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【あとがき特別公開】自らを知り、最適な環境を作り出すヒント。『ADHD2.0 特性をパワーに変える科学的な方法』

エドワード・M・ハロウェル博士とジョン・J・レイティ博士は、30年近くも前に、『へんてこな贈り物―誤解されやすいあなたに―注意欠陥・多動性障害とのつきあい方』(原題:Driven to Distraction)という本を著し、世界で100万部以上を売り上げた、ADHDの第一人者です。そんなお二人の2021年発行の著書『ADHD2.0: New Science and Essential Strategies for Thriving with Distraction--from Childhood through Adulthood』の日本語版が、9月19日、ついに発売となりました。
ご自身もADHDを持つというお二人が、ユーモアにあふれた筆致で、最先端の医学的知識に裏付けられた実践的な内容を紹介した本書。
原著を読み、ぜひともこれを日本で紹介したい!と、熱意をもって翻訳に取り組んでくださった、橘陽子さんによる「あとがき」を特別公開します。

『ADHD2.0 特性をパワーに変える科学的な方法』
エドワード・M・ハロウェル+ジョン・J・レイティ=著
橘 陽子=訳 榊原 洋一=日本語版監修

翻訳者あとがき

本を手に取ると、私はつい「あとがき」から読み始めてしまう。この行動が図らずも本書の終盤で予想された「結論を先に知りたがる人」と重なったので、ふふっと笑ってしまった。確かにせっかちな方法なのかもしれない。でもどうだろう。巻末の文章が読書の道標(みちしるべ)になるのは、割とよくあることのようにも思える。心理学の分野にとって実に意義深い本書の力を借りて、そんな道標を私もここで示してみよう。

本書の原題は『ADHD 2.0: New Science and Essential Strategies for Thriving with Distraction--from Childhood through Adulthood』という。直訳すれば「ADHD 2.0:気の散りやすさとともに成功するための最新科学と必携戦略――子どもから大人まで」とでもなるだろうか。
原書は2021年1月に発行されていて、米国アマゾンの販売ランキング、とりわけ児童学習障害のジャンルで上位を保ち続けている。
現役の医師でハーバード大学で長く教えていた2人が書いた集大成のような本だということで、米国内では大きな反響を呼んだようだ。著者のひとりレイティ医師は、かのベストセラー『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(NHK出版)の著者でもある。また、英語圏の書評サイトでも、本書はADHD関連書籍の中でよく上位に選ばれている。

原書には、日本では少し厳しく響いてしまうかもしれない言葉もあって、その辺りは米国式のドライなジョークも日本の読者が受け取りやすくなるように努めて訳したつもりだ。ともあれ、気にせずに先を読んでみてほしい。そうするときっとその奥の価値が見えてくる。

本書は言ってみれば、どこを食べても栄養の摂れる幕の内弁当のような本だといえよう。かつて大学で臨床心理学を学んだ私にとっては、特に2章および3章の脳の仕組みや、4章のつながりの大切さを説いた箇所が興味深かったが、人によっては6章の栄養の項で砂糖・小麦・乳製品などの影響を知ることが解決を導くかもしれないし、7章の運動療法を今すぐ役立てられる人もいるかもしれない。8章の薬物療法の説明を読んで一歩踏み出す人もいるかもしれない。気になる章に目を通すだけでも、何かしら役立つ情報に出会えるはずだ。

早くからADHDの研究が進められた米国では、本書のような書籍も数多く出版されている。今後もっと多く訳書が出ることを願うばかりだ。本書では著者のひとりハロウェル医師が中国に住む少年をメールで治療しているが、日本語と英語、日本と米国の間には、より大きな言語の壁があるように思える。本書のようなヒット作でも日本語版がなければ知られない。役立つ知識が言語を超えて素早く広まり、当事者も周囲の人も一度きりの人生をもっと楽しめる世の中になってくれたらと思う。

この訳書を出すにあたってはまず、私の心理学的基礎を築いてくれた横浜国立大学の先生方と学友の皆に感謝したい。長くかかったけれど当時の基礎のおかげで私も少しはこの分野で役に立てたかなと思う。そしてもちろん出版までを支えてくれた、バベル翻訳専門職大学院の中道先生と皆さん、監修の榊原先生、編集部の柳沢さん、私の家族にも、心から感謝したい。本当にありがたい限りで、この本が世に出るのもこれらすべての人とつながれたからである。そんな「つながり」の力は言うまでもなく本書の重要なメッセージでもある。「つながり」と科学で開く未来はきっと明るい。


ときに想像もつかない偉業をやってのけるのは、
誰も想像のつかないような人物だ


気になった方はぜひ、本書をお読みください!

■目次

はじめに
第1章 特性のスペクトラム
第2章 脳の悪魔を理解する
第3章 小脳のつながり
第4章 つながりの持つヒーリング・パワー
第5章 最適な課題を見つける
第6章 素敵な環境を作り出す
第7章 運動のパワー ―― 動いて集中、動いてやる気
第8章 薬物療法 ―― 恐れられるほど鮮やかな効果
第9章 まとめ ―― 感覚をつかんで実現しよう

■著者

エドワード・M・ハロウェル
精神科医。
ハーバード・カレッジとテューレーン医学大学院を卒業、ハーバード医学大学院で21年にわたって教員を務める。ジョン・J・レイティとの共著書、『へんてこな贈り物―誤解されやすいあなたに―注意欠陥・多動性障害とのつきあい方』(Driven to Distraction)により、ADHDへの理解を革新的に広める火付け役となる。「ハロウェル・センター」をボストン・メトロウェスト、ニューヨークシティ、サンフランシスコ、シアトル、パロアルトに設立。

ジョン・J・レイティ
医学博士。
ハーバード医学大学院で臨床精神医学の准教授を務める。エドワード・M・ハロウェルとの共著書のほか、『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(Spark: The Revolutionary New Science of Exercise and the Brain)を著し、脳と運動のつながりに関して世界をリードする。マサチューセッツ州ケンブリッジとカリフォルニア州ロサンゼルスの2拠点で個人診療を続けている。

■翻訳

橘 陽子(タチバナ ヨウコ)
翻訳家。横浜国立大学教育学部生涯教育課程カウンセリングコース卒業(学士〈教養〉、臨床心理学)。バベル翻訳専門職大学院修了(米国専門職修士、文芸翻訳学)。1 級翻訳士( J T F )。人の心に訴える翻訳と心理学を好む。

■日本語版監修

榊原 洋一(サカキハラ ヨウイチ)
1951年東京都生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部講師、東京大学医学部附属病院小児科医長、お茶の水女子大学理事・副学長を経て、現在、お茶の水女子大学名誉教授。医学博士。著書に『最新図解ADHDの子どもたちをサポートする本』 (ナツメ社)などがある。

■書籍概要

『ADHD2.0 特性をパワーに変える科学的な方法』
エドワード・M・ハロウェル+ジョン・J・レイティ=著
橘 陽子=訳
榊原 洋一=日本語版監修
体裁:四六判/360ページ
価格:1,870円(本体1,700円+税10%)
発売日:2023年9月19日(火)
発行:ナツメ社



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