ゆる言語学ラジオさんの『英単語ターゲット1900』の語源企画を、ゆるく(?)サポートする、オマケ的な【ゆる補修 note】です。
< 参考:前回のおはなし >
はじめに
語源には諸説あります。
そこが一つの醍醐味でもあり、ときには迷路に入ることもあります。
こちらの【ゆる補習 note】では、高校生の方々が英単語の勉強で悩んだときに少しでもヒントになればいいな、という思いから「わかりやすさ」と「愉しさ」、「美しさ」を基準にしながら、語源のもつイメージを<翻訳>しました。
わたしは語源が大好きなので、みなさんと一緒に勉強ができてとても嬉しいです。
それでは【ゆる言語学ラジオ『ターゲット 1900 ③』】で取り上げられた英単語を、ひとつずつ見ていきましょう。
* 使用教材:『ターゲット1900』5訂版
(最新版は6訂版です)
< 今回のおはなし >
*ゆる補習 note では、こちらの一覧表を使います(↓)
16. depend [15] ぶら下がる → 頼る、依存する
depend は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「pend」で、ラテン語 pendeo = 吊るすが元になっています。
たとえば、ペンダント(pendant)であれば、首から「吊るすモノ」です。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)がついています。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
語尾が変われば、品詞(状態)が変わる。
-ence は「〜すること」という名詞ですよ、という記号。
-ent は「〜するような」という形容詞ですよ、という記号です。
シッポを見れば、回転寿司の色皿みたいに、ざっくり品詞がわかります。
(* 無理に覚えようとしなくても、そのうち慣れます。)
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞なし》
本来の意味がわかりやすい、
アタマのついていない 基本語 pend- の仲間たち。
《接頭辞あり》
アタマが変われば、時空(条件)が変わる。
アタマを見れば、時間や空間の流れがざっくりわかります。
(* 無理に覚えようとしなくても、そのうち慣れます。)
《アメリカの『独立宣言』 → 英語では?》
→ アメリカの『独立宣言』は『Declaration of Independence』です。
(正式名称は The unanimous Declaration of the thirteen united States of America)
生きること、自由であること(≒「身分制」がないこと)、そして幸せを追い求めること。この3つの権利は、神によってすべての人間に等しく与えられている、とされています。
これが福澤諭吉『学問のすゝめ』の有名な一節「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」の土台になったという説もあります。
幸せを追い求める手段として「学べ」、という福澤先生のメッセージ。
<翻訳>として読むと、学校で習うイメージとは別な味わいがあります。
《ターゲット・シス単関連語》
ラテン語 pendeo は「(天秤に)吊るして重さを測る」という意味の pendo から派生してできた言葉です。ほかの仲間は「466. expense」でご紹介予定です。
17. encourage [15] 心に(思いを)宿す → 励ます
encourage は、3つのパーツからできています。
でもまずはこう分けましょう。
後半の courage 「勇気」は、さらに2つのパーツにわけることができます。
この言葉の本質部分は真ん中の「cour」で、ラテン語 cor = 心臓(心)が元になっています。
たとえば、レコード(record)は、何度も繰り返し(re-)心の中でふりかえってみたい、いつまでも心に留めておきたいと思うモノを、なんとか形にしようと頑張って生まれた「記録」です。
この cor に「名詞化」を示すシッポ(接尾辞)が加わります。
つまり「勇気」って、思いを心臓のあたりにしっかりと宿すことなんです。
ここに「動詞化」を示すアタマ(接頭辞)をつけ加えます。
3つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《en-/-en の補足説明》
アタマの en- と シッポの -en。
どちらも「〜する」という動詞化の働きをもっていますが、語源は異なります。
《ターゲット・シス単関連語》
ラテン語「cor 心臓」から生まれた単語は「72. accord」でまた扱う予定です。
18. exist [16] 外に立たせる → 存在する
exist は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「sist」で、ラテン語 sisto = 立たせる が元になっています。
英語で「立つ」をあらわす stand も、遠い親戚です。
ここに「外へ」を示すアタマ(接頭辞)が加わります。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《西洋的な 『神視点』》
番組で触れられた<キリスト教的な神視点>について、補足させていただきます。
あくまでも exist の「原義」は ラテン語 existo「現れる、生ずる」であり、その元は ex- + sisto「外へ立たせる」です。
これを踏まえた上で、今回のリサーチでは exist の用例を2つのふるい辞書で調べてみました。
① S. ジョンソン博士の『英語辞典(1755年)』
→ 元ネタは『聖書』創世記 1:27 に関する Robert South の説話(「THE IMAGE OF GOD IN MAN」Genesis i. 27)です。
② N. ウェブスターの『英語辞典(1828年)』
どちらも『聖書』創世記第1章への含みを感じさせる文を採用しており、キリスト教的な物事の捉え方—— 創造主である神がヒトやモノを物質界に配置している ——という視点への言及がなされています。
これは「自分」が信じるかどうか、とは別のこととして——
前出のアメリカ『独立宣言』もそうでしたが、世の中には キリスト教のみならず、それ以前の多神教(ギリシア・ローマ神話含む)や一神教なども含め、「人智を超えたなにかが世界(や人間)をつくった」という考え方が、何千年も前から存在します。
映画『アレクサンドリア(原題:AGORA)』には、宇宙から地球を見下ろすカットが多用されていますが、この<宇宙視点>が<神視点>に近いといえます。
そして今でもそういったなにかを信じている方たちがたくさんいらっしゃるということを知っておくと、海外の文物に触れたり、海外の方々と実際に交流したりする際に役立ちます。
たとえば、バイデン米大統領の「勝利演説」にはこのような表現がありました。
実際の『聖書』の原文(英訳版)では、こう書かれています。
(演説では、語順や言葉選びにかなりアレンジが効いていることが分かります)
日本でも「天の配剤」などという言葉がありますが、その感覚に近いでしょう。
適時適材適所の法則(right people in the right place at the right time)なども含め、西洋の方々はこのような言いまわしをとてもよく使います。
そしてなんとかその高みに近づくことはできないか、と模索しているのです。
時折、漱石のこの言葉に思いを馳せています。
* ちなみに、夏野はミッション系の学校に通った「仏教徒」です。宗教の授業が大のニガテでずいぶん反発したものですが、その時の知識が社会に出てからたいへん役立ちました。『異文化』に触れ合えたことに、いまでは感謝の一念です。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞あり》
アタマが変われば、時空が変わる。
《ターゲット・シス単関連語》
19. reduce [14] 元の方へ導く → 減らす
reduce は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「duce」で、ラテン語 duco = 導く が元になっています。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)が加わります。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
■ 参考イメージ:自動車の生産ライン(Production Line)
自動車工場では、さまざまな部品がベルトコンベアへと運ばれ、少しずつ組み立てられ、前へ前へと導かれて製品となります。
ところが、最終検査工程で組み付け方や部品に問題が見つかった場合、もう一度つくり直さなければいけません。やり直しのために工程を戻すか(リワーク)、できたものを廃棄してもう一度つくり直すのです。
この時、できたはずの完成品の数は減ってしまいます。
「1分、1台、◯百万円」
自動車の場合、1ラインあたり約1分に1台のペースでクルマが完成します。
1台あたりに必要な部品は、3万点。ネジ1つ欠けてもクルマはつくれません。
生産ラインが1分間停止すれば、それだけで数百万円、1時間では数億円が軽く吹き飛びます。品質不良や欠品が起きれば関係者は大慌てで対策に走ります。半導体不足や天災など、部品供給の問題が大きなニュースになるのもこのためです。
欠品や品質問題が起こらないよう、生産現場や部品供給の現場では、いつもたくさんの方々が絶妙なかけあいでモノづくりを支えてくださっています。
*リコールの場合、市場にでてしまった製品を回収(or 改修)します。この場合、会社の利益や信用が減ったり失われたりします。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
→ 前回の【ゆる補習 note】8. produce をご覧ください。
《ターゲット・シス単関連語》
20. adapt [16] 〜に合わせる → 適応させる
adapt は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「apt」で、ラテン語 apto = 合わせる が元になっています。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)がついています。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
たとえば AC アダプタ(AC adapter)なら、電源からの電流を機械に合わせて(変換して)くれるモノです。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《要注意! adapt と adopt の違いは?》
adapt と adopt は、1字違いでとっても紛らわしいですね。
adopt の本質部分は「opt」で、ラテン語 opto = 選ぶ が元になっています。
(「選択肢」をあらわす オプション(option)と同語源です。)
最良の案を選び抜いたり、誰かを自分の家族として迎えることを選んだり、確かな意思をもって選びとる ニュアンスが感じられます。
《ターゲット・シス単関連語》
21. compare [15] 共に等しい → 比較する
compare は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「pare」で、ラテン語 par = 等しい が元になっています。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)が加わります。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞なし》
《接頭辞あり》
《リンゴとリンゴ vs リンゴとオレンジ》
同条件で比較することを、英語で apples-to-apples comparison と言います。
おなじ種類のものをテーブルに並べて、大きいとか小さいとか、甘いとか酸っぱいとか、値段が高いとか安いとか、いろいろ比べてみる感じです。
本来おなじ土俵に載せるべきでないものを比べている時には、apples to oranges と言います。
仕事を進めるとき、「比較検討」が必要なことがあります。自社製品と競合他社の製品とか、新商品と過去の商品とか。そのとき、似ているようにみえて、本来は比較すべき対象ではないものを比較してしまっていることがあります。
そんなとき、こんな風につかいます(↓)
外資系では比較的よく使われる表現でしたので、覚えておくと便利です。
《時事ネタ用語 「パリティ(parity)」》
タイムリーにも、日経電子版の記事にこんな見出しが踊っていました。
パリティの綴りは parity。こちらも ラテン語 par の仲間です。
というわけで、この一文がわかりやすくなります。
語源のまま(笑)
この文章から綴りがわかったので、意味も含めてかなり納得。絶対忘れません。
《ターゲット・シス単関連語》
22. increase [14] 大きくなる → 増加する
increase は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「crease」で、ラテン語 cresco = 大きくなる、育つ が元になっています。
たとえば、音楽用語の クレッシェンド (crescendo)は、音がだんだん大きく(≒ 強く)なっていきます。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)が加わります。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
-ly がついたときは、「〜のように」という 副詞 のサイン。
「副詞」は、ほぼ「形容詞 + -ly」という公式でできています(笑)。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞なし》
《ターゲット・シス単関連語》
ラテン語 cresco は「産む」という意味の creo から派生してできた言葉です。creo の仲間は「379. creative」でご紹介予定です。
23. suggest [16] 下から運ぶ → 提案する/暗示する
suggest は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「gest」です。
これは、ラテン語 gero = 運んでいく が元になっています。
たとえば、「ジェスチャー(gesture)」 はなにかの メッセージを運んでくれる 手足の動きです。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)が加わります。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞あり》
アタマが変われば、時空(条件)が変わる。
《ターゲット・シス単関連語》
まとめ
《公式》 英単語 = アタマ × カラダ × シッポ
たとえば日本語って、常用漢字を知っていると、メチャクチャいろんな言葉が読めたりわかったり憶えられたりするようになりますよね?
じつは英単語も同じなんです。
大学受験の ムズカシイ英単語は、とってもカンタンな<公式>でできています。
英単語は、おもに3つのパーツからできています。
ムズカシそうな英単語の多くは、こんなシンプルな掛け算でできています。
この行動パターンがわかってくると、英単語が格段にわかりやすくなります。
(綴りを見ただけで、意味や品詞がなんとなくイメージできるようになります!)
なぜ、この【ゆる補習 note】では、いちいち「ラテン語」を持ち出すのか。
それは、英単語にこんな上下関係があるからです。
でもね、今すぐに全部わからなくてもいいです(笑)。
オトナになって「英語を使いたい!」と思ったとき、こんな法則があったことを思い出せれば、それで大丈夫。そのとき役立つこと間違いナシです。そしてきっと「あのとき学んでよかったな」と思えることでしょう!
アタマ × カラダ × シッポ の法則 はマルチに応用できるので、
社会に出て実際に英語を使う際にかなり役立ちます!
いまでもわたしは —— 受験や仕事で、あんなに英語で苦労する前に —— この法則を知りたかったなあと、心から思っています。それが、ほぼ半世紀を生きてきた、
今のわたしの原動力です。
詳しくはコチラを見てね!(↓)
→ 使いかたが「わかりにくいなー」と思った時は、お気軽にコチラまで!
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オマケ
① インド・ヨーロッパ語族の系統図
英語はもともとゲルマン語の仲間。このため日常語はドイツ語やオランダ語によく似ているものが多いようです。
これに対して、英語のビジネス用語や学術用語の多くは古代ローマや古代ギリシアの知見をベースにしており、文化や概念を言葉ごと輸入したという構図です。
(日本語にカタカナ語や漢語(漢字熟語)が多いのに、ちょっと似ています。)
これがわかると、将来英語以外の西洋語を勉強するとき役立ちます!
最後に
今回も接頭辞や接尾辞の一覧表をご紹介したりしましたが、これを一字一句覚えようなんて無駄です。そんなこと、ゆめゆめ思わないでくださいね。
「あ、そんな原則があるんだ!」
ということさえわかっていれば、そのうち慣れますのでご心配なく!
この記事が、ほんの少しでも英語を楽しく学ぶお役に立てれば幸いです。
「超」長文をお読みくださってありがとうございました!
今日もどうぞ良い一日を🍀
心より感謝を込めて
夏野 真碧
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*すべてのお便りにお返事できないこともありますが、
いつも楽しく拝読しております。
ほんとうにありがとうございます!
《主な参考文献》
① 英単語ターゲット(旺文社)
② システム英単語(駿台文庫)
③ 語源辞典(おすすめ洋書)
いちばんお気に入りの語源辞典。
前回放送ではバラけて「使えなくなった」とされていましたが、過言です(笑)。
テープと木工用ボンドとカバーフィルムで修復したので、まだ1代目は現役!
念のため、2冊目を購入して手元に置いてあります。
(潰して使えなくなったのは、ほかの英和辞典です!)
この語源辞典は誤植も多いのですが、内容が充実していて、ストーリーもわかりやすいので、本当におすすめです。
④ 英英辞典サイト
⑤ 英和辞典サイト
⑥ 英英辞典アプリ
⑦ 羅和・希和辞典
⑧ 羅英・希英辞典サイト
シカゴ大学運営。
羅英辞典 Lewis & Short や希英辞典 Liddel, Scott and James (LSJ) が無料で調べられます。
⑨ その他(紹介順 + α)