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やってみなきゃわからないし、やらせてくれなきゃわからない


数年前、近くの農業の研修施設で女性の働き方について、今の自分の仕事をなぜやることになって、どのようなことをしているか、ということを先輩女性農業者の方たちと話す機会があった。


今のように新規就農ということがまだまだ珍しかった20年近く前は、その研修施設に来るのはほぼ男性で祖父母が農業をやっていたのでその農地を使ってやりたい、という事例が多く、Uターンで新規就農、親元就農という話が多くて、地元につてもなく資金もない独身の女性で農業をしたいというのはいなかったので、どうやって農業をやればいいのか、ほとんどがどこそこの誰々が年齢が近いから嫁に行くといい、という話になった。


夫と知り合う1年間ほどのいろんな農村に行ってほとんどそういう話しか出ず、最終的に農家の後継者の夫と結婚したので、もしひとりで農家になっていたらすごい事だったろうなと思う。


夫との出会いのことを書くのは時間がかかるので、結婚してからの仕事のことを書くことにすると、まあ、結婚妊娠出産で瞬く間に時間が過ぎていった。


私が人とは違うのは、私自身が新規就農者の意思があって出産ギリギリ、なんなら母体が丈夫だったので出産予定日を過ぎても出てくる気配の無い我が子を出すために、ちょうど稲刈りの後半だったのでひたすらコンバインに同乗して振動を与えて10日予定日を過ぎてやっと出産(予想外の帝王切開、だいぶ前から子どもが動き回って首に臍の緒が巻きついていたため)。

産後本家の長男の子どもということでノイローゼになりながら親戚のお祝いの対応をしてから、子どもをそばにおきながら仕事に戻って、できることをとにかくやっていって、第二子まで現場から離れなかったこと、だろうか。


私がそこまで現場にこだわったのは、もともとが、牛飼いになりたくて畜産農家のもとを回ってあるいたことが大きい。


牛の出産の現場も過酷で、もし逆子だったら獣医師が来る前に自分で産道に手を突っ込み牛の脚にロープをくくりつけ、引っ張ってお産のサポートをする。


これは、ベテラン農家さんたちがやっているから見ていられたけれど、自分がその場に立ってできるかといったら、ひとりでは怖くてできないかもしれない。

その現場の感覚は、子どもの世話をして外界と遮断されると、農作業の現場もたやすく忘れさせるものだったので、すぐに逃げ出すだろう自分をそこへ留めるために追い込んだものだった。


私はもともと都会育ちなので、日常にその感覚がない。だから、どんな時でも自分が農家だと刷り込むのにはかなり効果的だった。


それから子どもたちを子ども園へ預けて仕事に専念できるようになるまで何年もかかったけれど、その時徹底して自分に仕事をさせたのは、いずれ子どもたちは手を離れるけど、仕事は積み重ねていく、職人のような現場感覚が大きいというのがいろんな先輩農家さんを見ていてわかったからだ。


そんな自分が農家と結婚したことを悔やんだことは、「農家の嫁」としてお茶出しをしたり、雑用ばかりさせようとして、研修生よりも現場から離されることになったことを実感した時だった。


同じ女性が研修生としてうちの農園に来た時、その人はトラクターなどの機械作業を教えるけれど、嫁には絶対に乗せることを許さなかった義父をみて、あぁ、この人は嫁にくればいい、と容易く言ったけれど、自分の手足になる人足が欲しいだけで、一人前の農家がそばに欲しい訳ではなかったのだと悟ったのだ。


それは同じく後継者の息子にも求めたことで、自分の手足となればいい、自分の思う通りに動け、というのが望みで、自分の思ったことと違うことをやると人格否定までするような怒り方をした。

今でもそうだ。


それではなんのために、私は農家になったのか。


だから、夫にトラクターに乗せろと言い、毎年数時間ずつ練習し、今は一人前になれてはいないかもしれないが、稲刈りのサポートで田植え機にもコンバインにも乗れるようになり、仕事がスムーズに回るようになった。

コロナ禍だというのに自分勝手をする義父を退けて夫婦2人で農業経営をするようになった。

先輩農家さんと研修生たちへ話をする機会があったのは、そんな頃だった。

先輩たちは、農業なんか嫌だったけど、やらなきゃいけないようになり、やってみたら面白くて、知らないことがあったら仕事にならないから知るように現場に出るようになったと言っていた。

研修生から質問で、この仕事は男性向き、女性向き、というのは、ありますか?と質問が来た時、私は思わず笑ってしまった。

やってみなきゃわからないですよ、と。

そして、やらせてみないと、できないかどうかもわからないですよ、と。

性差が大きいように思えることでも、実は個人差が大きいし、慣れるまで時間がかかってもできる人はできるし、苦手でできない人もいる。

トラクターに乗るのは男の仕事と思っても、私は北海道ででっかいトラクターに乗りたくて農業学校へ行った女性が誰よりも乗りこなしてるのをみたし、繊細な出荷作業をテキパキこなす男性も見た。

その人の適性がどこにあるかなんか、やってみなきゃわからない。


ましてや、やらせようとしなければ一生やる機会もないまま、やれるかどうかも分からず終わる。

自分たちがどのような形態で仕事をするのか、そのためにどちらのどの能力が有効なのか、そこをずっと探ってやっていくのが、少人数なら良い。


大規模になるとまた別の話になるので、そこはおいておいて。


自分で考え動くことをやめずに、諦めずにやること、そこに性差はない。


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