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「ファースト・カウ」

 年の瀬、一年の締めくくりに映画「ファースト・カウ」を鑑賞。
 いまの時代においてはおそらく観る人を選ぶだろうけれど、大変に素晴らしい映画だった。ケリー・ライカート監督に最大の讃辞をおくりたい。

 静謐さの中にすべてがある。
 特別な説明もなく、とりたてて派手さもなく、台詞にも無駄がない。鬱蒼とした森も夜の暗さもどこまでも嘘がなく、そのぶん灯る明かりや景色のひとつひとつが活き活きと描き出される。抑制が生む雄弁さ、表情の織りなすもの。
 丁寧に重ねられた生地のように話が進む。
はらはらとする緊迫の場面も画はあくまでもその温度を保ち、それがかえって場の空気を如実に伝えるよう。

 育まれる必然の関係性は、物悲しくもあたたかい。開拓時代を描きながらも、普遍性を帯びたテーマがそこにある。散りばめられたコンテクスト、とりわけおおまかにでも時代背景が読み取れると、さらに滋味深さを味わえると思う。
 ラストも秀逸。とにかく余韻が後を引く。
音楽もまた素晴らしい。

 華やかな所謂エンターテインメント大作とは真逆に位置するこの作品が、4年の月日を経て日本にやってきたことに、心からの感謝を。

 ちょうどミルクがあるし、ドーナツ作ろうかな。懐かしい味のするドーナツを。

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映画感想文

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」