燃焼室内で酸化剤と燃料が混ざり3000℃くらいになるのですが、3000℃の熱からエンジン自体を守るためには、さまざまな方法があります。エンジン内の壁を冷却する方法が一般的なのですが、MOMOの場合は「冷やす」というよりはアブレータという部品で「熱に耐える」方法をとっています。

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アブレータはどういう原理で熱に耐えるのでしょう?

中田
一般的なアブレータは、熱を受けると自分自身が蒸発してガスになります。そのガスは固体や液体に比べて熱の伝えやすさ(熱伝導率)が低いんです。ガス化することによって、壁面を熱から守るのが「アブレーション」ですね。
MOMOも社内では「アブレータ」と呼んでいますが、実際にはアブレーションの効果よりも、エンジン内部の熱を外に伝えないように「断熱している」働きのほうが大きいです。アブレータは燃焼室の内壁といちばん外面のアルミの間にあって、繊維強化プラスチック(FRP= Fiber Reinforced Plastics)でできています。この素材は熱を伝えにくいので、それで単純に断熱をして、熱を外に出さないようにしているという感じです。

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厳密にはアブレータではないんでしょうか?

中田
従来型のMOMOは中が全てグラファイトなので、アブレータというよりもインシュレータというほうが正しいのですが、MOMO-V1(MOMO改良型)からはノズルをFRP化する予定なので、ノズル下流部分は本来の意味でのアブレータになります。
グラファイトとは、炭素を固めたもので、耐熱性をもった、ものすごく硬い鉛筆の芯を想像していただけるといいと思います。

エンジン図解ピントル_文字あり61_2021

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エンジンは、三層構造になっているということですね。内側から直接火炎に晒されて熱に耐えるグラファイト、断熱するFRP、一番外側をアルミニウムの筒が覆っているという。アルミの部分は、何をしているのでしょう?

中田
アルミ部分は「ケーシング」ですね。下部がすぼまっているので、中身の部品が落ちないように持ってあげている。つまり、エンジンの後半部分を支えているということです。

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先程ノズルの話が出てきました。次世代エンジンに向けて、『えんとつ町のプペル MOMO5号機』まではノズルが全てグラファイト製でしたが、一部をFRPにできるかどうかの実験をおこなっているところですよね。

中田
ノズルの部品は、主に3つの部分に分けられます。上流側(燃焼室のところからだんだんと径が小さくなっていく部分)といちばん径が小さい「スロート」と呼ばれる部分、そこから下へ径が広がっていく膨張部分「スカート」です。熱負荷が高いところはグラファイトを使いますが、グラファイトを補強するためにFRPを用いる形です。
国内外のロケットも熱に厳しい部分は、C/Cコンポジットなどの炭素系の素材を使っています。グラファイトや炭素系の材料を使ったほうがいいということは今回改めてわかりました。

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話は戻りますが、そもそもFRPとは何でしょうか?

中田
Fiber Reinforced Plasticsの略でいわゆる繊維強化プラスチックのことです。普通のプラスチックや樹脂系材料に何かしらの繊維を入れてさらに強度を上げたものですね。 FRPにもいろいろな種類があって、グラスファイバーやテニスラケット、自転車のフレームなどに使われるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics=炭素繊維強化プラスチック)といわれるものも、最近は世の中で広く用いられているようです。

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中に入れる繊維が、ガラスなのか炭素なのかによって変わってくると。

中田
あまり出回っていないけれど、MFRP(Metal Fiber Reinforced Plastics)というメタル(金属繊維)を入れるものもあります。今回ISTでは、SFRP(Silica Fiber Reinforced Plastics)、シリカ系のケイ素(Si)化合物を使っています。平たくいえばGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)というガラス繊維よりもさらに純度が高く、強度も強いものです。ちなみに、ルナランダーという月に着陸した宇宙船のエンジンにも使われているので、そこからインスピレーションを得ました。

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シリカのほうが耐熱性能が高いということでしょうか?

中田
シリカだと、対エロージョン(侵食)に強いんです。熱い燃焼ガスが通過していくことによって、だんだん壁面がえぐられていくのですが、そのえぐりに対してSFRPは強いというレポートがあったので採用しました。

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やってみないとわからないことはありますね。

中田
基本は、国内外の文献やNASAのテクニカルレポート(技術報告書)を見て検討するのですが、肝心な部分は企業のノウハウや極秘レシピになったりするので、書かれていないんです。例えば、どういう繊維を使うべきか、積層方向はどうなのか、他の配合はどうなのか、といったところですね。今はレポート通りにシリカを使用してやってみる、という段階です。

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やり方によって可能性がないわけではないけれど、そこにリソースを割くかどうかというところですよね。ちょうどいい塩梅のところを狙っていくということですね。

ZEROエンジンの特徴ー「積極的に冷やす」


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そして、開発はMOMOから人工衛星軌道投入ロケットZEROへと進んでいきます。ZEROのエンジンの特徴は何でしょうか?

中田
ZEROもMOMOと同じピントル型の噴射器を採用しています。サイズ的にはMOMOと変わらないくらい、むしろ少し小さいくらいですが出力は5倍ほどになります。パワーがアップしたということですね。
一番大きな違いは、MOMOは先ほど話した通りアブレータで熱に耐えるという構造をしているのですが、ZEROは壁を積極的に冷やす構造になっているということ。「再生冷却エンジン」というのですが、「燃焼室の壁が熱くなってもその壁を外側から冷やせば大丈夫」という思想です。燃焼室を冷やせれば何でも良いのですが、ロケットが搭載しているものに液体酸素と炭化水素系の燃料(ZEROではメタン)があります。液体酸素で冷やすと、金属と反応するリスクがあり危険なので、一般的に使われるのは燃料のほうです。
燃料をエンジン壁面の外に流して、燃焼室を冷やします。これを「熱交換」といいます。冷やすというのは、要するに熱を奪っているということ。そこを流れている燃料がそのぶん熱くなります。そのまま捨てると勿体無いので、その冷やした燃料をインジェクタに持っていって燃焼室に戻すということをしています。それが再生冷却エンジンですね。

再生冷却_概念図-21

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燃料はどうやって流すのでしょうか?

中田
「ターボポンプ」という新しい機構を使います。MOMOではタンクからガスで押し出していたのですが、ZEROの場合はそれでは力不足なので、推進剤をさらに強力に押し出すための機構ですね。

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ターボポンプはいうまでもないかもしれませんが、ターボとポンプが合わさったものですね。

中田
燃料を燃やしたガスをターボ部分で受けて回転させて、ポンプを回し昇圧するという仕組みです。ポンプ部分では、遠心力で推進剤の圧力を上げます。タンクのなかの圧力はMOMOと比べると1/10くらいなのですが、ZEROのエンジンではポンプを使って、MOMOのタンクの2倍から3倍くらいまで圧力を上げようとしています。

そもそものお話ーエンジン設計の手順とは?

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ここまでMOMOとZERO、両ロケットのエンジンの特徴について聞いてきましたが、そもそもエンジンはどのような手順で設計をしていくのでしょう?

中田
エンジンは、ロケットシステム全体を把握していないと作ることができません。
1、まずはどこまで飛ばしたいのか、お客さんの要望を聞く
  例「高度100kmまで荷物を運びたい」など
2、要望によってどのくらいの推力やIsp(比推力=燃費のようなもの)が必要か決まる
3、推力とIspの要求を満たせるように設計する
という手順ですね。

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それらはどのように決めていくのでしょうか?

中田
まずは推力。推力を何kN(キロニュートン)出したいのかを決めます。そこでキーになるのが燃焼室圧・ノズルスロート径・推進剤流量ですね。その3つを「良い感じ」にしていきます(笑)

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それはいろいろとシミュレーションしたりとか?

中田
そうですね。3Dなシミュレーションツールを使うというわけではなく、計算式をチマチマやって数字ベースで成立するかを見ています。ここで、設計の難しいところは「推力がこれだけ欲しいから燃焼室圧をこれぐらいにしよう」と一概には決められないところ。燃焼室圧は上げれば上げるほど推力も温度も上がりますし、Ispもかんたんに上がります。Ispとは、エンジンの性能を表す一番大事なもので、いかに推進剤が混ざりよく燃えて、そしてよく排出されていくかを表す指標です。

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良いことづくめじゃないですか?

中田
燃焼室圧力を上げれば上げるほど性能が飛躍的によくなるので、できれば圧力は上げたいというのがある。今回の改良では少しだけ上げています。しかし、圧力を高めると燃焼室自体の設計を強固にしなければならないし、燃料タンクの供給圧も高くしないといけない。タンクの供給圧を高くすると、タンクの強度も丈夫にしないといけない。するともっと重くなって、今度は推力がさらに必要になるという悪循環に陥ります。

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そのちょうど良いバランスの収まりどころを探す、というのが一番の肝なんですね。まるでパズルのようです。

中田
燃焼効率を上げるという方法もあります。効率が低い=燃費が悪いということなので、無駄に燃料を食って性能が出ないということになる。燃焼効率が低い状態で100kmまで飛ばそうとすると、タンクをさらに大きくしなければ燃料が足りなくなってしまいます。

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燃焼効率が上がるぶんには問題ないのでしょうか?

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それは問題ないですね。効率によって温度差はありますが、上限は3200〜3300℃くらい、低くても3000℃なので、「効率が悪ければこちらの材料が使える」という話ではありません。燃焼効率は高ければ高いほど良いですね。高いぶんだけ他の要素の自由度が増えることになります。燃焼効率が低いエンジンで高い推力を出せとわれたら、どんどん推進剤を流さないとできませんが、そうなるとやはりタンクが大きくなって全体が重くなります。効率が高いぶんには推進剤量は少しで良いということになります。

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今のISTロケットの燃焼効率は?

中田
精査している段階ではありますが、燃焼効率はシステム(ロケットのミッション設計をして各部署に指定する部門)からの要求はクリアできる見込みです。

ISTのおもしろさーアイデアが浮かんだら即挑戦!

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中田さんは大学院から直接ISTに入ったんですよね。大学では何を専門に勉強していたんですか?

中田
専門は、しいていえばハイブリッド型のロケットエンジンになります。ロケットエンジンには固体ロケット・液体ロケット・ハイブリッドロケットと3種類あり、僕はハイブリッドをやっていました。

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やること自体はMOMOと変わっていないのでしょうか?

中田
そうですね。先ほどの設計の手順に則って、基本的な考え方は変わりません。

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大学のロケットサークルで中田さんのようなことをしていた方は、ISTに入社してもきっとうまくやっていけますね!

中田
そうですね。個人差はあると思いますが、最近はロケットサークルで自作エンジンをつくる団体も増えています。自作エンジンを自ら設計して、試験をやって、成功なり失敗なりを経験して、フィードバックをして改良する。さらにいえば、フライトの機体に乗せたというようなプロセスを経ていれば、即戦力になれると思います。

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「ISTのここがおもしろい!」というところはどこでしょう?

中田
自分が設計のポジションに就くと、「これを試してみたい」と思ったことを実際に試すことができるのは良いところだと思います。これからもっと開発の段階が進んでいくと、仕様が決まっているので変更できない、自由が利かない部分も出てきます。でも、今の開発段階なら、アイデアを容易に試すことができます。

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設計・実験・フィードバック・改良のサイクルが早いということですね。MOMOでは、点火器についても改良されていますね。

中田
はい。点火器自体にも設計変更を加えたのと、点火器まで酸素を共有している地上設備も一部改良しました。ノズルと点火器以外にも不安要素を洗い出して取っ払っているというのが現状です。

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今後、さらに改良するとしたら?

中田
さらに軽くするということですね。いまの設計変更で、すでに従来型よりも軽くなっているのですが、まだまだ削れる部分もあるので、今後の課題ですね。
また、燃焼室の中もまだ改良する余地はあると思います。次回のさらに次、その次…と、「こうしたい!」という思いはたくさんあるので、どんどん挑戦していきたいです。

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正解が出てしまえば終わりということではないですね。

中田
正解は出ないんじゃないかと思います。5号機もひとつの解ではありますが、唯一解ではない。いろいろな方法で成立さえすればいくらでも解は作れると思います。

推進系エンジニア 募集要項について

業務内容
ロケットエンジンシステムの設計・開発・組立・試験実施・検査・調達 エンジン試験設備の計画、概念設計

募集人数
若干名

応募条件
熱力学・流体力学・材料力学・材料工学の基礎知識を持っている方
ロケットエンジンシステムに関する学習意欲のある方

求める人物像
・独自に課題を発見し、自主的に業務を計画遂行出来る方
・新しい知識をすぐに取り込める積極的な姿勢のある方
・協調性を有し、チームで成果を上げることができる方
・適切なリソース配分ができ、効率的な業務遂行が可能な方

勤務地
北海道大樹町本社

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