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卒花して、「唐揚げにレモン」的にバッサリショートにした

2020年の1月に入籍をし、10月末に家族だけの小さな結婚式を開きました。
夫と出会ってから、プロポーズ、入籍、結婚式、と、いくつかの記念日が出来たけれど、個人的に最も節目感があったのが結婚式でした。

家族の温かい祝福を受け、幸せをかみしめると同時に、身の引き締まるような思いがしたのを今でも強烈に記憶しています。

結婚式が終わり、ふと、無性に、長い髪をバッサリ切りたくなりました。
それは、新しい居場所を東京に作ることができたから、だったと思うんです。

***

「髪、ショートにしようかなあ」

「ええやん。長くても短くても、似合うと思うで」

「でもね、癖毛だし毛量も多いし。ショートにしたいって言うと必ず止められるか、やんわり嫌がられるんだよね」

長い髪を短くするということは、一定期間は元の姿に戻れないということです。
腰ほどまである髪をまた同じ長さまで伸ばすには、数年はかかるでしょう。
もしかしたら、「短いほうが楽だから」と言って、この先ずっとショートでいるかもしれない。

ドラマ『カルテット』で家森さんが言うところの、「唐揚げにレモン」状態。バッサリショートは、不可逆なんです。

人生には、唐揚げにレモンしたくなる時が必ずある。
ショートになりたい欲が沸くたび、幾度となく、美容室でやんわり断られ続けてきました。

硬い髪質だし、癖毛だし、たとえ切ったとしても毎朝スタイリングを頑張らなくちゃいけない、ロングのほうが扱いやすいよ、と。
その度に、「じゃあ、長さそのままでちょっと雰囲気変えたいです」と拗ねたオーダーをしていました。

私にとってショートヘアにすることは、ただのイメチェンではなく、後戻りできない大冒険なのです。

そして、その大冒険に対して背中を押してくれる美容師さんはなかなか現れない。ショートに最も向かない髪の毛と言ってよいほど、難儀な髪なのだから。

「でも、ショートにしたいんだよなあ」

***

どうして私は、あんなにも髪を短くしたかったんだろう。

ヘアスタイルを変えるということは、多かれ少なかれ、その人の社会性を変えるということでもあります。

きっと私は、結婚式を終えて、私自身の「妻」「嫁」という、新しい社会的立場を受け入れることができたのだと思います。

お義母さんが新婦入場した瞬間に号泣してくれたり、私の両親がにこにこ美味しそうに祝い酒を飲んだりしているのを見て、「あ、こんなに素敵な居場所ができたんだ」とうれしくなりました。

いつでも帰っておいで、と言ってくれる家族がある。
これから先の未来を共に切り拓いていく、パートナーがいる。

だから、もう、大丈夫だ。
大丈夫。

大好きな編集職を一年で退職、住み慣れた大好きな仙台から東京へ引っ越し。コロナ禍、ワンルームふたり暮らし……。
目まぐるしい環境の変化とともに新婚生活を過ごし、文字通り、それ以前とは世界の見え方がまるで変わりました。

家族の在り方も、日々の過ごし方も、すっかり変わったのに、私自身はどうだろう?

身体だけ、どこかへ置いてけぼりになっているような感覚。
まだ、仙台でやりたいことが沢山あった、その未練が、消化不良を起こして残っていたのかもしれません。

力になれなかった申し訳無さや、やるせない気持ち、後ろ髪を引かれるような気持ち。

けれど、結婚式の日、バージンロードを歩いた私は、後悔と謝罪の気持ちを「ありがとう」に変えて、次の一歩を踏み出しました。

だから、どうしても髪を切りたくなった。

そんな時、以前からインスタをフォローしていた憧れの美容師さんが、
「カットモデル募集! ロング~ミディアムで、バッサリショートになりたい方!」
と募集しているのを発見してしまいました。

うおおお!チャンス!!! と思った2秒後にはDMを送信。
もちろん、「ショートヘアに不向きな髪質ですが」という言葉を添えて。

そしてなぜか最終候補の2名に選ばれました。
お店に伺い、骨格などを確認してもらうと、

「髪質的に、お姉さんの髪はむちゃくちゃ難易度高いので講習用モデルにぴったりなんです! 難しいけど、きっと似合います。僕なら可愛いショートにできるので、是非任せてください!!」
と言われ、バッサリショートにすることが決まりました。

まさか、私の難儀な髪質が選定理由になるなんて思っていなかった……。
しかも、ずっと前からSNSで見ていた美容師さんに切ってもらえる……。

ラッキーすぎんか???
心機一転の第一歩、むちゃくちゃ縁起よすぎないか???

***

当日は、営業終了後のお店に伺い、新米美容師30人に囲まれながらショートヘアになるという滅多にない体験ができました。

「モデルさんの髪の毛、本当に難しい髪質なのでぜひ触って確認してください!」という担当美容師さんの言葉があり、
30人の美容師に代わる代わる「失礼します!(触る)……おおお~~(驚愕)」という流れを繰り返され、恥ずかしいやら可笑しいやらで笑いが止まらなくなりました。

後方から若い女性の「かわいそう……」という哀れみの声まで聞こえてきました。
いやそこまで行くと流石に失礼すぎん?? という気持ちが沸いたりしたりしたりして……(根に持っている)。

鏡の前に座り、まわりをぐるりと新米美容師たちに囲まれながら、ケープがかけられました。
いよいよカットが始まるようです。

断髪式を大勢の観客に見守られる、横綱の気持ちってこんな感じだろうか……。
引退セレモニー感あるな……。

そんなことを考えている間に、華麗な手さばきで私の髪はどんどん短くなっていきます。
いいぞ、似合うぞ、ショート。

30分ほどで断髪式が終わると、見守っていた新米美容師さんたちから大きな拍手を受け(拍手を受けているのはカットを担当してくださった美容師さんだけれど)、「かわいい~~!」という大向うのような掛け声までいただきました。

うっれしかった~~~!!

「かわいそう……」とこぼしていた彼女が、帰り際には、小声で「かぁわいい……!」とこぼしてくれて、もうめちゃくちゃ嬉しかった。

変化した環境に、身体ごとついていくために切ったのかもしれない。
媚びた愛嬌を削ぎ落して、素直でいられるように切ったのかもしれない。
後悔をちゃんと、断ち切りたかったのかもしれない。

切った理由は「垢ぬけたい」とか「可愛くなりたい」だけじゃない、もっとドロッとしたコンプレックスや陰から生まれる欲求も含まれています。
それを受け止めてくれる美容師さんという職業を、心から尊敬します。

後ろ髪を引くような髪はもうありません。
残ったのは、シャンプーを多めに出してしまう習慣くらいです。

新しい居場所ができて、それを受け入れることができた。
「髪が長くても短くても好きだよ」と言ってくれるパートナーができた。
「仙台に戻りたい、逃げたい」から、「頑張ろう。疲れたらいつでも帰って良い」になった。

愛する新しい世界で生きていくために、退路を断つために。
私は、「唐揚げにレモン」がしたくて、バッサリショートになりました。

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