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月々のうた

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毎月つくった自選短歌をピックアップしてまとめています。
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月々のうた:2024年4月

きみ型にあいた心の穴だから埋めればそれはキミなんだろう ほんとうの願いをひとつだけ持てば綿毛のようにあなたは飛べる 普段着を死装束として君がまたねと言って離す僕の手 エピソード1を聞かせて続編のようにあなたの遠いはつ恋 対岸が見えない川で君の名を呼べば世界はやさしく滅ぶ 1か月過ぎるのが速すぎますよ。ついこの間まで桜が桜がと言っていたのに気づけば5月。どうしてこんなに速いのか。 連休までの仕事前倒しのあおりで4月は引き続き繁忙モードだったこともあり、うたの日への

月々のうた:2024年3月

別れてはいけない人なんていない珪土マットにひと知れず水 踏まれたら野道になって夏草の露であなたを少し濡らそう 低反発枕は戻るゆっくりと揮発していく夢を惜しんで くちびるを裂かず言葉は舌先へ残り噛み砕くにはいとしい 後ろ手をほどいて受ける雨よまだあがるな銀の線で突き刺せ はい、3月も終わってしまった!新年度! 思えばこの3月は、私の人生でも特筆すべきさまざまな出来事の連続でした。ありすぎました、ほんとうに。辛いことと嬉しいことの、その極限的なパワーで両極へと、本当に

月々のうた:2024年2月

人類の二足歩行のメリットはわずかに空へ近づけること 大切なひと大切なわたしたちだった白夜のようなアパート 左利きの君は右腕から洗うGAFAの知らない個人情報 止血した愛は願いを閉じ込めて受粉のままに膿んでいくのね 舌先がきみを知ってる味噌汁の味も奥歯の治療のあとも 気づいたら2024年の2月が終わってしまいました。もう3月ですよ? なんだろう、いつもより早く回ってるんじゃないか?地球…。そんなに頑張らなくてもいいからもっとゆっくり回ってくれよ。本当に。 さてこの

月々のうた:2024年1月

履歴書の空白にある何者でなくとも君が戦った日々 娼婦風パスタの風だけを集めて嵐、私は私のままだ ぼくたちは背中合わせで見つめ合う地球を愛の証人として 春待たず落ちる椿の音のごとゆっくりとあなたへと歩けば なにもかも再生される歌のなか君だけいないエラーに、風が 2024年、さいしょの月。 数えてみたら、うたの日やこのnote、suiuなどで33首を詠んでいました。そのほか自主トレみたいに作ったものや折々に書き散らかしたもの、ピーマン歌会の月詠などで100首以上、なん

月々のうた:2023年12月

くち元で冬の終わりを温めた手は君の手へ春を告げゆく 一度だけ躊躇いたくて言い訳を希釈していくゆびさきに夜 この世界がいいのだなんて震えてる、睫毛、あけてよ旅は朝焼け 交わさないことばを抱え降り立った海へと雪は音もなく音 女子じゃなく男子と書いてスキと読む国であなたを好きになりたい ようやく2023年の12月の歌をまとめました、の自選歌5首です。 ここ数ヶ月は発表短歌が月で20首程度、あとは詠んでも放っておいたり、いちごつみや非公開のオンライン歌会などで詠んだものだ

月々のうた:2023年11月

鉄橋を渡る通勤電車より鴎、だろうか、知らないけどさ 白線のうしろに垂れた向日葵へ陽射し、もうせーので跳べない 血液の歌うごと流れる速度きみを迎えに行く夜は晴れ 神様はいることにする信号の向こうで君がこっちに気づく さよならのかわりに海の家だった砂辺で波の音を聴きます 街路樹を四角い土が懸命にここは地球!と励ましている 九月、十月からのスローペースは相変わらずで、でも思いのほかこのペースが馴染んでいて、あぁこれくらいなのかもしれないな、私は、と思い始めています。本

月々のうた:2023年10月

泣き顔はどの棚に仕舞ったろうか初めてなんだ少し待ってよ 人類の絶えたよる金木犀が運んだこれは宇宙の匂い あかつきに飛行機雲を輝かせまわる糸車として地球 手も足も目さえなくともLOVEはLOVE雨の音にも好きの成分 百日め珊瑚の首飾りを外す海になったと信じる儀式 ブランコの異邦人にも爪先は誰のものでもなく青の国 九月に続き、心がわちゃくちゃになっていた月でした。悲しみの総量が多すぎて様々なことが追いつかず、短歌を詠む数もめっきり減ってしまった。けれど、というか、だ

月々のうた:2023年9月

その針が幻である証明に抱きしめますね、ハリネズミさん 印象派みたいな雲に固着した八月をまだ許していない 人生が二度もあっては逝く甲斐もねえとばあばは漬物を切る 高橋が鈴木佐藤と落ち合って伊藤を呼んだ串カツ田中 雨の日に開けてください合鍵を預けて曇を心へ満たす 義父さんを下の名で呼ぶ、ドアミラー越しに赤信号が遠のく ほんっとうに詠まないというか詠めない九月でした。 まぁいろんなことがあり過ぎたので仕方ない。裏で色々作ってはいたのですがそいつらはまぁ、発表できないの

月々のうた:2023年8月

泣きごとは生きること手を握ること旅客機の灯を滲ませながら すれ違う渡り廊下で手を振ればその日おそらくスカートは風 光さす百葉箱だこの部屋の午後は寝息で永遠になる まだ飛べるまだ飛べるよと手を広げもう鳥たちの去った夜空へ いく夏に翼をもたぬ僕たちは雲の落とし子のなか走った くちびるの西瓜の露を拭いとる指を噛んだら真夏の遺影 八月もなんだかんだで一日一首ペースでした。うたの日にはあまり顔を出さず、自分のペースで自分のうたを作っていた月だったと思います。中でもCDTN

月々のうた:2023年7月

世界一ちいさな海はあふれだすボトルメールのような返信 残弾がゼロになるまで過去形を撃ち尽くしたら愛し合おうよ ブランコを漕いで宇宙へ飛んでこう宇宙いくから学校休み 感情の標本箱にさみしさの新種を入れる、泣きおわったら 瞬きで星と話しているのだろうホームの隅で蛍光灯は 仕事もプライベートもずっと忙しく、そんな中で詠んだ歌は7月で30首でした。なんだかんだで一日一首なんですね。 もしかしたらリソースが限られてきた時に、なにかこう、自分がむしろ絞り出されるのかもしれない

月々のうた:2023年6月

純の字を冷たく書いていくようにプリンを指でかきまぜている 夕闇に砕けた片割れのグラス飛び散るifを無数に映し 満ち潮は月の涙の代わりだと呟くひとと靴を脱ぎあう 太陽の孤独は誰があたためる麦藁帽を海に放ちて 高音が裏声になるあの感じなんだ恋へと変わる瞬間 君が押すタイムカードの音を追いただsukidesuと打つキーの音 相変わらず低浮上の6月でした。 Twitterで開催される短歌イベント、とても興味があるのだけど、どうにも横目で見ながらの毎日で、あーなんか本当に

月々のうた:2023年5月

また歩き出せたらきっとその時は優しく忘れていくよ、許して 終点の光もただの光だし光の中をうちへ帰ろう 憂鬱のブルーは空の青とする飛ぶためいっぱいいっぱい沈む 採れたてのレタスみたいなくちづけで始まるきみの緑化政策 赤い糸たどった先はグラグラの歯ですが抜きます?結婚します? Beautyの内臓だろう真夜中のドラッグストアへ迷い入れば 雨の多い5月でした。 先月のまとめをした時に、「カッコつけない盛らない」「自由に詠むのはいいが伝わるようにちゃんと考えろ自分」を目指

月々のうた:2023年4月

エイプリルフールの海に告白が沈まぬようにもう一度言う 心音に桜が揺れて血流は散った花片の銀河となった 歩いても歩いてもなお鶯がぼくの命を見つめては鳴く マンションは大きな魚おふとんが鱗のように干される夏日 5時5分枕の上にiPhoneと作り笑顔の残骸がある 彼女歴5年目の空のほほんと青を続ける空に降れ、雨 本当にあっという間に4月が過ぎ去ってしまった。速い、めちゃくちゃに速い、なにこれ…。 月のまとめを作るときに考慮しているのは「その歌が出来たとき楽しかったか

月々のうた:2023年3月

満たされて眠る二匹の獏だろう互いに夢を食べた僕らは 折り返し君へと帰る電車にはあの日の海と行き先にある 輪唱が追いかけてくる三十人三十一脚ダークダックス 傘の先まで届かずに告白が滲んでしまう雨の行間 記憶にはない顔をした春、夜毎カメラロールにキスをした春 君がまだ君だった頃くちびるはこんなに赤く熟さなかった 玉葱のせいだ三つも刻んだしスープがこんなにしょっぱいとかも 3月が終わりました。 比較的のんびりペースだったのは実体の仕事が結構忙しく(年度末!)、作歌に